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転生サーガ~異世界勇者録~  作者: よっちゃん
第1章・リオン編
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さらば100年の平和

「ぐああ・・・・この痛み・・・・よくも・・・・ぐ」

 鮮血を迸らせながら落馬したギースは部下の馬に乗せられて、そのまま撤退した。その後に続いて他の騎馬隊も去って行く。司令塔を失ったのだから、当然の反応だと言えるが、リオンの表情は暗いままだった。

「凄いですぜ。あのギースに一泡吹かせるなんて」

 センは興奮冷めやらぬ様子でリオンを見たが、彼の顔が険しく、ちっとも喜んでいないことに違和感を覚えていた。

「あのギースという男。彼を仕留められなかったのは大きい。彼は恐らく復讐というエネルギーを燃やして、僕を破滅させようとすることだろう。転んだらただでは起きない。あの男からはそんなものを感じる」

「それは少し大袈裟です。あんな奴に大したことができるはずはない」

「君はそう思うのか。しかし、少なくともこれで戦争が始まってしまうだろう。君達は覚悟があるのかい?」

 リオンはセンを始めとして、リリィ、レイナ、ジェイ、そして最近来たばかりのリンの顔と、他の兵士達の顔を順番に見て行った。彼が言える立場ではないかも知れないが、ここにいる人間達は自分も含めて、ある種の平和ボケに陥っている。この世界でかれこれ100年間戦争が無いという事実を知ったのは、つい最近のことではあるが、彼らを見ていると戦争というものが神話上の出来事だと、無意識に捉えているようにしか見えなかった。その中で、ギースは戦争を覚悟している。寧ろ望んでいるとも考えられる。


「私には覚悟があります」

 リリィは胸に手を置いて、真剣な眼差しでリオンをじっと見つめていた。他の者も大体が同じ反応を示していたが、それでもまだ浮世離れしていることに変わり無かった。

「当たり前のことを言うが、戦争では人が死ぬ。この中で自分は死なない、自分は別だと思っている人がいるかも知れない。いや、大部分がそうだろう。死ぬと分かっていて闘う奴は中々いない。それは僕の世界でも同じだった。だから僕ははっきり言う。正直怖いんだ。今は冷静だけど、いざ開戦となった時にパニックを起こすんじゃないか心配になる」

 ここは海を越えた未開土とは違う。平和というものを散々に享受した者達である。彼らの祖父の代も戦争など夢の話だと思い育って来た。

「だが、僕は覚悟を決めたよ。敵は強大だけど。一つだけ手がある。それは夜襲を掛けることだ。倫理的に許されない行為かも知れないけど、僕らが勝つにはそれしか無い」

「御意」

 ジェイが配下を代表して返事をした。

「では、今度はこちらから攻撃を仕掛けるという形で・・・・」

「そうだね。詳しい話は後にしよう。今日は疲れた・・・・」

 その後、リオン達は城に帰った。そしてゆっくりと眠り、これからの戦いに備えるのだった。そして次の日の早朝、この日に夜襲を仕掛ける運びとなった。まず最初に決まったのが兵の配置である。


 本陣にはジェイが残り、彼の副将としてリンも一緒に行動する。センは前線を押し上げる役割を兼ねた遊撃部隊、リリィとレイナはリオンの親衛隊として彼と行動することとなった。

「行くぞ皆」

「おおうー」

 兵士達は一斉に槍や剣を上げた。そして不安を払拭するするかのように叫び、悠々と城を出て行った。そして今日は満月の日だった。リオンのかつていた世界のものよりも綺麗に見えるのは、周りに余計な建物が無いからである。彼は震える足を手で叩き。後ろから自分に付いて来る忠臣達の姿を見た。そこにリリィが現れ、リオンの隣に駒を進めた。

「リオン様。私は・・・・」

「気にしないでくれ。この前は済まなかった。この戦を早く終わらせよう」

「はっ」

 先頭のリオンが川の前で停まったので、周りの者達も同じように馬を停めた。川は満月を反射しており、幻想的な光景を生み出していたが、その流れは速く、激流と呼んでも差し支えないかも知れない。彼はそれを見ると、ゆっくりと馬を川まで歩かせた。


「リオン様危険です」

 リリィは呼び止めるも、リオンは川の音で聞こえないのか、そのまま馬の足を川の水に付けた。

「奇襲は敵の予想を裏切らなきゃいけない。僕らが相手の立場に立った時。こんな危険な川を渡って来るなんて、考えもしないだろう。だから、僕はそれを逆手に取ることにした。ここを真っ直ぐに進めば、かなりの時間短縮となる。ここを通って、まずは彼らの重要拠点を奪おう」

「馬鹿な死にますぞ」

 流石のジェイも額に汗の粒を浮かべ、リオンの隣に来た。

「俺達やるっきゃない」

「は?」

 リオンの突然の言葉に、ジェイは首を傾げた。

「僕のクラスのテーマみたいなものです。やらない失敗よりもやる失敗。名言ですよ。僕のね」

 リオンはニコッと微笑むと、そのまま馬の尻を鞭で叩いた。反動で馬が大きく跳躍し、激流の中に突っ込んで行った。

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