ファイナルラウンドその3
ギースの体にヒビが入っている。光という毒を吸収したことにより、彼の体内である種の化学反応が起こっていた。
「うあああああ」
ギースの体からバリバリという、何かが破けるような音が聞こえていた。そして彼は仁王立ちの状態で、全身から金色の光を周囲に放つと、そのまま肌を鱗のようにして、両目から血を流していた。
「おいおい、随分と凄い有様だな」
遠くで見ていた仁も、思わず眼を覆いたくなるほどの光景だった。ギースは崩れていく体を必死に庇うと、そのまま蹲り、苦しそうに低い声で唸っていた。
数秒後、ギースの体に更なる変化が訪れた。彼のひび割れた肌が砕け、その中から白い綺麗な肌が姿を現したのだ。まるで、温泉に入って、身体に付いた汚い垢などを根こそぎ落とした時のように、彼の肌は神々しく白く輝いていた。そして、突然ムクッと立ち上がると、両目に付いた血を手で拭いて、全身に力を込めた。
「うおおおおお。これは。これは素晴らしいぞ。何故だが分からんが。俺はパワーアップしているようだな。フハハハ。何だこの爽快感は。力が全身から漲っているようだ。こんなことならば、最初からジャンヌの生命エキスを奪えば良かった」
ギースは全身に金色のオーラを纏うと、右手を仁の方に向けた。
「ほれ」
「・・・・」
仁の体が突然、何かに正面から殴られたかのように大きく背後に吹き飛んだ。そして、直線状にあるビルに突っ込んで、さらにそのままビルをも突き抜けて、地面の上に投げ出されてしまった。
「フハハハハ。俺は無敵になった。最早、この世に恐れる者は無い。このまま目障りな連中を片っ端から消し飛ばしてやろうではないか」
ギースは空を飛んで、真っ直ぐに雲を突き抜けると、手足を大きく開いて、空中で大の字になった。そして周囲から空気を、自分の頭上に集め始めた。
「最後に面白いものを見せてやろう。我が能力ジャッジメントは、害悪なものを弾き、有益なものを自分の元に集める。空気は俺にとって有益だ。このまま世界の空気を全て俺に集めて、巨大な空気の塊を生成してやろう。そしてその空気で貴様らを押し潰してやる」
ギースの元に、空気が次々と集まって行く。同時に、レッキングヒルズの住人達は、次々と胸を押さえて倒れて行った。
「はあ・・・・はあ・・・・。何だ、空気が薄いぞ」
仁は立ち上がると、周りの空気の薄さに違和感を感じていた。二酸化炭素だけがどんどん濃くなっていき、周囲の気温を急速に上昇させていた。
「ギースだな・・・・」
仁はふと空を見上げた。
「おい、嘘だろ?」
遥か上空には、両手に巨大な空気の玉を持ったギースが浮いていた。まるで台風の目のように、周囲の物をなぎ倒しながら、頭上に巨大な空気の塊を圧縮していたのだ。
「このまま。貴様らを酸欠でいぶり出すのも悪くないが。このまま空気の塊で、我がレッキングヒルズごと、押し潰してしまうのも一興だろう」
「や、止めろギース」
「んん。聞こえんな~。俺は今、非常に気分が良い。こんな爽やかな日は、面倒な用事を済ませるに限る」
ギースは頭上に浮かぶ強大な空気の玉を、そのまま地上に向かって落下させた。
空気の玉自体は、非常に巨大であることもあり、成人の歩くよりも、遥かに遅い落下速度だったが、その分、周りの建造物を巻き込みながら、どんどん巨大化して行った。
「ほら、避けてみろよ。避けるほどの面積がこの世界にあるかは疑問だがな」
「何て大きさだ。まるで空そのものが落ちて来ているみたいだぜ」
「焦ろ、焦ろ、焦ろ。速くしないと潰れるのみだぞジン」
仁は頭上からゆっくりと近付いて来る空気の塊を睨み付けた。
「ふん。考えるのも飽きたぜ。どうせ避ける選択肢なんざ無いんだからな。来いよ。打ち返してやる。満塁ホームランって奴だぜ」