オレは男だ
一体いつになったら許されるのでしょうか。邪悪から生まれた子種は白か黒か。いずれにせよ生まれた命は、宿命と言う釜の中で燃え続けるしかありません。
視界の先に白くぼんやりとした斑点のようなものが映っていた。どうやら、かなりの間眠っていたらしい。重たい体を強引に起こして、正面に眼を向けると、半開きの眼でこちらを見ている、年齢的に14歳前後に見える少女がいた。それは栗色の長い髪の毛に、碧眼の大きな瞳をした。育ちの良さそうな、けれども幸も薄そうな、上品な顔立ちの美少女だった。
そっと手を前に突き出してみると、目の前の少女も同じように、手をこちらに向けて突き出して来た。少年が鏡の存在に気が付くのに10秒と掛からなかった。
「うああああ」
突然、素っ頓狂な声を上げて、少年はベッドから転げ落ちた。目の前の美少女は鏡に映った自分であると知ったからだ。慌てて自分の手足を確認すると、元々華奢だった体付きが、さらにほっそりと頼りないものに変わっていた。さらに、男のサガなのか、無意識にパジャマのズボンに手を突っ込むと、男の証が消えていることにも気が付き、よりパニックを強めてしまった。
「な、夢だ。そうだこれは夢だ」
少年はあまりの驚きで、現実逃避をしていた。念のため、パジャマの上から胸に軽く手を当ててみると、そこには成長途中の、やや控えめな膨らみが存在していた。胸元を開けて確認する勇気は、今の彼には無い。
「はあ・・・・はあ・・・・」
少年は立ち上がると、改めて周りの様子を確認した。彼のいる場所は、小さな部屋で、天井も床も全て白一色になっており、左側には鉄格子の扉があった。そしてベッドの正面には大きな鏡があり、それ以外の物は何も無い。あまりに殺風景な部屋だった。
「目が覚めたか」
鉄格子の扉がガラガラと唐突に開き、部屋の中にがたいの良い、20代後半に見える男性が入って来た。男はヘビのような鋭い眼つきをしており、少年はそれを見て、肩をすくめてしまった。
「悪い。脅かしちまったか」
男はぶっきらぼうな口調だったが、声色からは爽やかさと知性が感じられた。
「ここは・・・・?」
「ここは病院だ。聞きたいことはたくさんあるだろうが。まず一つだけ謝らせてくれ」
男は少年の前に立つと、突然深々と頭を下げた。
「え?」
少年は突然のことに戸惑っていたが、そもそも、先程から突然なことばっかりだったので、逆に妙な落ち着きを保っていた。
「君を殺して済まないと思っている。代わりにはならないと思うが、身体を再生させた。最もパーツが足りなかったので、有り合わせで作った結果、性別を間違えてしまったがな」
「はあ?」
少年はようやく意識がはっきりして来たのか、今度は頭の中で、メラメラと男に対する怒りを覚えた。理由は分からないが、この男は自分を殺した。それは許せないことだ。
「ぐぐぐ・・・・」
「おい、待て。まだ話は・・・・」
男の声を遮って、少年は腕を振り回すと、そのまま無謀にも男に向かって殴り掛かった。
「おい、止めろ」
男は攻撃を避けると、少年はそのまま鏡に激突してしまった。
「げほ、げほ」
鏡は少年の顔面で粉々に砕け、尖った破片が白い床の上に散乱していた。
「おいおい、無茶なガキだぜ」
「ううう・・・・」
少年はガラスの破片を一つ掴むと、そのまま立ち上がり、男の方を睨み付けた。同時に手の中の破片が青白い光を放ち、西洋で見かけるような両刃の剣に変化した。
「ちっ、やはりな・・・・ガキが」
男は小さく舌打ちをすると、懐から一本の木刀を取り出して構えた。