表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生サーガ~異世界勇者録~  作者: よっちゃん
第3章・ジン編
100/243

怒りと復讐の夜 後編

 仁とジャンヌは廊下を走っていた。その時、突然、外から男性のものと思わしき悲鳴が聞こえて来た。見ると、窓の外にはあの黒い犬が、宿屋の主人の血塗れになった頭を咥えて、仁達の方をじっと見ていた。そして挑発するかのように、涎のように垂れる主人の血を使って、地面に何かを書き始めた。


「野郎・・・・」

 ハウンドドッグ。犬はハウンドドッグと地面に書いていた。そして月に向かって遠吠えをすると、全身の毛を逆立てさせた。

「気を付けてください。何かする気です」

「ああ。恐ろしく嫌な予感がするぜ」


 ハウンドドッグの黒い体毛が白く輝いた。そして全身に電撃を纏うと、両足で思い切り跳んだ。跳んだ先には宿屋の窓。仁達の見ている二階の廊下へとつながる窓だった。


「危ない」

 ジャンヌと仁はその場に伏せた。ハウンドドッグは全身に電撃を纏いながら、窓に突っ込むと、仁達を飛び越えて、開きっぱなしになっていた個室の中に入って行った。

「ぎやああああ」

 部屋の中から男と女とも分からぬ悲鳴が聞こえて来た。黒こげになった人間が、顔も性別も分からないほどに無惨な姿で、壁を突き破って廊下に飛び出してきた。口や鼻からは黒い煙を吐き、既に死亡していた。


「グルルルル」

 ハウンドドッグが遅れて部屋から出て来た。犬特有のつぶらな瞳で仁とジャンヌを見ていた。そして小さく唸った。

「やる気だな」


 仁は木刀を構えると、ハウンドドッグに向かって駆け出した。そしてハウンドドッグを木刀で薙ぎ払おうとした。


「ガルルルルル」

 ハウンドドッグは吠えながら、全身に電撃を纏い、まるでロケットのように頭から仁に向かって突っ込んで来た。


「来い、犬畜生が」

「ガオォォォ」

 ハウンドドッグは仁の目の前で床に着地すると、そのまま仁の喉元目掛けて飛び掛かった。仁は木刀でハウンドドッグの頭部を狙う。

「喰らいな」

 仁の木刀がハウンドドッグの頭部を真っ直ぐに捉えた。しかしハウンドドッグはそれを避けると、仁の背後に回って、電撃を纏った頭突きを、彼の背中に当てた。

「ぐああああ」


 全身に電流を流されて仁の体は火を噴いた。そしてそのままハウンドドッグに右肩をがっしりと歯で固定されると、そのまま床に突っ込んで、宿屋の一階にまで落ちて行った。


「ああ・・・・そんな・・・・」

 ジャンヌは床に開いた穴から、一階の様子を覗き見た。下の階にも同じような穴が開いており、仁とハウンドドッグの姿は消えていた。


 ジャンヌはその場に崩れ落ちると、旅が始まって初めて泣いた。散々に荒らされた宿の中には無関係な人間の死体が転がっていた。自分が人間に転生したのは間違いだった。他の神々の言う通りに、人間のことは人間達に任せおくべきだったのだ。


「ごめんなさい。本当にごめんなさ・・・・」

 言い掛けたところで、ジャンヌの耳に聞き覚えのある叫び声、というよりもつい数秒前まで聞いていた声が、下から響いて来た。


「あれ・・・・?」

 床の穴に耳を澄ませると、声がどんどん大きくなって来るのが分かる。そして一階に空いた穴が一瞬キラリと光った。穴の下からハウンドドッグが飛び出して、ジャンヌよりも高く飛ぶと、天井に体をぶつけて、ジャンヌの足元に倒れた。続いて、穴の中から仁が血塗れで飛び出して来た。


「げほ、げほ。くそ犬畜生が。手間取らせやがって」

 仁はボロボロになった木刀を投げ捨てると、二階に掛け上がって来た。

「ああ・・・・ジン」

「犬畜生は黙らせたが、はあ・・・・はあ・・・・、ルミナスは何処だ?」

「外に行きましょう」

「ああ、その前に犬を縛らないとな。仕留めたとは思うが、きちんと首輪をしていないと不安でな」


 仁達は宿の外に出た。ルミナスの右腕を回収し、辺りを探していると、草むらの中に黒く焦げたルミナスらしき人間の死体が落ちていた。

「うう・・・・」

「くっ」

 仁とジャンヌはあまりに残酷な光景に眼を瞑った。右腕を切断され、さらにここまで引き摺られて来たのである。如何に苦痛であったか。如何に恐怖であったか。想像に難くない。


 仁はルミナスに近付くと彼を抱えようとした。しかし寸前で、白い光の柱が空から降り注ぎ、二人の間を引き裂いた。そして光の柱から、ジャンヌと同じ純白のドレスに身を包んだ女性と、その背後に、白装束を着た男女が、列を成して立っていた。


「おい・・・・」

「待ってジン。あの方は・・・・」

 ジャンヌは思わず言葉をつぐんでしまった。目の前にいるソレはあまりに神々しく、また美しかった。純白のドレスの女は、静かに眼を開けると、優しく微笑んだ。

「君に幸あれ・・・・」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