雪原の決闘
ジャスティスとディズィーは向かい合った。ディズィーの持っている刀は紅色に怪しく光っている。彼はその刃を舌で舐めると、刃先をジャスティスに向けた。
「こいつは、ムラサメという刀鍛冶の男が、高名な魔道士と組んで生み出したという呪われしアーティファクトだ。その名もアメノムラクモ。人を斬れば斬るほど、切れ味が増すように造られている」
「説明ご苦労様。しかし僕には勝てないよ」
ジャスティスは拳を構えた。そしてゆっくりとディズィーににじり寄って行った。刀を持っている分だけ、リーチでは負けている。狙うならば短期決戦しかなかった。
「僕の能力はインパクト。殴ったものの中に衝撃を与え、内側から破壊する」
「じゃあ、無意味だな。俺の刀を掴むことはできない」
ディズィーは刀で空を斬った。その瞬間、ジャスティスの鳩尾から鎖骨に掛けてパックリと皮膚が裂けた。
「がは・・・・」
ジャスティスは思わずその場で蹲ると、斬られた箇所にそっと手を触れた。見ると、真っ赤な鮮血が指に付着しており、傷口から血が止まる様子は無かった。不可解なことに、ジャスティス自体は直接斬られていない。ディズィーは刀を振ったが、刃がジャスティスの体に触れるには、後、2メートルは必要だった。
「驚いたな。くくく、斬撃を飛ばしたのさ。最もお前には見えないだろうがな。刃が直接触れなくたって、お前を真っ二つにできるんだぜ」
「な・・・・げほ・・・・」
ジャスティスは立ち上がると、傷口を右手で押さえながら一歩後ろに下がった。
「どうしたんだ。逃げるのか?」
「逃げるだと。まさか・・・・」
ジャスティスはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、突然、ディズィーに背を向けて反対方向に走り出した。
「やっぱり、逃げる気じゃねえか」
ディズィーは呆れたように言うと、そのままジャスティスの後を追い掛けた。
(厄介な敵だな。僕の能力の苦手とする遠距離タイプだったとは。しかし勝機はあるぞ。あの場所まで誘導できれば)
ジャスティスには秘策があった。彼は断じて逃げているわけではないのだ。ディズィーはそれに気付かずに、彼を追い掛けていた。
「おい、どこまで逃げる気だ?」
「広い場所の方が闘いやすいだろ」
ジャスティスは村外れの凍った池の上まで逃げると、突然、ディズィーの方を振り返った。
「ようやく諦めたか」
「僕の勝ちだな。ここに来たらもう・・・・」
ジャスティスは腰を落とすと、足元の氷に向かって拳を叩き付けた。
「インパクト。氷に衝撃を与えた。見ろ、お前の足元を」
「何・・・・」
ジャスティスが叩いた氷から、ディズィーの足元に向かって、ヘビのようなヒビができていた。それはディズィーの足元で止まると、そのまま砕け散ってしまった。ディズィーはそのまま足元から崩れ落ち、冷たい水の中に足先から突っ込んでしまった。
「ぐあああ、貴様・・・・」
「まだ、生きているな。上がって来いよ。僕を馬鹿にした罪は償ってもらうぞ」