リーダーはどっちだ
ジャンヌの高熱は一時的なもので、仁達は対して足止めを喰らうことなく、旅を再開することができた。聖剣は彼らをどんな世界に案内してくれるのだろうか。
「おい、ジャンヌ平気か?」
「ええ、平気です」
「ジャンヌ様・・・・へーきですか?」
リンが機械音の入り混じった声でジャンヌをいたわっていた。フレデリックの改造は失敗らしく、このホムンクルスは流暢にしゃべることができなかった。
「さあ、次の世界に行きましょう」
「ええ、そうですわね」
仁達は聖剣が導く次の世界へと旅立った。金色の光に包まれて、しばしの静寂ののち、眼を開けると、そこは先程までの光景が嘘のように、熱く燃えたぎる世界だった。
「おい、ここは・・・・」
仁達は岩盤の上にいた。周りにはどろどろの溶岩が流れている。まるで血の池のようにも見えなくもない。
「皆、体調管理に気を付けろ」
「けっ、体調管理なんてする余裕はないぜ。寒いと思ったら今度は熱いからな」
仁達は辺りを見回すと、リンの眼が突然、ある一点を見つめて光り出した。
「聖剣。見つけました」
「おい、嘘だろ」
聖剣は眼と鼻の先にあった。つまり、彼らの対面に位置している岩盤の上に堂々と刺さっていたのだった。
「随分と速いな。これはあっけないぜ」
仁は早速岩盤に飛び移ると聖剣を抜こうとした。
「お待ちください」
「ああ?」
突然、仁の隣に白髪の男ベンサムが現れて、彼の聖剣を握る手を振り払った。
「我が名はベンサム。僭越ながら名乗らせて頂くと、あなた方を始末するためにやって来た刺客です」
ベンサムは言い終えると、90度にお辞儀をした。それを仁達は呆然と見ていた。ここまで礼儀正しい敵は初めてだったからである。彼は聖剣の前に立ちはだかると、両手でとおせんぼしていた。
「おい、冗談止めろよ。お前一人か?」
「はい。そのつもりです」
「舐めているのか?」
「舐めてはいません。私は死ぬ覚悟でここにいる」
いつの間にか他の仲間達も岩盤に飛び移っていた。ジャスティスは仁を退けると、ベンサムの脇を抜けて、聖剣に手を掛けようとした。
「悪いが僕らも暇じゃない。君と遊んでいる時間はないんだ」
「汚らわしい真似は止めて頂きたい」
ベンサムは不愉快そうに言うと、ジャスティスに足を掛けて転ばせた。彼は岩盤から落ちると、その下にあった別の岩盤に背中を打ちつけていた。
「痛、何をするんだ」
「ルールは守って頂こう。私と闘ってもらう。何人同時に来ても構わないが、容赦はしない。そしてルールを守れぬ者には罰を与える」
「何・・・・?」
ジャスティスが立ち上がろうとすると、突然、彼の足が絞った雑巾のように捻じれ始めた。
「があああ、何だ、僕の足が骨ごと曲がっているうう」
「能力名はスカイハイ。私より低い位置にいる者を自動的に攻撃する」
「ぐううう」
ジャスティスの足の捻じれは、そのまま彼の腹部へと移動して、彼の体全体が捻じれて行った。
「ごあああ。息ができな・・・・」
まさに雑巾のようにジャスティスの体がグニャグニャに歪んで行く。そしてそのまま気を失ってしまった。
「まずいぜ」
仁は慌てて、ジャスティスの元に向かった。彼の倒れている岩盤に両足を付けたとたん。今度は彼の足が捻じれ始めた。
「ぐうう、くそ、待ってろよジャスティス」
仁はジャスティスを背負うと、両手を岩の間に入れて、仲間達のいる岩盤目指して登って行った。上に行くにつれ、足の捻じれは解消されて行った。どうやらベンサムの言ったことは全て事実らしい。仁も認めざるを得なかった。
「大丈夫ですか、ジン・・・・」
ジャンヌは回復魔法を仁に掛けようとしたが、彼は何処にも傷を負っていなかった。気絶しているジャスティスも痛みで気絶しているのであって、既に体のダメージは無くなっていた。文字通り、害を受けるのは下にいる時だけらしい。
「ご理解頂けただろう。スカイハイの性質が」
「お前、ムカつくぜ。慇懃無礼って奴だな」