決戦。ギースと仁その6
「やりましたわ」
レベッカの一撃はギースの額を完全に捉えていた。ギースは背後に仰向けに倒れると、体を震わせながら、ユラユラと立ち上がった。まるでノックアウト寸前のプロボクサーのような姿だった。
「貴様、馬鹿な・・・・」
銃弾が当たったという事実がよほどのショックだったらしい。ギースはビルの壁に手を突くと、肩で息をしていた。
「ああ。何故だ。全ての害悪は私の元から弾かれるはずなのに、何故なんだ・・・・」
「どんな生命体にも限界と終わりはある。その終わりを物理的に破壊するのが殺界。お父様ありがとう」
「敗北感を感じているぞ。無敵のジャッジメントに綻びがあるなんて。しかし、運が良かった。あの時、私は一瞬、貴様の気迫にほんの少しだけ圧倒されていた。その際に、無意識に腰を引いていたのだ。そのおかげで、額にめり込んだ銃弾は、脳に到達することなく、寸前で止まってくれたのだ。しかし、これは完全な運だ。精神的には貴様が勝っていた」
ギースは額の弾丸を引き抜くと、それを空中に固定した。
「そしてさらばだ。最早躊躇はしない。自分の弾丸で死ぬが良い」
ギースは弾丸を指で弾き飛ばした。同時に、弾丸がレベッカの元に真っ直ぐと飛んで行き、彼女の心臓を貫いた。
「ああ・・・・」
レベッカの体がフワッと宙に浮いた。そして静かにコンクリートの床に仰向けに倒れた。そして静かに眼を閉じて、体の力を抜いた。
(殺界・・・・。この男を倒すこの世で唯一の方法。早く、これをジンに教えなければ。お願いです。もう少しだけわたくしを生きさせてください・・・・)
「はあ・・・・はあ・・・・。くそ、これで二人目だというのに、全く生きた心地がしない。この女の悪あがきのせいか。しかし、これで良い。後はジンを殺し、ジャンヌとかいう天使崩れも斬殺処刑にしてやろう」
ギースはその場で地面を蹴り上げ跳躍すると、そのままビルの屋上に着地し、そこから街の様子を一望した。
「奴らを殺る前に、この無様な額の穴を塞ぐか」
ギースは、忍者のようにビルからビルへと飛び移って行くと、その中の一つの窓を突き破り、ビル内の部屋に入って行った。
「きゃああああ」
ギースが入ったのはバスルームだった。そこには丁度、シャワーを浴びていた若い女性がおり、改造があまりされていないらしく、顔には金属片の類は埋め込まれていなかった。
「おいおい、騒ぐなよ。すぐに済むから」
「ギース様でしたか。御気分は如何ですか?」
「ああ。最高の気分だよ。この額の傷を治すために君の生命エキスを頂きたいのだが、構わんよな?」
「え、それは・・・・」
女性が言い切らぬうちに、ギースは彼女に覆い被さり、彼女の首に指を突き刺した。
「んん。やはり若い女の養分は良いなあ。傷も治り、ついでに腹も満たされたぞ」
ギースは窓の外から外に飛び出すと、そのまま空を飛んで、上空から仁の行方を捜していた。
「ククク、何処だジンよ」
ギースが辺りを見回していると、突然正面から、赤いレンガが一つ飛んで来た。ギースはそれを咄嗟に指で叩き落とした。
「ぬう・・・・」
ギースの正面のビルに、仁が立っていた。彼はギースを見てニヤリと口元を歪めて笑っていた。
「咄嗟に叩き落としてしまったが、レンガを貴様に跳ね返してやれば良かったよ」
ギースがそのまま仁の立っているビルの屋上にまで飛び、ゆっくりと彼の前で着地した。