決戦。ギースと仁その1
仁達は最後の階段を上り切ると、いよいよ、ギースの待っているであろう、巨大な赤い扉の前に来ていた。まるで来る者を威圧するかのようなビッグスケールに、流石の仁も額に汗を一滴垂らしていた。ルミナスはギュッと、自分の服を掴んでいたし、レベッカも落ち着かない様子で、シルバーブレットを持つ手に汗を掻いていた。
「行くぞ」
「うん・・・・」
「行きましょう」
三人は同時に扉の中へと入って行った。部屋の中は冷たい空気が流れていて、妙に風通しが良かった。コツコツと三人の足音だけが響いていて何とも不気味。突き当たりを右に曲がると、そこから真っ直ぐ向かった先に、光が漏れている部屋があった。
「中でパーティーでもやっているのか・・・・」
仁達は薄暗い道を進んで、人工的な光の中へと入って行った。暗い道ばかりを進んでいたので、部屋の中はより眩しく感じた。思わず三人は眼を閉じてしまった。
「ここは、まるでホテルだ」
仁は眼を開けると、部屋内の率直な感想を告げた。部屋の正面には赤いカーペットの敷かれた大きな階段があり、手摺は金色に輝いていた。そしてその先には、ジャンヌが青い顔をして、仁達の方を見て、何かを言っていた。
「ジャンヌ」
「ダメです。皆。戻ってください。ここに来てはいけない」
ジャンヌは血相を変えて、普段の彼女らしからぬ大声でそう言った。仁はそれを無視して、ジャンヌの元に歩み寄ると、すぐ近くに倒れているジャスティスを発見した。
「おい、これはどういうことだ?」
仁はジャスティスが死亡していることを確認すると、ジャンヌの方を見て訊ねた。彼女は眼に涙を浮かべて、声を震わせながら告げた。
「殺されました。ギースによって。彼は強すぎた。まるで話にならない。一瞬消えたかと思ったら、彼の右上が床に落ちていて、彼は血塗れになりながら、そのままひっくり返ったのです。分からないというのが一番怖かった。彼の能力は謎に包まれているのです」
「だったら、そいつを解き明かさないとな」
仁は階段の上の方を見た。邪悪な気配を纏った影が、部屋の暗がりから仁達を見下ろしている。
「ついに出やがったか」
「ふん、来たのか」
仁は階段をゆっくりと上り始めた。同時に、ギースも暗がりから出て、その姿を仁達の前に見せた。
「お前とは初めて出会うというのに、全く初めてという気がしないな。かつて、この私が、この世で唯一認めた男、勇者リオンには到底及ばないだろうが、直感で分かるぞ。お前が私の脅威であることが」
「ほう、俺にとってはお前なんざ、脅威でも何でも無いがな」
仁とギースは正面で対峙していた。お互いに手を伸ばせば届く距離だった。
「私はリオンのような勇者が現れないように、勇者が力を付ける前に葬り去ろうと務めて来たが、やはり、勇者はこの手で抹殺しなければならないようだ」
「そうかい・・・・」
仁は拳を握りしめた。ギースはただ仁王立ちでそれを見ていた。
「・・・・」
張りつめた空気が部屋中を包み込んだ。突然、両者の間でドスッという衝撃音がした。両者の手は一切動いていない。
「な、何が起きたんだ?」
「速すぎて見えなかったのでは?」
空気を押しつぶすような静寂の中、ギースはニヤリと笑っていた。同時に仁の体が大きく揺れ動き、床に血を一滴吐いていた。
「大丈夫か。血が出ているぞ」
ギースはポケットから白いハンカチを出すと、それを仁に向かって軽く投げた。仁はそれを右手で叩き落とすと、唇に付いた血を手で拭き取り、鋭い眼光でギースを睨み付けていた。
「気取りやがって。心底ムカつく野郎だ」
「ほら、サービスだ。もう一発撃たせてやろう」