高い位置を目指せ
仁達は聖剣を前に膠着していた。突然現れたベンサムという男は、聖剣の前に腰掛けており、絶対に動かないと態度で示して来た。
「ジン様・・・・ここは・・・・私行く」
リンは突然、ベンサムに向かって駆け出した。そして右手の人差し指を彼に向けると、それを弾丸のように発射した。
「スクリューフィンガー弾」
リンの人差し指が回転しながら、ベンサムの喉元に炸裂した。
「ぐむ・・・・」
ベンサムは一瞬よろめいたが、すぐに立ち直ると、リンに向かって走って行った。
「もう一発」
リンは反対の人差し指も発射した。
スクリューフィンガー弾はベンサムの額に突き刺さると、彼を背後に倒した。そのうちにリンは聖剣の元に向かい、手を伸ばすと、後1メートルほどで手が剣に届きそうな位置だった。
「止めろ。私は死んでもそれを守る」
ベンサムはリンに向かってタックルすると、彼女ごと岩盤から転がり落ちて行った。恐るべき執念。ベンサムは溶岩まで、もう少しという位置で岩石の壁に指を突き入れて、何とか落ちずに踏ん張った。
「くうう、危なかったぞ。もう少しで溶岩に呑まれていた。もし、私の反射神経がもう少し鈍かったら、このまま滑り落ちていただろうな」
ベンサムの両足にはリンが掴まっていた。彼女もベンサムが壁に捕まると同時に、彼の両足を両手でガッチリと掴んでいたのだった。
「離さない」
「ふっ、君は私よりも低い位置にいるな」
「ああ」
突然、リンの足がグルグルと回転、そのまま右回りに捻じれて行った。そしてその捻じれは両腕にまで広がっていた。
「激痛のはずだが、君は無表情だ。それにその姿も見たことがある。茶髪のおかっぱ頭にカチューシャ、ギース様のホムンクルスか」
ベンサムはリンの顔を足で踏み付けると、強引に彼女を振り落とした。リンは全身を捻じりながらそのまま落下していた。
「そして、私だけが生き延びる」
ベンサムは壁を登り切ると、聖剣の前に腰掛けた。以前状況は変わっていなかった。
「おい、リンは・・・・」
仁がジャンヌの方を向いて訊ねると、代わりにベンサムが答えた。
「彼女は溶岩に呑み込まれて跡形も無く消えた。それが真実だ。ありがとうございます」
ベンサムは再び90度のお辞儀をしていた。そしてチラッと仁の方を見て不敵に笑った。彼は明らかに挑発している、そして彼の聖剣を死守しようという執念は凄まじい。今までで一番かも知れない。ここにいる誰もがそう思っていた。
「遠距離からの攻撃ならば、私のシルバーブレッドが適任ですわ」
レベッカはベンサムの前に立つと、銃口を彼の額に真っ直ぐ向けた。そして引き金にゆっくりと手を掛けた。
「そうは行かない。私も必死だ」
ベンサムは突然、刺さっている聖剣の柄に、右足を掛けた。その瞬間、レベッカも含むベンサム以外の全員の足が捻じ曲がった。
「ぐああああ」
「いやあああ」
あまりの激痛に、レベッカはシルバーブレッドを落としてしまった。そしてそのまま岩盤の上にうつ伏せに倒れると、足の痛みに歯を食いしばって耐えていた。
「私がほんの少しだけ高い位置にいれば良いのだ。この程度でもな」
「クソが、ガキの頃流行っていた、たかおにを思い出したぜ。確か一番低い位置にいる奴が鬼だったな」
仁は木刀を掴むと、捻じれが全身に回る前にベンサムに投げ付けた。
「甘いぞ」
べンサムは木刀を手で圧し折ると、聖剣の柄に片足を乗せたまま、苦しむ仁達を無表情で眺めていた。