仲間達との別れ
長らく闇に包まれていたレッキングヒルズの空に、久しぶりの朝日が昇った。街の中には黄色い有毒ガスも、人々の悲鳴も、もう二度と、見ることも聞くことも無いだろう。仁達は互いの健闘を讃え合うと、同じく彼らの勝利を祝福しにやって来た。マリア率いる統制者達の元に歩み寄った。
「ジン、ルミナス、レベッカ。本当に良く頑張りましたね。そして犠牲になった者達も、本当にご苦労様でした。ジャンヌは人間としては死にましたが、今は天界で転生しています。本来の神々としてのジャンヌに戻ってもらいました。そして、ジャスティスやリンも、天界にて新たなる魂として、いずれ、全く別の人間として生まれ変わることでしょう」
マリアは手に持っている杖を振ると、何も無い空間に金色の扉が出現した。
「行きましょう勇者達よ。我が天界へ・・・・」
仁達は導かれるままに、マリアの後から金色の扉の中に入って行った。
天界は、白い雲のようなフワフワとした地面と、大理石で造られた神殿があるだけの小さな世界だった。神殿内には、ジャンヌやマリアのように、背中に白い羽を携えた天使や、甲冑に身を包んだ騎士達が、それぞれ横一列に並び、真ん中を開けていた。仁達はその真ん中の道を歩きながら、神殿の最奥へと連れて行かれた。
「なあ、レベッカにルミナス。ちょいと唐突過ぎないか。俺は地球に帰りたいんだが」
「大丈夫ですわ。それにほら、見て下さい」
レベッカは廊下で仁達を見守る一団の中に、ジャンヌの姿があることを発見した。レベッカが手を振ると、彼女も同じように手を振っていた。
「ジャンヌ様~」
「レベッカさんにルミナス、そしてジン。久しぶりですね」
「何が久しぶりだ。ついさっきまで、一緒にいたじゃねえか」
王の間に連れて行かれた仁達は、その玉座の上に座っている。全身土気色の肌をした。大仏のような顔をした。威厳に満ち溢れた男の前に立たされた。
「よくぞ参った。私の名はゴッドドラゴン。本来は竜の姿をしているのだが、今回は人の姿になってみたが、どうかな?」
「どうかなと言われてもなあ。俺はあんたと初対面だしよぉ」
「まあ良い。お前達は本当に良くやってくれた。我々統制者は、人の世に直接関わりすぎることは許されておらん。だから、お前達に賭けるしかなかったのだが、お前達は私の思うそれ以上に、勇気ある誇り高き勇者であった」
ゴッドドラゴンは玉座から立ち上がると、仁の目の前に立って、彼の瞳をじっと見つめていた。
「勇者ジンよ。ここで提案だが、お主も、肉体というしがらみを捨てて、我らと同じ神の座に着かぬか?」
「神だと?」
「うむ。本来は統制者と呼ぶのだがな。お前達風に言ったまでだ」
「悪いが遠慮するぜ。俺は人間だ。現実じゃ、喧嘩とか教師にヤキを入れることが楽しみの、ただのタチの悪い不良だ。願わくば、東京に戻って、うるせえ幼馴染と、退屈な日常を送りたいね」
「そうか。ならばもう何も言うまい。お主はガイアに戻るが良い。しかし忘れるな。お主は世界を救った。それを誇りに生きて行け」
仁達は天界から出ると、それぞれの故郷へと帰って行った。帰る寸前、仁とルミナス、そしてレベッカは、互いの顔を見つめ合った。
「あばよ。二人とも」
「もう二度と会えないね」
「ええ、しかしそれで良いのです。わたくし達が会わないということは、世界が平和だという証明なのですから」
「俺は別にお前らの顔なんざ、二度と見たくないがな。ただ、少し寂しいだけだ・・・・」
「僕だって・・・・」
「皆同じですわね」
仁達の日常は、今回の冒険で何一つとして変わらなかった。しかし、彼らの心は、その魂は、大きな成長を遂げ、旅の思い出は何物にも代えがたい財産となった。