スクールライフ
次の日、レンはエスティーによって、エンシャント学園の制服に着替えさせられていた。今日はレンの初登校の日である。天気も快晴で、雲一つ無い、まさに絶好のお散歩日和だったが、当のレンの表情は曇天模様だった。
「どうしたのレンちゃん?」
エスティーは心配そうにレンの顔を見ていた。
「どうしたもこうしたも。何ですかこれは・・・・」
レンは鏡で自身の制服姿を見ていた。悔しいが、鏡に映る少女は綺麗だった。自分が普通に町中で見かけたら、確実に好きになっていたであろう外見をしていた。例え、良家のお嬢様だと言っても誰も疑わないだろうし、女子用の茶色の生地の制服もスカートも、とても似合っていた。制服の胸元に付いた大きなリボンと、脚がスースーするスカートに眼を瞑れば、着心地もそこまで悪くは無かった。
「可愛いわレンちゃん。これはきっと男子も放っておかないわね」
「嬉しくないし・・・・」
「さあ、行きましょう。私が学園まで案内してあげる」
エスティーに手を引かれ、レンは強引に外に出された。元々、目立つのは嫌いなレンのことだから、こうやって知らない人達から視線を浴びるのも苦痛だった。グリーンマイルの人達は、見慣れない制服美少女の姿を見て、コソコソと何かを噂していた。中にはあからさまに、レンの姿に見惚れている男もいたし、事実、長い後ろ髪を風に靡かせながら歩くレンは、町一番の美人と名高いエスティーと並んでも、なんら遜色無く見ることができた。
「この坂を登れば、エンシャント学園の校門よ。うふふ、楽しみね。新しい友達と出会えるの」
「へ、へえ。凄いですね。うん、本当に楽しみ」
レンは真顔だった。心なしか、言葉に感情が籠っていない気がしたが、エスティーは気付いていなかった。
「それじゃ、私は店に戻るから」
「本当に行くんですか?」
「ええ、ジンが話を進めておいてくれたのよ。学費も免除だし。通わないと失礼でしょ」
「はあ・・・・」
レンは覚悟した。この長い坂を登ることを。
エンシャント学園、それは小等部から高等部まで存在している全寮制の学校である。ここでは数学や国語などの最低限の知識から、魔法の基礎知識などを学ぶ。魔道士の専門学校ではないため。魔法の実技は無く、あくまでも教科書で知識を得るだけである。一般的な学校と比べてスクールカーストは強く、学力、品性の差も、生徒によって大きく異なるため、似た性質の生徒同士が互いに派閥を作ることも珍しくは無い。
「なあ、今日ってさあ、確か転校生が来るんだよな」
「ええ、そうみたいだけど」
劣等生の溜まり場として名高い2年Dクラスでは、朝のホームルームがこれから始まろうとしていた。変化の無い学生生活の中で、今日は転校生が来るという、非常に刺激的な行事が朝から待ち構えていたので、生徒達の話題はそれで持ち切りだった。
「噂では、女子らしいぜ。可愛かったら良いな」
「可愛く無くても、仲良くしなきゃダメよ」
Dクラスのムードメーカー、金髪に銀色のピアスを耳に付けたマックスと、黒い髪を一本に結んだ、見るからに真面目そうな女子生徒、フローラの二人は、席が隣同士ということもあって、ホームルームが始まるギリギリまで、コソコソと話していた。
「おい、皆来るぜ」
教室から廊下を見張っていた男子が慌てて戻って来た。コツコツと廊下に静かな足音を響かせながら、レンは教室に向かっていた。