ザ・レックス
ホール内には静寂が流れていた。背後から撃たれた恐竜は鳴き声を上げながら、その場でひっくり返り暴れていた。ジャンヌはさらに弾丸を撃ちこむと、あることに気が付いた。それは、消えたジョーカーの行方だった。何故彼まで透明なのか考えたところ。ある恐ろしい考えが彼女の中に芽生えた。
(まさか、恐竜の胃袋に隠れている・・・・?)
ジャンヌは手の平を恐竜の背中に向けると、その一転に向けて火の玉を乱射した。
「グルル・・・・
恐竜の声が少しずつ弱々しくなって行く。そしていつの間にか、その声は男性のものに変わっていた。ジャンヌは恐竜の皮膚を炎で溶かしていたのである。
「がはあああ」
やがて、透明な空間から、血塗れのジョーカーが現れて床に倒れた。彼は血走った眼でレベッカを見ると、悔しそうに歯を鳴らしていた。
「私の勝ちです」
ジョーカーは床にうつ伏せになると、近付いて来るレベッカを尚も睨み付けていた。
「殺せ・・・・」
「殺す前に、聞きたいことが一つあります。どうせ答えないだろうと期待してませんが、一応・・・・」
「ふん、分かっているのに聞くのか?」
「先程、あなたが言った、現代魔法のカテゴリーについてです。ギースはこれらの力についてどれほどまで知っているのですか?」
ジャンヌの質問にジョーカーは笑った。それは乾いた笑いだった。
「死ぬ間際だから少しだけ話してやろう。あの方は、世界中の現代魔法に目覚めた人間を、自分の元に集めようとなさっている。同時にそれは、現代魔法の研究にもつながっている。現代魔法にはいくつかのパターンがあり、俺のが使役系、他にも、操作系、自然系、物質系、特殊系があるらしい。最もこれはまだ途中の話だ。もっとあるかも知れん」
ジョーカーはポケットから拳銃を出すと、自分のこめかみに向けた。
「悪いが、話せるのはここまでだ。本当はギース様の能力についても聞きたそうだが、あの方の操る魔法は俺でも分からない。所詮は、俺も信用されていなかったということだ」
ジョーカーはそれだけ言うと、自分のこめかみを拳銃で撃ち抜いてしまった。ジャンヌは恐竜の足跡によって生まれた窪みに、ジョーカーを入れると、手を合わして、しばし黙とうをした。その後、ジャスティスが意識を取り戻し、二人は最上階への階段へと足を伸ばしたのだった。