ゴールドブレッド
レベッカは静かに立ち上がると、スカートに付いた砂埃を手で払い、シルバーブレッドを握り締めた。
(かつて、存在だけは知っていましたが、まさか、アレを試す日が来るなんて)
レベッカの瞳が、ギースの体を捉えていた。まるでカメラのレンズのように、ギースの体に視線を集中させていた。
(規則正しい形には綻びがある。そしてその綻びこそが、その生命の終わりの部分。壊れゆく場所)
「行きますわよ」
レベッカはギースの体に一発発砲した。弾丸はギースの前で一度停止すると、レベッカの右ひざ目掛けて跳ね返って来た。
「ああ・・・・」
レベッカは右ひざを押さえて蹲った。そして再びギースの体に視線を合わせた。
「どうした。その眼は。絶望しているのか、それとも恐怖でおかしくなったか・・・・」
「はあ・・・・はあ・・・・」
肩で息をしているレベッカの肩の上に、一匹の鳩が留まった。彼女はそれを指先に乗せて、そのまま空に向かって放してやった。彼女の瞳が、鳥の腹部にある赤い点のようなものを捉えていた。
「・・・・」
レベッカは立ち上がると、静かにシルバーブレッドの銃口をギースの額に向けた。
「ありがとう。鳥さん」
レベッカの瞳が涙で潤んでいた。鳩は日光に照らされて何処かに消えてしまった。鳥が教えてくれたのだ。殺界の使い方を。殺界とは物体の視る方法の一つだ。ただ見るのと、視るのとでは次元が違うのだ。物体の形を捉える。物体それ自体を見るのではなく、物体の輪郭などに意識を向けるのである。
「何だ?」
「最早シルバーブレッドではない。今日からはゴールドブレッド」
レベッカはシルバーブレッドをギースに向けると、ニヤリと不敵に笑っていた。
「今から、この黄金の弾丸をあなたの額にお見舞いしますわ。避けたければどうぞ」
「何?」
ギースは両腕を組んで、怪訝そうに顔を歪めていた。
(この女。私を挑発しているのか。何故だ。撃った銃弾が当たらんのはとっくに学習したはず。それなのに、何故、今更そのような駆け引きが必要なのだ)
「貴様、私を挑発してどうしたいのだ?」
「これは警告ですわ。この一撃はきっとあなたにとっての脅威となる。この銃弾を受ける勇気が無いのならば、避けなさい」
「馬鹿な」
(避けるだと。避けなくても問題は無いのだ)
「面白い撃ってみろ」
レベッカは静かに銃口をギースの額に合わせた。そして静かに引き金を引いた。
(視えましたわ。壊れゆく場所が。ギースの生命の限界が)
ギースの体には無数の赤い点が浮かび上がっていた。そしてそれこそが、ギースの限界。壊れゆく場所だった。
「ごふ・・・・」
ギースの額に一発の銃弾がめり込んだ。彼の体が大きく仰け反り、そのまま背後に倒れた。