黒いバラの女
仁達とはぐれてしまったジャスティス達は、彼らとは別行動でレッキングヒルズ内を探索していた。目指すは正面にそびえ立つ黒いビル。しかし、その間には幾つもの建物が乱立しており、そう簡単に通してくれそうには見えない。
「ジャンヌにリン。僕が先頭で歩くから、君達は僕の後ろにいてくれ」
「は、はい・・・・」
「了解」
ジャスティスは小走りで、ジャンヌ達よりも速く先に歩くと。ゴミ捨て場の周りをうろうろしている、男性らしき後ろ姿を見つけた。
(この街にも、まともな住民はいるのか・・・・)
ジャスティスは背後から男性の方を優しく叩いた。
「もし、少し聞きたいことが・・・・」
ジャスティスが訊ねようとしたその時、男性は彼の手を振り払って、急に反対方向に走り始めた。
「おい、ちょっと待ってくれ」
ジャスティスは慌てて追いかけると、男の肩を先程よりも強く握り、強引に自分の方へと振り向かせた。
「なっ・・・・」
男の顔を見た途端、あまりの衝撃に、ジャスティスは手を放してしまった。男は決まり悪そうに、掴まれてしわになった服を直すと、さっさとジャスティスから離れて言ってしまった。男性の顔には金属のボルトがいくつも打ち込まれていて、肌は緑色に変色していた。呼吸音も機械のようであったし、先程のまともな住民もいるというのは、ジャスティスの勘違いであったことが嫌でも証明された。
「あら、お兄さん。人の顔を強引に見るなんて酷いわね」
背後から女性の声が聞こえた。慌てて振り返ると、そこには紫色のルージュを付けて、服は白いタンクトップ一枚という扇情的な格好の女性が立っていた。さらに下もミニスカートで、少し動けば簡単に下着が見えてしまうほどの丈で、ジャスティスは思わず視線を逸らした。
「うふふ、私の名はローズよ。能力名はブラックローズ。そう呼んでいるわ」
ローズはタンクトップの胸元に手を突っ込むと、中から透明なラップのような薄い透明な膜を取り出して、それを広げた。
「何だ・・・・?」
「うふふ、な~いしょ」
ジャスティスは、ローズの何とも言えぬ飄々とした態度に、若干調子を狂わされていたが、すぐに我に返り、拳に力を込めて、ローズに殴り掛かった。
「女性に手を挙げるなど、本来ならば極刑だが、今回は仕方ない」
「ふふん、悪いけど、私には効かないわ」
ローズは透明な膜を自分の前に広げると、そこにジャスティスの拳が命中した。そして、まるで食べたガムを包むように、ジャスティスの拳を膜が覆った。
「馬鹿な。僕のインパクトならば、こんな紙簡単に・・・・」
「紙だなんて失礼よね。私のブラックローズは、あらゆる衝撃や力を吸収して散らす。雷のアースのようにね。そして、のんびりしてるけど、あなた大ピンチよ」
透明な膜が、ジャスティスの拳を覆い尽くすと、そのまま巨大化し、彼の体ごと、飴玉の包み紙のように丸めて閉じ込めてしまった。
「ぐ・・・・む・・・・」
透明な膜にグルグル巻きにされたジャスティスは、地面の上に倒れると、そのまま苦しそうに両手で、膜の表面を引っ掻いていた。ローズはその様子を鼻歌交じりに見ていると、ジャスティスの顔の部分に尻を乗せて、膜の上に座ってしまった。
「あらあら、苦しそうね。膜の中の酸素は限られているから、あんまり息を吸うと寿命が縮むわよ」
ジャスティスは拳に力を込めて、膜の表面を殴り付けた。インパクトにより衝撃を送り込んだはずだが、膜は壊れるどころか、より強い力でジャスティスを圧迫し始めた。
絶体絶命の危機だという正にその時、遠くから異変に気付いた、ジャンヌとリンがジャスティスの元に駆けつけて来た。