肉塊の爆弾
仁とビートは正面で対峙していた。ビートは右腕の肉を皮膚ごと、剣状に変形させると、その先端を舌でペロッと舐めた。
「けけけ、今からよお。こいつでお前らを串刺しにしてやるからよ。覚悟しなよ」
「お前、うるさいな。ちょっと眠ってろ」
仁は大きく踏み込むと、右手に力を込めた。同時に右手を赤い光が包んでいた。
(アーツで右腕を強化した)
仁はビートの鳩尾に真っ直ぐストレートを叩き込んだ。ただでさえ喧嘩慣れしている仁の拳だが、能力の効果もあって、殴られれば骨折は必死だった。
「ごふっ」
鉛玉を撃ち込むような重苦しい音とともに、ビートの鳩尾に仁の拳がめり込んで行った。
「な~んちゃって」
ビートはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべると、そのまま仁の拳を鳩尾の中にどんどんめり込ませていった。
「くっ、右手が奴の肉に埋まって行く・・・・」
「驚いたかい、ジンちゃんよお。肉の鎧だぜ。俺の能力は体の肉をコントロールできると言ったが、こんな風に、一か所に脂肪を集めて、衝撃とかを吸収したりできるんだぜ。手を引きたくても引けないだろ。逆に俺は両手が自由に動くから・・・・」
ビートは思い切り仁の頬を平手打ちした。
「や、野郎・・・・」
「けけけ、まだまだ序の口よお。俺の左手を見な」
ビートは左手を仁に見せると、そこにはメリケンサックが嵌められていた。仁も喧嘩の際は良く見かけたアイテムだったが、そういった小道具に頼る者は弱いと相場が決まっているので、彼自身、付けたことは無かった。
「婚約指輪じゃないぜ。殴るためにあるんだよお」
ビートは左手で仁の顔を思い切り殴り付けた。背後にいるレベッカとルミナスはギュッと眼を閉じていた。二人とも仁を助けたい気持ちはあったが、ここで攻撃すると、寧ろ、仁に誤爆していしまう危険性があったのだ。
「良い気分だぜ。自分より強い奴をボコるのはよお」
「ふん、お前、これで勝った気でいるのか?」
「んだと。コラ」
「顔ががら空きだ」
仁は突然、頭を後ろに下げて勢いを付けると、そのままビートの鼻に強烈な頭突きを喰らわせた。
「ぐあああ」
ビートは鼻から出血しながら、大きくよろめいた。そこにすかさず、仁の頭突きが再び炸裂する。今度は彼の両目にぶつけた。
「顔には脂肪が付けられないみたいだな。そりゃそうだよな。穴そんなことしたら、穴まで塞いで、窒息しちまうからな」
仁はビートが力を抜いた隙に、右手を彼の志望から引き抜くと、彼の顔面を右足で蹴り上げて、床の上に沈めた。
「くそ、酷い奴だ。鼻血が止まらねえ。お前、マジで俺をキレさせたな」
ビートは仁から離れると、突然、体を捻って、全身からブヨブヨの、丁度、掌に収まる大きさの肉塊を、自分の周り八方向に飛ばした。そのうちのいくつかは、仁の腕や足、肩にくっ付き、残りは床に転がっていた。
「何だ。こいつは・・・・」
「俺の肉塊の中を見てみろよ」
仁は体に付着した肉塊をチラッと見た。ピンク色の薄気味悪い肉の中には、1円ほどの大きさの金属片のような物が包まれていた。
「これは・・・・」
「気付くのが遅えよ。それは小さいがマジで凶暴な小型爆弾だぜ」
金属片は眩い光を放ちながら、その場で爆発した。仁の体が炎に包まれ、ホール中を黒い煙が覆い尽くしていた。