密室の決闘
ジャスティスとジャンヌは互いに背中を突き合わせていた。このホールには自分達以外の誰かがいる。二人は床の上の、人とは思えない大きさの足跡を見て、とてつもない恐ろしい存在を感じ取っていた。
「リンがやられたのは僕のせいだ。僕があいつの甘言に乗りそうになったから・・・・」
「今は止めましょう。リンの仇を討つのが先決です。それに、このホールにはリンを殺害した者がいるはず」
ジャンヌの正面の壁に、突然、床にもあった巨大な足跡が出現した。それは壁を伝って、天井に向かっていた。そして時折、荒い呼吸音が聞こえて来るのである。
「動物でしょうか?」
「動物というよりも、ドラゴンとかそういう類にも見えるがな」
「馬鹿な。ドラゴンは数千年前に絶滅したはず」
「だが、この足跡の大きさは、人のものじゃない」
ジャンヌは足跡の向かう方向に向かって、ファイヤーボールを放った。そのうちの一発が何者かに当たったようで、突然、大きな鳴き声ともとれる咆哮を上げた。そして天井から床に巨大な穴が開いた。どうやら天井から落ちたらしい。
「グルルルル」
奇妙な鳴き声を上げながら、ソレは二人の元に近付いて来ると、今度は何も無いはずの空間から、若い金髪の男が現れた。そして二人を見ると、瞳を見開いて近付いて来た。
「私はジョーカー。ギース様の右腕として、この建物の全権を任されている。言うならば、あの方の召使いのようなものだ。ぶしつけで悪いが、今から貴様らの臓物をこの床にぶちまける。ギース様に逆らったことへの見せしめとしてな」
ジョーカーと名乗る男はそう言うと、再び何も無い空間の中に姿を消した。そして再び奇妙な咆哮とともに、巨大な足跡が、二人に向かって、先程よりも速い速度で近付いて来た。
「くそ、何だ。こいつは・・・・」
足跡はジャスティスの近くで消えると、突然、ジャスティスの体がくの字に曲がり、後方の壁に背中から激突した。
「ごほ・・・・」
背中を強く打ちつけたためか、ジャスティスは顔を青くしながら、床に少量の血を吐いてしまった。謎の足跡は、倒れているジャスティスに向かって猛スピードで突進して来た。
「まずいですね」
ジャンヌは手の平からファイヤーボールを放つと、それを足跡に向けてぶつけた。
「グルルルル」
咆哮とともに、建物内が大きく揺れた。足跡の主が倒れたらしい。ジャンヌは急いでジャスティスに肩を貸すと、そこから遠く離れた。ホール自体は非常に広いため、距離を置こうと思えばそれなりに遠くまで逃げることができる。
「ふん、何処に行ったかと思えば。そこか・・・・」
再び、ジョーカーが姿を現すと、ジャンヌの方を無表情で見た。
「あなたの能力。何かを使役しているようですね。あなた以外に別の何かがここにはいる」
「フフ、ご名答だ。私の操る現代魔法は使役系。その名もザ・レックス」
「使役系ですって。そんな区分は初めて知りました」
「ギース様が提唱している現代魔法の概念だ。現代魔法は古典魔法とは違って、生まれつきの才能だ。そのために、人の数だけ種類は豊富で、本来はカテゴライズすることはできないのだが、古典魔法ほど規則正しくはないにしても、現代魔法にも共通点がいくつかあるのだよ。貴様らに教える意味は無いがね」
ジョーカーはそれだけ言うと、またも姿をその場で消してしまった。
(直感で分かりましたわ。あの男の能力は、使役系と言った。つまり透明な何かの生物を操っている。例えばトラとかライオンとか。でも、この大きさはドラゴンか、ドラゴンに近い存在・・・・)
足跡はジャンヌに向かって向かって来た。先程よりも速かった。
「くっ」
ジャンヌは、気絶しているジャスティスを右に突き飛ばすと、自分も同じ方向に倒れ込んだ。すると足跡は、ジャンヌを越えて、そのまま真っ直ぐ、目の前の壁に激突して行った。そして壁に巨大な穴を造ると、そのまま壁を掘っていた。
(分かった気がしますわ。この生物は眼が見えていない。匂いと音で判別している。そしてこの歩幅は爬虫類。恐竜か何かだと判断するのが妥当)
ジャンヌは一心不乱に壁を掘り続ける恐竜に向かって背後から火の玉を放った。