邂逅
仁達がビルの内部へと足を踏み入れていた頃、ジャスティスとジャンヌは階段を上り、ビルの最上階へと到着していた。ギースのいる部屋の前には、来る者を威圧するかのような大きく赤い扉は、片足が入る程度に開いていて、中から冷たい空気が漏れ出ていた。
「行きましょう」
ジャンヌとジャスティスは互いの顔を見合わせると、お互いを勇気づけるように頷き合い、扉の中に入って行った。
部屋の中はホテルのロビーのように広く、入り口の正面には赤いカーペットの敷かれた、横にも縦にも長い階段があった。金色の手摺は光っており、シンデレラがガラスの靴を落とした階段のようだった。
予想以上の部屋の広さに、二人が戸惑っていると、階段の上からゆっくりと人影が現れて、二人を迎えた。人影は静かに両手を合わせると、パチパチと二人を讃えて拍手していた。
「ようこそ。よくぞ無事に来られたものだ」
「お前は・・・・ギース」
階段からゆっくりとギースが下って来た。彼は銀髪の長髪をしており、眼は切れ長の碧眼で、涼しげな容貌をしていた。彼は上半身を脱いでおり、下には黒いズボンを履いていた。透き通るような白い肌は、この世の物とは思えないほどに美しく眩かった。
「さあ、上がって来いよ。私と闘う勇気があるのならな」
「上等だ。君を倒すのが僕達の役目」
ジャスティスは正面の階段に右足を乗せようとした。
「ちょっと待て。一応警告しておくが。もし、その階段を一歩でも進んだら。お前は残酷な死を迎えることとなるぞ。それでも良いならば来い」
「下らない脅しだ」
ジャスティスは右足を前にして、ギースに近付こうとした。しかし右足が言うことを聞いてくれない。まるで、足枷でも付けられているかのように、彼は動けなくなってしまった。
「どうしたのだ。怖いならば帰れ。命は一つしか無いのだからな。フフフ」
「僕を馬鹿にするなー」
ジャスティスは階段を駆け上がると、拳を唸らせて、ギースに向かって真っ直ぐ殴り掛かった。
「馬鹿め。貴様は終わりだ」
ギースの体が一瞬にして、ジャスティスの前から消えた。
「え・・・・?」
ジャスティスは何が起こったのか分からず、無意識にジャンヌの方を振り返っていた。彼女は青ざめた顔で、ジャスティスのことを見ていた。
「え・・・・あ・・・・?」
身体のバランスを崩してジャスティスが階段から転げ落ちた。彼は床に頭をぶつけると、ふと、隣を見た。そこには、真っ赤な血の水たまりができていて、彼の右腕が無造作に落ちていた。
「ああ・・・・」
ジャスティスの右腕は切断されており、切断面からは止めどなく血が流れている。彼の瞳は色を失い、ただ虚空を眺めていた。
「ジャスティス」
ジャンヌは叫ぶと、倒れているジャスティスの元に駆け寄った。そして回復魔法を彼に掛けようとしたその時、何かを悟り、手を静かに降ろした。
「手遅れだったな」
ギースはジャンヌの背後に立つと、その場に屈み込んで、彼女の隣で、ジャスティスの死に顔を見ていた。
「一つ待ってみるか。ジン達がここに来るのをな。奴らは既にビルの内部へと入って来ている。我がジャッジメントの能力を、ジャンヌ。貴様だけに教えてやろう」