ミセスの罠
仁とレベッカ、ルミナスの三人は酒場の中にいた。ジャスティス達と分断されてしまい、正に敵の仕掛けた罠にまんまと嵌る形となってしまった。
「くそ、この扉開かないぜ」
仁は扉を足で蹴破ろうとしたが、まるで鉄の塊を蹴っているように扉は固く、ビクともしなかった。一方、レベッカはルミナスと一緒に酒場内を散策していたが、あるのは、飲み掛けのワイングラスがテーブルに何本か置かれている他、カウンター席にも、テーブル席にも客らしき人物は一人もいなかった。
ふと、酒場の奥にある暗がりを見ると、小さな木の椅子に座っている老婆が、仁達の方を向いて笑っていた。彼女の座っている席のテーブルには、この酒場の内部にそっくりな模型と仁達にそっくりな人形が置かれていた。まるでままごと遊びのような光景に、仁達は思わず苦笑していた。
「おい、婆さん。お楽しみの途中で悪いが、ここから出る方法を教えてくれないか」
仁は老婆に近寄ると、彼女の反対側の席に腰掛けた。老婆はニコッと仁を見て笑みを浮かべると、突然、仁にそっくりな人形を指で弾いた。
「ぐあ・・・・」
同時に仁の体が後方に吹き飛んで、扉に背中から激突した。
「がは・・・・」
仁はフラフラと立ち上がると、老婆をじっと睨み付けた。
「あらあら、お年寄りに向かってそんな眼つきはダメよ」
「婆、テメー。その人形は何だ?」
「あら、これのこと?」
老婆は仁の姿をした人形を指した。
「その人形調べさせてもらうぜ」
「そんな必要は無いわ」
老婆は緑色の魔法瓶を取り出すと、フタを開けて、中に入っている液体を人形に向かってかけた。同時に仁達の肩に向かって、ひんやりとした液体が天井から染み出て来た。
「こ、これは硫酸?」
ルミナスは液体を避けると、液体が床の上に落ちて、怪しげな紫色の煙を出しながら床を僅かに溶かした。
「いや、硫酸何て可愛い方みたいだぜ。これはマジでヤバイ毒薬かもな」
「あの人形と部屋の模型、どうやら現実と連動しているようですね。彼女が私達の人形を攻撃すれば、現実の私達も同じようにダメージを受ける」
「つまり、あの老婆をテーブルから引き離せば良いんだろ」
仁は老婆に向かって走った。老婆は模型部屋の屋根を手で壊した。同時に、仁の目の前の屋根が崩れて、仁の足にぶつかった。
「ぐうう・・・・」
屋根の素材である木の破片が右足に突き刺さり、仁は足首から血を流していた。
「おほほほほ。あなたは私には近付けない。これは決まっているのよ」
「はあ・・・・はあ・・・・そうかい」
ルミナスは、蹲っている仁の背後からブラッドヴォイスで老婆を狙った。しかし老婆はルミナスの攻撃よりも早く、彼の人形を手で掴むと、その右腕を思い切りグニャリと曲げた。
「ああうう・・・・」
ルミナスは右手を押さえながら、床の上に倒れた。