デッドマンの襲撃
仁達はビルの一階にいた。内部は不気味な静けさに包まれており、エレベーターと階段が正面に見えた。
「断然エレベーターを選ぶぞ」
仁達はエレベーターに乗ると、最上階のボタンを押した。ルミナスとレベッカはエレベーターが初めてのため、落ち着かない様子だった。
エレベーターは途中までは順調に動いていたが、何故か、最上階である10階のすぐ下、9階のところで止まってしまった。そして重苦しい音を立てながら、エレベータが小刻みに揺れていた。
「上に誰かいるな」
仁が言うと同時に、エレベーターの屋根が突然、パカッと開き、顔にプロレスラーのマスクのような物を着けた、体重100キロは超えているであろう巨漢の男が、エレベーターの中に入って来た。
「うへへへ、ああ~あ」
男は手にチェーンソーを持っており、ルミナスの方ににじり寄って来た。
「うわあ。な、何なんだ?」
「悪趣味な刺客だぜ。罠があるとは思っていたが、予想以上に最悪な野郎だ」
仁はルミナスの腕を掴むと、自分の背後に引き寄せて、目の前の巨漢に蹴りを喰らわせた。
「うへへへ」
蹴りは巨漢の男に当たると、ペチッと肉のぶつかる音がしただけで、ちっとも巨漢には効いていなかった。
「くそ、外にいた連中と同様。こいつもギースから改造された奴みたいだな」
「シルバーブレット」
レベッカはシルバーブレッドを巨漢に向けて発砲した。
「うおおおう」
弾は全弾、巨漢の腹に喰い込むと、そのまま肉の中に呑まれていった。巨漢はニヤニヤと笑うと、体を絞った雑巾のように右側に捻じり、肉の中の弾丸を体の外へと押し出そうとしていた。
「まずいぜ。おい、上に逃げろ」
仁は天井を破壊して穴を開けると、レベッカとルミナスを先に行かせて、自分もすぐにエレベーターの屋根に上った。巨漢はめり込んだ弾丸を外に押し出すと、まるで体それ自体が拳銃にでもなったかのように、弾丸を次々と壁に発射した。
「どうしますか?」
「このまま、このロープを登るしかなさそうだな」
エレベーターを上から支えている黒い紐を掴むと、仁はそれを軽く手で引っ張った。
「予想以上に頑丈だぜ。これはツイてるかもな。おい、二人とも先に上れ、俺は最後尾で、野郎が上って来ないか確認するからよ」
レベッカとルミナスは仁の指示通りに、紐に捕まると、そのまま、最上階目指して上り始めた。まるで小説の「蜘蛛の糸」のような光景だった。
「さて、俺も・・・・」
仁はそれよりも少しだけ遅れて、紐を掴むと、自分も上ろうとしたが、寸前というところで、突然右足を下から掴まれ、そのまま強引にエレベーターの中に引き戻されてしまった。
「ぐっ」
エレベーターの床に背中から叩きつけられた仁は、すぐさま立ち上がり、巨漢に向けてファイティングポーズを取った。巨漢はマスクを被っていたが、口元を歪ませており、明らかに笑っていた。そして、手に持っているチェーンソのスイッチを入れると、キュルキュルと刃を高速で回していた。
「アーツ」
仁は懐から木刀を出すと、それを強化して、巨漢の右肩目掛けて叩き付けた。
「ぐむうう」
能力で強化しただけあって、流石の巨漢もこれには痛みを覚えていた。右肩に木刀の痕である赤い線が浮かび上がり、熱を持っていた。
「あ~あああ」
巨漢はチェーンソを仁に向かって振り下ろすと、仁は、右手で巨漢の持っているチェーンソの握り手を押さえた。
「丁度良い武器があったな」
仁は巨漢の顔を右足で蹴り上げると、チェーンソの刃の部分を巨漢の首に当てた。
「自分ので死にやがれ」
「ああああおおおう」
仁はそのまま巨漢の男の首を跳ね上げると、エレベーターの屋根から紐を辿り、仲間達の待っている最上階に向かった。