レンの受難
レンは仁を見失うと、仕方なく、彼の言っていたコロンコロンというカフェーを訪れた。店内は小洒落たコーヒーショップのようで、カウンターがあり、丸い木のテーブルがいくつも備えてあった。
「いらっしゃい」
カウンターには茶色のスカートに茶色のエプロンをした、ショートヘヤーの女性がいた。その女性はレンの方を振り向くと、ニコッと愛想の良い笑みを浮かべていた。
(うわ・・・・美人だ)
彼女はレンのストライクゾーンを完全に打ち抜いていた。所謂、優しくリードしてくれるお姉さんタイプの女性だった。
「あ、あの、オレ、いや、私、仁って人から言われて・・・・」
緊張して言葉が上手く出て来ない。すると女性はカウンターから出て来て、再び優しげな笑みをレンに向けた。
「話は聞いているわ。私の名はエスティー、よろしくね」
「あ、どうも・・・・」
レンはペコリと可愛らしく頭を下げた。すると突然、エスティーがレンを両手でギュッと抱きしめて来た。
「ええ、ああ?」
自体が呑み込めず戸惑うレン。
「あら、ごめんなさいね。私ってあなたみたいな可愛い女の子が大好きなの。勘違いしないでね。変な意味じゃなくって、私、一人っ子で妹が欲しかったのよ。それでつい、あなたが妹だったらって、想像しちゃって。そしたら嬉しくてね」
レンは抱き付かれた時に感じた、柔らかな胸の感覚を生涯忘れないことだろう。
「さあてね、早速だけど、この雑巾でテーブルを拭いてもらおうかしら」
「ああ、はい。任せてください」
レンは雑巾を受け取った。同時にコロンコロンの中に客がやって来た。
「あら、いらっしゃ・・・・」
言い掛けたところで、エスティーの顔が強張った。そこには、とても客とは思えないような大柄の、顔に何本もの金属のボルトを刺した醜男がいた。
「客じゃねえよ。俺はなぁ」
大男は突然、右手を振り上げた。
「エスティーさん危ない」
大男の平手がエスティーの頬を思いきり打った。
「あう・・・・」
エスティーは衝撃で吹き飛ぶと、カウンターの中に逆さまに落ちて、そのまま床の上に仰向けに気絶してしまった。打たれた右の頬が赤く腫れている。
「き、貴様・・・・」
「ああ、何だよ。何見てんだよ。このメスガキが。畜生、この店の中はよお、メス臭いんだよな」
「メス・・・・?」
「ああ・・・・メスだよ」
レンの顔が怒りで引き攣っていた。男はそれに気付かずに、鼻をほじりながら欠伸をしていた。
「寝てろ」
「ごふ」
突然、男の体が店の扉に激突した。見ると、レンが思い切り男の顔を右足で蹴り上げていたのである。レンはそのままコーヒーグラスを手で掴むと、それを剣の形に変化させた。
「ムカつくぜ。クソが。せっかくエスティーさんと知り合いになれたってのに、お前みたいな蛆虫のせいで台無しだ」
「げほ、げほ。て、テメーも持っていたのか。キラキラをよお」
「ああ、キラキラだと・・・・?」
「そうさ。俺も持っているぜ」
突然、男が両手を広げた。すると店の天井のシャンデリアが突然割れて、ガラスの破片をレンの頭上に落ちて来た。
「ちっ」
レンはそれを避けると、剣先を男に向けた。
「仁さんが言っていた超能力って奴か。俺の親父も持っていたらしいしな」
「名乗っておいてやるぜ。俺の名はゲスラー。能力名はブルーインパクトと呼んでいる。念じるだけで、近くにある物質を破壊できるんだ。生き物は無理だけどな」
「そうかい。じゃあ俺も名乗っておこうかな。俺の名はレン。能力名はプリンス(今名付けた)という。良く分からないが、触れた物を別の物に作り替えられるみたいだ」
レンは剣を構えると、そのままゲスラーに向かって斬り掛かった。すると、ゲスラーはニヤリと口元を歪めて笑った。
「ブルーインパクト」
突然、レンの隣のカウンターに置かれていたグラスが一つ割れた。そしてその破片が、レンの頬を切った。
「ああ・・・・」
レンはバランスを崩すと、かろうじて床に足を付けた。