異世界での第一歩
う~ん執筆って難しい…
謁見を終えた亮太達は、豪華な客間の一室に案内された。謁見の間では弘人は国王に掴み掛かろうし、晶はその場で泣き出してしまい、それ所ではなかった。収拾がつかなくなった謁見を、亮太が何とか弘人と晶を宥め、この部屋に案内された。案内された部屋で弘人と晶は、椅子に腰掛け頭を垂れ消沈していた。その様子はまるで…
(お通夜だな…、まぁ無理もないか…)
亮太は弘人と晶のことはもちろん、これからどうするかを考えていた。
(…う~ん、しかし、これからどうしたもんか。弘人と晶は帰れないと聞いてかなりショックを受けてるし、かと言って、この世界の連中のために命を懸けるなんて馬鹿げてるしなぁ…。どうしたもんか…)
亮太が思考に耽っていた時、頭を垂れていた晶が口を開いた。
「…私達、ほんとにもう帰れないのかな…?」
「さぁな、まぁ呼び出した本人達に期待しても無駄だろうしな。これから先の事を考えた方が良いかもな」
「なっ、そんな簡単に気持ちを切り替えられるわけないだろっ!」
亮太の楽観的な意見に感情が昂ったままの弘人が噛みつく。
「帰れないかもしれないんだよっ!?何とも思わないのっ!?」
「落ち着けって。そんなこと言ってないだろ。だけど、ここでクヨクヨ落ち込んでいてもしょうがないだろ」
「落ち着けるわけないだろっ!勝手な都合で呼び出されて、魔王と戦えだよっ?!自分達が出来ないからって他人に押し付けてっ、自分達は安全なところから威張ってるだけの連中のために命を懸けるなんて…そんなの馬鹿げてるっ!」
「それには同感だが、すこし冷静にだな」
「もう家族にだって会えないかもしれないんだよっ?!冷静になんてなれるわけないよっ!家族がいない亮太に僕達の気持ちなんてわかるわけ「ヒロくんっ!!」……ぁっ」
晶の声で弘人は我に返った。そして自分の失態に気づいた。弘人も晶も亮太の家庭の事情を知っている。いくら感情的になっていたとはいえ、亮太に対して決して言ってはいけないことを弘人は言ってしまったのだった。
「…ごっ、ごめんっ、亮太っ。」
自分のミスに気づいた弘人は謁見の間にいたとき以上に取り乱し、亮太に頭を下げた。
「ごめんっ、ホントにごめん!」
亮太にとって弘人が親友であるように、弘人にとっても亮太は大切な親友であった。自分の失言のせいでその関係が崩れてしまうことを弘人は恐れた。
「落ち着けよ、弘人」
「でっ、でもっ、…僕…そんなつもりで…ホントにごめん…」
弘人の態度に亮太は苦笑を浮かべる。
「だから落ち着けって」
「…怒ってないの?」
「バーカ。何年友達やってると思ってんだ?お前がそんな奴じゃないことも、そんなつもりじゃないことも、ちゃんと分かってる。まっ、お前がそんなつもりなら話は別だが?」
「っそんなことない!!!」
「だろ?だから気にするな。」
「…亮太」
「それに俺こそ悪かったな。お前達の気持ちも良く考えないで無神経なこと言っちまった」
「…ううん。亮太の言ったことも、最もだよ。ごめん」
「私も泣いちゃってごめんね、亮くん」
「謝んなって。それにな、ここだけの話、この世界に喚ばれたとき俺も内心かなり焦ってたんだ。多分、お前達がいなかったら、俺もお前達みたいに取り乱していたかもな」
亮太がイタズラっぽく言うと、弘人と晶は僅かに頬を赤くした。
「ひどいよ、亮太///」
「亮くんのイジワル/// 」
「ははっ、これで暫く二人をからかうネタが出来たな」
「「もうっ/// 」」
「ぷっ」
「「「ははははははははっ」」」
三人は笑った。この世界に召喚されて初めて笑った。特に弘人と晶は完全とはいかないものの、亮太のおかげでいつもの調子を取り戻した。
「亮太、ありがとう」
「ありがとね、亮くん」
亮太は二人の様子に安心したように頷いた。
◇◆◇
弘人達が落ち着きを取り戻した後、亮太は1人豪華な応接室らしき場所にいた。三人でこれからの事を話し合おうとした時に、国王の従者が亮太1人を呼び出したからだ。亮太1人が呼ばれたことに訝しく視線を向け、亮太に自分達も行こうか、と進言したが、亮太は大丈夫だから、と二人を残し従者についていった。部屋に通された亮太は従者に「しばしお待ちください」と言われ中央にあるソファーに腰を下ろし待っていた。しばらく待っていると扉が開き、亮太を呼び出した張本人の国王、それに続くようにエリック、クリーク、そして鎧を着た男性の四人が入ってきた。
