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転生サーガ~異世界勇者録~  作者: よっちゃん
第3章・ジン編
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限りなく透明な薄い膜

 ジャンヌとリンはジャスティスの元に駆け寄ると、ジャンヌは倒れているジャスティスの顔に手で触れていた。彼の顔はまるでビニール袋のような触り心地だった。そして顔色が悪く、眼は上の方を向いている。酸欠の症状もあるようだった。


「彼に何を・・・・」

 ジャンヌとリンはローズを睨み付けた。彼女は胸元から別の透明な膜を取り出すと、それで自身の体を覆った。

「ふふ、その坊やは終わりよ。私のブラックローズは、決して破壊することはできない。私を倒す以外にね。でも、私は負けないし、負けたとしても、その頃には彼は窒息しているわ」


 リンは無言で指を拳銃の形にすると、ローズに向かって人差し指を、弾丸のように飛ばした。

「スクリューフィンガー弾」

 回転する人差し指が、ローズ目掛けて放たれた。そしてローズの体に炸裂すると、彼女を覆っている透明な膜に弾かれて、地面の上を転がってしまった。


「あら、残念ね。言ったでしょ。膜の中にいる限り、どんな攻撃も通さないってね」

「破壊は不可能ですか。ならば」

 ジャンヌは右手をローズの前に向けた。

「呪文・アイススマッシュ」

 氷の塊がジャンヌの頭上に浮かび上がり、その場で砕け散った。氷の欠片が雨のようにローズに降り注いだ。ローズは頭にまでスッポリと膜を被ると、氷の欠片を全て弾き飛ばした。そのうちの一つが、リンの右腕に当たり、彼女の右腕がグニャリと大きく曲がった。


「リン。すいません。大丈夫ですか?」

 ジャンヌはリンの右腕に触れると、ヒーリングの魔法を唱えて、彼女の傷を回復してあげた。

「仲間を攻撃しては意味が無いわね」

 ローズは笑うと、膜を脱いで、今度は床にそれを広げると、まるで魔法の絨毯のように、その上に乗った。すると膜がスケートのように地面を滑り、彼女を何処かに向かって運んだ。ジャンヌ達も慌ててそれを追いかける。


「ピピ。勝利確率は20パーセント」

「ちょっとリン。不吉なことを言わないでください。せっかく彼女の攻略法が分かったというのに」

 ジャンヌは背中の白い翼をはためかせて、空を飛ぶと、地面をスケートのように滑り続けるローズを追い抜いて、彼女の前に立ちはだかった。


「ちょっとジャマよね」

 ローズは胸元から別の透明な膜を取り出そうとした。しかし、どうしてだか、手が動かない。見ると、彼女の両手は凍っていた。それどころか、両足も凍り付いており、地面を滑る膜を止めることができなくなっていた。


「掛かりましたね。私のアイススマッシュは、膜を破壊するために撃ったのではない。あなたの周りの温度を急激に下げるために撃ったのです。そして案の定、膜を帯びていない体の部分は、きちんと凍ってくれましたね」


 ジャンヌはニコッと微笑むと、その場で空高くジャンプした。同時にローズはジャンヌの下を潜り抜けて、地面の上を滑って行った。いつしか、道は下り坂になっており、膜のスピードをどんどん速めていた。


「ああ・・・・」

 膜を止めようにも、両手と両足が動かないのだ。どうしようもない。例えるなら、ブレーキの壊れた自動車だった。下り坂を通れば、それだけスピードが増し、彼女の恐怖心をこれでもかと刺激していた。

「嫌ああああ」

 ローズは喉が潰れるほどに叫ぶと、そのまま坂を下り切り、いつしか港の方に向かっていた。

「ま、まずいわ。この先は船着き場が・・・・」


 ローズの予感は当たった。彼女の前には大海が広がっていた。しかもレッキングヒルズのことなので、海も青くはない。油が浮いてギトギトになった赤い海だった。さらに最悪なのは、普段はあるはずの船が漁に出ており、そこには何も、彼女を止めてくれる障害物は見当たらなかった。


 現実は時として残酷である。救世主が助けに来ることも無く、ローズの体は赤い油の海に沈んで行った。


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