王として・・・・
「リリィ。逃げないのかい。僕は君を・・・・」
「構いません。私の心も体もリオン様に捧げるつもりでしたから・・・・」
リオンはリリィの胸元に手を掛けた。ゆっくりと彼女の服を脱がそうとした。彼女の双丘がチラッと見えた。リオンは生唾をゴクリと飲み込むと、風邪でも引いたかのように頭が熱くなった。リリィの肩は小刻みに震えており、それに気が付いたリオンは思わず手を止めた。
(僕は最低だ。彼女に寂しい心を癒してもらおうとでもいうのか)
リオンの顔が硬直した。リリィはそんな彼を見て、ボソッと呟いた。
「すいません。私に色気が無いばかりに。これからは露出の多い服を着るように心掛けます」
「心掛けんで良い」
リオンは立ち上がると、いくらか冷静になった。エクスダスに降伏するという理由も元はと言えば、リリィの言った通り、民衆を苦しめたくないからだ。自分達の都合で人が死ぬのは避けたかったからだ。
「センの奴に殴られるかな?」
「大丈夫です。もしリオン様に指一本でも触れたら、私の槍が奴の首を斬り落としますから」
「そ、それは頼もしいね」
リオンの訴えた不戦論は、一部を除いて受け入れられるものでは無かった。今やディタールではリオンのことを暗愚だと罵る者も少なく無い。彼は典型的なダメ君主の烙印を押されたのであった。そしてその噂は、遠いエクスダスにも届いていた。
「ふはははは。おい見ろよ。あの間抜けな王様は素直に降伏して下さるそうだ」
ギースは部下と酒を飲みながら、リオンの愚鈍さを笑っていた。
「流石はギース様です。我々ではこんな大業は為せませんでした」
「ふん、無能め。俺は大した仕事などしていない。本当の仕事はこれからだ」
ギースは酒をグイッと一気に飲み干すと、そのまま席を外して城の外に出た。
(ブラッド家の当主など小さい。俺は国が欲しいのだ)
一人で物思いに更けるギースの前に、金髪の大きな図体をした、見るからに固そうな若い男が現れた。彼はその男を苦手としていたので、少しだけ顔が歪んだ。最も嫌っているのは相手も同じだったが。
「ギース殿。お話が・・・・」
「何ですか。クルス将軍。私は月を見ていたいのですが」
「中々ロマンチストなことを仰るお方だ。しかし最近のあなたの行動は横暴すぎる。陛下の優しさに付け込んで、随分と政治に私情を持ち込んでいますな。ディタールにあんな脅しを掛けるなんて信じられない」
「あれは、陛下の許可をきちんと頂いてしたことだ。それに、私は平和主義者でね。こんな強引な手段に出たのも、国を思うが故、戦争を失くしたいが故だ」
クルスは手にワインの入ったグラスを持っていたが、それを彼の前で握りつぶして見せた。
「あまり、世迷言は申さぬ方が良い。今まで通りのやり方が一番平和に決まっている。噂では、あなたの兄と父が同時に同じ病気に罹り、さらに二人同時に亡くなったとか。まさか、あなたが何かしでかしたのではないでしょうね・・・・」
「家族のことは関係ないでしょう」
「実はね。私の部下に秘密裏に探らせて頂きました。あなたの御婆様にも色々と聞きましたよ。まあ、答えは出ませんでしたがね。しかし、あの二人が死んで一番得をするのは、二男のあなただけだ・・・・」
「待て、お婆様を巻き込んだのか?」
「おっと、冷徹非情なあなたにも、家族を想う気持ちはありましたか・・・・」
「当たり前だ」
ギースは声を荒げると、普段の冷静な彼らしくなく、やけにドシドシと音を立てながら、クルスの元を去って行った。
(エクスダスに巣食う蛆虫が。俺の人生に絡むな。今は生かしておいてやる。しかし見ていろよ。いつか、お前には最も残酷な死を贈ってやる。俺の受けた屈辱を何倍にもしてなあ・・・・)
ギースはポケットかたガラスの小瓶を出した。小瓶には緑色の液体が入っていた。
(お前に飲ませるのは、父と兄を葬ったこの劇薬だ)