ウザったいアイツ
ジャスティスは、忍び寄って来たハウンドドッグに向かって拳を突き出した。
「我が現代魔法はインパクト。殴ったものを内部から砕く能力」
ジャスティスは、飛び掛かって来たハウンドドッグの腹を狙って、拳を前に突き出したが、寸前で、ハウンドドッグの口から放たれた電撃を体に受けて、後ろによろめいた。
「こ、こいつ。雷を操る能力か」
「おい、手を貸すぜ」
仁は木刀を持って、ジャスティスに歩み寄ろうとした。
「手出し無用。こいつは僕がやる」
ジャスティスはハウンドドッグに再び殴り掛かると、ハウンドドッグは背後に跳んで、それを避けた。ジャスティスはそれを見て、不敵な笑みを浮かべていた。
「甘いぞ。貴様の着地点などすでに読んでいる
ジャスティスの拳が、ハウンドドッグの頭蓋骨目掛けて降り下ろされ、そのまま頭部を陥没させた。
ジャスティスはハウンドドッグの死骸を見下ろしながら、小さく舌打ちをした。
(この僕がなんて様だ。ジンがハウンドドッグを負傷させていなければ負けていたかも知れない。この犬は強すぎる。しかし、真の勇者は依然として僕だ)
「恥ずかしいところを見られてしまったな」
「気にするな。よくあることだ」
宿の中からレベッカが出て来たので、仁はことのいきさつを全て彼女に話した。彼女はルミナスが生きているということが嬉しいらしく、暗かった表情が明るくなっていた。
「ジン。次の世界に行く前に決めておきたいことがある」
「ああ、何だ?」
「いきなりこんな大勢になってしまって、大変だと思うが、ここでリーダーを決めようじゃないか。僕か君か。どちらがこのパーティーをまとめるか」
「別に決める必要は無いんじゃないか。危ない時は協力するするしよ」
「それじゃダメだ。リーダーは必要だ。僕で良ければリーダーになっても良いが」
仁は溜息を吐くと、面倒臭そうに言った。
「じゃあ、お前で良いぜ」
「ありがとう」
ジャンヌは早速手に入った聖剣を振りかざし、次の世界への扉を開いた。残る聖剣はあと二本。仁達の旅も佳境に入って行った。
レッキングヒルズ。ここは、ギースという男を体現したかのような混沌の街。空は常に硫黄の煙で包まれ、一年中伝染病が蔓延していた。住民は様々な世界から拉致されてきた人間達で構成されており、皆がギースの好奇心のせいで、体を改造され、見るも無残な姿をしていた。皮膚は爛れ、ピンク色の肉が見える。そして体の半分以上が金属でできた異様な人々が、ここでは見受けられた。
「父ちゃん・・・・お、おでの目ん玉知らねえか・・・・」
「なんじゃ。また落としたのかあ」
とある民家では、顔の右半分が金属でできた子供が、同じく体のほとんどを改造され、機械人形と化した父親と会話をしていた。一週間前からずっと同じ言葉しか発していないが、それを不自然に思う輩はこの街にはいなかった。
「そおだ。腹減ったよ。な、なあご飯はまだかい?」
「うへえへ、お前、さっき俺の捕まえた鼠喰ったばっかだろうがああ。もう少し我慢しろおおお」
子供は足元に転がる丸い物体を発見すると、それを右手で掴んで小躍りした。
「やったぞおお。おでの目ん玉見つけたぞおお。うへえ、腹減ったから食べちゃお」
子供は自分の目玉を口に入れると、そのまま喉を鳴らして飲み込んでしまった。父親はそれを見て、溜息を吐いた。
「ちゃんとお、味わうんだよお。勿体ないだろう」
レッキングヒルズの住人達は、皆、外に立ち込める硫黄の煙や毒ガスの影響で、まず肺を壊され、その次に四肢を破壊される。破壊された部位は金属で補われる。流石に脳までを改造することはできないので、この街での死因は、ほとんどが毒ガスが脳にまで回ることによる。中毒死であった。