悪運の強さ
強引に馬車に乗せられたギースは、乗り物の内部を見渡した。
(この鉄は、魔法を弾く金属でできているな。おまけに剣も無い今、今度こそ終わりか・・・・)
ギースが半ば諦めかけていたその時だった。馬車の内部に白い光が入って来た。それは人の形に変化すると、そのまま茶色のトレンチコートを着た、マネキンのように白い肌の男になっていた。男は生きているとは思えない生気の無い瞳で、ギースをじっと見つめていた。
「貴様、何者だ?」
「んふふふ、私の名はフレデリックと申します。一応人間でしたよ。遥か昔のことですが」
「何しに来たのだ。俺はもうじき死ぬのだぞ」
「私は善悪の区別無く、頑張っている人間を見ると応援したくなる達でして、本当はずっと傍観しているつもりでしたが、ゲームセットには早すぎる。あなたをここから出してあげようと思いましてね」
「本当か。そんなことができるのか・・・・」
フレデリックは口元を押さえて笑うと、急に真剣な顔付きになった。
「私は「統制者」という存在で、幾多の世界や次元、宇宙を自由に渡り歩くことができます。この無限に広がる世界で、不老不死の私にとって、退屈ほど恐ろしいものはない。あなたがここで死んでは、大事な楽しみが消えてしまいますからね。少しだけ手を貸しましょう」
フレデリックは指をパチンと鳴らした。その時である。突然馬車の中が業火に包まれ、そのまま馬は崖から落ちてしまった。当然、ギースも馬車の中にいたので、そのまま谷底に真っ逆さまに落ちてしまった。
「ただで生かしたらつまらないでしょう。それなりの努力はしてもらいますよ。んふふふふ」
フレデリックはそのまま光に包まれて天高く飛んで行ってしまった。
ディタール軍はホール砦を制圧すると、そのままさらに進軍を続けていた。長い道のりをひたすらに進んでいると、いつの間にか広い殺風景な荒野に辿り付いていた。
「リオン様。あそこに城があります」
物見の兵士が双眼鏡を片手に、荒野の真ん中に建造されている巨大な城を発見した。それは城塞と言い換えても良いかも知れない。居住のためではなく、正に敵を追い払う要塞として造られた物だった。
「ジェイ、あれは何だい?」
「はっ、あれは魔性の城と呼ばれている。グロス城と言います。あれはエクスダスの中継地点ですから、あそこを陥落させれば。我が軍は非常に有利になるかと」
「魔性の城と言ったけど、どういうことだい?」
「はい、別に美女が誘惑してくるというわけではございませぬが、あの城は、城それ自体が一つの兵器となっているのです。中に侵入するだけでも一苦労でしょうな」
「怖いが行くしかないかな」
リオンが号令すると、ディタールの軍勢は一斉にグロス城目掛けて突撃した。
グロス城内部では、見張りの兵士達が双眼鏡片手に震えていた。
「まずいぞ。あいつら。こんなところにまで進軍して来たのか」
「に、逃げよう」
「馬鹿か、逃げたら打ち首だぞ」
怯えている三人の兵士の首が一斉に跳ね上げられた。
「ふん、恐怖に慄く者は要らぬ。他の者にも迷惑だ」
首を失った兵士達は、そのまま後ろ向きに倒れていた。彼らの首を刎ねたのは、流麗な容姿をした女性だった。彼女は黄土色の軍服に身を包んでおり、髪は長い黒髪で、手には黒い革製の鉄鞭を持っていた。胸には赤い十字架、即ちエクスダスの紋章が印字されていた。
「魔弾砲を使う。狙いは敵の中心だ」
軍服の女性は鉄仮面を着けて顔を隠すと、城の機械を操作している兵士達に命令した。同時に城の真ん中に備え付けてある巨大な大砲が、ガラガラと音を立てながら、口の部分に青い光を集めていた。
「おい、何だあれ?」
一人の兵士が馬を停めた。巨大な大砲の先に青い光が集中し、それらは少しずつ大きくなっていた。そして突然、天を引き裂くかのような轟音とともに、青い極太のレーザーが発射され、グロス城を目指す兵士達を薙ぎ払った。
「ぐおおおおお」
リオンの体も馬から離れて空中に投げ出されると、そのまま地面の上に落下して、腰を強く打ちつけていた。
「ごほぉ・・・・」
衝撃で喉の奥から血と痰の交じり合ったものを地面に吐き出し、リオンは咽ていた。耳の奥からキーンッとした金属音のようなものが鳴り響き、猛烈な吐き気が襲って来る。視界がぼやけて、誰が誰なのかも分からない。ただ、背中が日に焼けて熱いことや、自分が倒れていることだけは理解できた。