決戦。ギースと仁その7
ギースと仁はビルの屋上で対峙していた。互いに瞳を尖らせて、互いの顔をじっと見つめ合っている。永遠とも呼べる静寂の中、先に口を開いたのはギースだった。
「すでに、レベッカとルミナスは始末したぞ。次は貴様だな」
「能天気な野郎は羨ましいぜ。悪いが、二人は無事だ。ジャンヌが手当てしているからな。もうすぐ動けるようになるはずだ」
「何を言っているのだ?」
「耳クソが詰まってて聞こえねーなら謝るがよ。俺の仲間は無事だ」
仁は右手に力を込めると、一歩ギースの方に踏み込んだ。
「殴るのか。殴れるのか。この私を
「やってみなきゃ分からないぜ」
仁はギースの顔目掛けて、右ストレートを放った。
「ぐ…」
仁の拳はギースの顔前で弾かれて、彼の体ごと後ろに大きく吹き飛んだ。フェンスを乗り越え、空中に体を投げ出し、そのまま、地面に向かって落下していった。
「アーツ」
仁は両足を強化して、地面に着地した。本来ならば骨折どころでは済まない話だが、能力のおかげで、かすり傷すら負わずに着地できた。
「野郎、攻撃が全て自分に返っちまう」
「ジン」
仁の元に、ジャンヌの回復魔法により治癒した、レベッカが現れた。彼女は額に汗の粒を浮かび上がらせ、何かを焦っているようだった。
「ギースの体全体ではなく、彼の輪郭を見るのです。物の寿命、生命の終わりが見えるはず」
「おい、いきなり現れてなんだ。急にポエムみたいだな」
「落ち着いて聞いてください。物の見方を変えることで、新しい何かが見えてくるはずです。物体の寿命を形として見る。殺界という技術です」
ギースはビルの屋上から飛び降りると、空中に浮いたまま、両手を大きく広げた。
「少し遊ぶか」
ギースの体の周りに透明な膜が出現した。
「バリアーだ」
膜は周りのビルなどを巻き込んで、徐々に大きさを増して行った。
「おい、伏せろ」
仁とレベッカは咄嗟に伏せると、ギースの纏っている透明な膜が一気に拡がり、建物を薙ぎ倒し、周りの物を吹き飛ばしてしまった。それはまるでハリケーンのようにも見えた。
「無事か、レベッカ」
「ええ」
二人は瓦礫を体から振り落とすと、周りの様子を見て、思わず目を丸くした。
建物はほとんどが倒壊し、ギースの立っている場所を中心に、大きなクレーターのような穴ができていた。ギースはそこから出ると、仁とレベッカの前で着地した。
「少しやり過ぎたな」
「おい、レベッカ。物の輪郭を見るんだな」
「はい」
「よし」
仁はギースに向かって走ると、木刀を取り出して、それをギースの頭部に振り下ろした。