転生王リオン
転生サーガの世界へようこそ。これは全ての始まりです。どうぞ御気軽にお楽しみください。この物語があなたの暇つぶしの一端になれれば幸いです。
男は何処にでもいる市立中学校の教師だった。年齢は30歳で、教師にしてはルックスも良かったので、PTAからの評判も良く、生徒達からも信頼されていた。そんな彼が自動車の運転中に、道端の猫を避けようとしてガードレールに突っ込んで急死したという凶報が流れた。生徒達は悲しみに暮れ、中には泣き崩れる者もいた。しかし彼は蘇らなかった。彼の魂は遠い何処か別の場所へと飛び立っていたのだから・・・。
「ん・・・・ここは?」
男は二日酔いにも似た不快感とともに眼を覚ました。辺りが木々が生い茂っており、昼間だというのに何処か薄暗かった。記憶も意識も混濁しており、冷静な判断のできない男は、とりあえず近くの大木を支えに起き上がると、水たまりに映った自分の姿を見て驚いた。
「な・・・・」
水たまりに映っているのは自分ではない。茶色掛かった髪の毛をした、見るからに高貴な印象を受ける端正な顔立ちの若い男だった。年齢は20代前半か、もっと下だろうか。射抜くような瞳をした青年だった。その青年は緑色の、中世の人が着るような服を身に纏っており、素人から見ても男が貴族であることは十分に理解できた。
「夢だな」
男は現実を受け止められず、この一連の出来事を夢だと決め付けた。しかし男の背後から迫り来る怪しげな人影が、強引に彼を現実に引き戻した。
「おい、お前」
野太い声が背後から聞こえて来たので、振り返ると、髭面の醜い男達が三人、それぞれ手には刃こぼれした切れ味の悪そうな剣を持って、その刃の先を男に向けていた。
「何だい君達は・・・・」
「おい、兄貴、こいつ俺らを知らないみたいだぜ」
「しゃあねーな。いっちょ名乗ってやるか」
男達は額に真っ赤な血のような色の鉢巻をしていた。そして眼をクワッと開いて、偉そうに自己紹介を始めた。
「俺っち達は、最近この界隈で名をとどろかせている赤魔賊の幹部だ。命欲しけりゃ金と食い物よこしな」
男達は満足したように互いを見つめ合い笑っていた。唯一、男だけが訝しそうな顔でその様子を見守っていたが、やがて呆れたような声で言った。
「せっかく名乗ってもらい申し訳ないが。この通り、私は手ぶらで、金はもちろん食い物だってない。寧ろ僕が恵んで欲しいぐらいだ」
「な、何で俺達がお前に食い物恵んでやんなきゃならないんでい」
赤魔賊を名乗る盗人たちは一斉に男に向かって斬り掛かった。ついに命運尽きたかと、男は眼を瞑って、せめて死の苦痛だけでも和らげようとしていたが、次の瞬間、彼の体が何者かによってフワッと抱え上げられた。
「リオン様。ご無事ですか?」
眼を開けると、男はいつの間にか馬上にいた。白い柔らかな毛並みの馬の腰部分に座らせられた彼は、彼を呼ぶ凛々しい声の主を見た。
「良かった。御無事で・・・・」
目の前には、彼の人生で一度もお目に掛からなかった程の美女が手綱を握っていた。漆黒のような色をした髪の毛はサラサラと風に靡いており、背中まで伸びた清潔感あるストレートだった。瞳は切れ長で、白銀の鎧に身を包んでいる。可愛いというよりも美しいという形容詞が似合う女性だった。そして、ふと隣を見ると、そこには栗毛色の馬に乗った別の女性がおり、そちらは紫色の長い髪をした、やはり美女で、彼を馬上に乗せてくれた女性よりも年齢が上に見えた。最初の女性を10代後半とするならば、この女性は20代中頃となるだろう。鎧こそ身に着けていなかったが、手には物騒な長槍が握られていた。
「リオン王子。ここは、このリリィにお任せください」
リリィと名乗った漆黒の髪の美女は、槍をグルグルと手の上で回転させ、赤い鉢巻のならず者達の胸を順番に突いて行った。それに続いて、紫色の髪の美女も槍を同じように振り回し、残った一人をそれで串刺した。
赤魔賊の男達を片付けたリリィ達は、リオンを馬に乗せたまま、彼を自分達の城に連れて行った。跳ね橋が降ろされ城内に入ると、白銀の甲冑を纏った騎士や、ドレスで自分達を着飾った婦人達が、リオンに頭を下げていた。王室に連れて行かれたリオンは、リリィに腕を引かれて、玉座に座らせられ、残りの者達は片膝を、高価そうな赤いカーペットに付けて、リオンにまたも頭を下げていた。
「ちょっと、かしこまらないで下さい。助けて頂いて、こんなおもてなしまでされたら、逆に困りますよ」
リオンは決まり悪そうに後頭部をポリポリと掻いていた。するとリリィが心配そうな表情で、リオンをじっと見つめていた。
「はい・・・・?」
先程は鎧のせいで気付かなかったが、このリリィという女性は中々の巨乳である。頭を下げた時、服の胸元から谷間がチラリと見えたので、不謹慎にもリオンはドキッとしてしまった。その隣にいる、紫の髪の女性も、リリィに輪を掛けてグラマラスであったし、何とも眼のやり場に困る二人だった。
「リオン様。お熱があるのではないですか?」
「え、どうしてです?」
「先程から、何をおっしゃっているのか私どもには分かり兼ねますゆえ。少しベッドで休まれたら如何でしょうか?」
リリィは槍を振るっていた時とは別人のように、眉をひそめてリオンの体を気遣っていた。
「分かったよ。少し休もう」
この夢を早く終わらせたいと願うリオンは、玉座から立ち上がり、何処かに向かって歩き出した。しかしすぐに彼の右腕をリリィが抱きしめるように掴んだ。同時に彼女の豊満な肉が、リオンの腕に当たり、彼はより一層苦しくなっていた。
「あの、今夜の寝屋係は如何なさいましょうか?」
「寝屋係?」
聞き慣れない言葉にリオンは首を傾げた。するとリリィはより心配そうに、彼の耳元でボソッと言った。
「寝屋係は先代からのしきたりです。男性の王は、夜眠る時に、必ず城内の女性を一人指名し、その女性に添い寝させなければならない。先代の王が決めたものなので、守って頂かないと困ります」
「う、嘘だろ~」
城内にリオンの叫びが木霊する。そんなとんでもない決まりを作ったのは、何処の阿呆だろうか。