肉の男
仁達はビルの最上階に到達していた。ついにギースを追い詰めたのだ。仁達は最上階の扉がある、最後の階段に上ろうとしたが、ふと、隣にある部屋の扉が破壊されていることに気付いて、思わず近くの石柱の後ろに隠れた。
「何だ。あの部屋は。扉は壊されているし、床にはデカい足跡みたいなものがいくつもあったぞ」
「きっと、ここで闘いがあったんだよね」
「そのようですわね。味方がいるかも知れませんわ」
仁達は破壊された扉の部屋に入って行った。
部屋の中は、広いホールになっていて、広さ的には仁の通う高校の体育館とほぼ同じだった。そして部屋の中央の足の形をした窪みの中には、見たことの無い金髪の男が大の字倒れていた。
「おい、こいつはギースの部下じゃないのか・・・・」
「ええ、やはりジャスティス達は先に来ていた用ですね。この部屋で壮絶な闘いかあった。そう考えるのが良さそうですね」
「もしかして、ギースも倒しちゃってたりして」
「有り得るな」
ホール内は、先程、ジャスティスとジャンヌがジョーカーと闘った場所である。レベッカはシルバーブレッドを構えたまま、部屋内を探索していると、急にあるモノを発見し、緊張感に張りつめていた表情を一瞬で緩ませた。
「ああ、見てください」
レベッカは言いながら、部屋の奥の暗がりに向かって走ると、すぐさま、白いふんわりした毛並みの子猫を抱いて、仁達の所に戻って来た。
「おい、何だよその猫は。緊張感無くなるだろ。逃がせよ」
「良いじゃないですか。わたくし、猫大好きですのよ。ニャンニャン」
「レベッカ、ジンの言う通り、今はそれどころじゃないよ。僕も猫は好きだけどさ。ニャンニャン」
レベッカは猫の頬に自分の頬を当てていた。
「俺様の猫ちゃんに何か用か?」
突然、部屋の暗がりから、黒いハリネズミのような髪型をした若そうな男が、仁達の前に現れた。
「ちっ、レベッカ、猫を捨てろ。こいつはギースからの刺客だぜ」
仁は木刀を構えると、男にゆっくりと近付いた。
「ひいい、何ですのこれは・・・・」
仁が今まさに、男に襲いかかろうとしたその時、突然、背後にいるレベッカが大声を上げた。見ると、彼女に抱かれていたはずの白い子猫が消えており、代わりにピンク色のブヨブヨした肉塊のような物が、彼女の腕に絡みついていた。
「そいつはな。俺の肉の一部よ。申し遅れたが、俺の名はビート。能力名はミートパイと呼んでいる。他の連中は死んじまったみたいだが、俺様を忘れてもらっては困る」
レベッカの手に付着していた肉塊は、床に滑り落ちると、そのままビートの右腕にくっ付いて一体化した。
「嬉しかったぜレベッカちゃん。俺の作った子猫ちゃんを可愛いと言ってくれたな。俺の能力は、自分の肉を自由に引き剥がして操ることができる。そして、形状を変えたり、別の物にカモフラージュすることもできるんだぜ。お前らは、俺の肉の槍で殺すがね」
ビートの右腕が変形すると、先細りの剣のような形になっていた。