「待たせてすまない、亮太殿。そして急な呼び出しに応じてくれたこと、感謝する」
亮太は立ち上がり国王達に向き合った。
「いや、こっちももう少し話をしたかったから丁度よかったよ」
(…う~ん。やっぱこの四人だったか)
亮太達は向かい合うようにソファーに腰掛け、鎧を着た男は国王達の後ろに立った。
「亮太殿、彼はこの国の騎士団長を務めている…」
「ダンク・フリントだ、よろしく頼む」
「こちらこそ、リョウタ・オザワだ。そういやあんた、俺達が召喚された部屋にいたよな?」
「よく気づいたな。俺は離れたところに居たんだが」
「そりゃ、あんたの存在感は半端なかったからな」
「そうか」
「さて、挨拶が済んだところで、亮太殿、そなたの二人の友人は…どうしているだろうか?」
「ああ、二人なら今はなんとか落ち着きを取り戻したよ。」
「…そうか。それは良。亮太殿、こちらの勝手な都合でそなた達を呼び出した事、改めて謝罪する。申し訳なかった。」
そう言い、国王達は深々と頭を下げた。国王達態度に亮太は面をくらった。
「…おいおい…。一国の国王や王子達がそんな深々と頭を下げていいのかよ…」
「本来なら良くはないが、今は公の場ではないし、謁見の間では家臣達の目もあったが、ここには信頼できるものしかおらん。それに今回の件、本意ではないが完全にこちらに非がある。許して貰えるとも思わんし、頭を下げるのは当然のことであろう…本当に申し訳なかった」
そして、国王達はもう一度深々と頭を下げた。
「…頭を上げてくれ」
国王達は頭を上げる。
「王様、俺はあんた達の謝罪を受け入れるよ」
「良いのか?」
「ああ、元々俺はあんた達四人に対しては悪い印象は持ってないよ。それに、あんた四人は今回の召喚に関しては、後悔…というか乗り気じゃなかったんじゃないのか?」
「…どうしてそう思うのかね?」
「召喚された時、城にいた連中の殆どが期待や希望、あとはアナベルって奴みたいに然も当然って感じの高圧的な目をしていた。けど、あんた達四人は、俺達に対して申し訳ないっていう感じの…こう…何て言ったらいいのかわかんないだけど、そういうのを感じたんだ。だから俺はあんた達の謝罪を受け入れるよ」
「…亮太殿」
「だからさ、この話はもう終わりにしよう。過ぎたことをズルズルと引きずっていてもしょうがないし、これからの事を考えたほうがまだ良い」
亮太の前向きな態度に四人は驚いたが、エリックは亮太の見ておかしそうに口を開いた。
「はははっ、亮太殿っ、君はすごいなっ」
「ん?そうか?」
「ああ、普通だったら君の友人達のように憤ったりするが、君はもう前を向き、これからの事を考えている。それに君は冷静に周りを観察し、自分達に向けられている視線の意味を理解し、そして私達の謝罪を受け入れる。普通なら出来ることじゃない。君はホントにすごいなっ」
「殿下っ、今はまじめに話をしているのですよっ。それにまたそのような口調でっ」
「ああ、それはすまない。だが今は公の場ではないし大目にみてくれ。それに亮太殿の懐の深さと、人柄には感服するよ」
「…そりゃどうも…」
興奮しているエリックに亮太は少し戸惑う。
「エリック殿下、少し落ち着いてください。亮太殿が戸惑っておいでです」
「おっと、すまない」
ダンクの言葉でエリックが落ち着いたのを見て亮太は、ほっとため息をついた。
「それで、そろそろ俺だけがここに呼ばれた理由を教えてほしいんだが?」
「そうですね。では、本題に入るとしましょう」
亮太の言葉を受けクリークが答える。
「まず、亮太殿をここに呼んだのは、先程の謁見の間での立ち振舞いと、何より、落ち着いて周囲の状況を理解していたその冷静さを買ってのことです…」
クリークは僅かに沈黙し、話を続けた。
「…だからこそ、本当の事を伝えようと思ったのです」
「本当の事?」
「…はい。先程の謁見の間での話に偽りはありません。しかし、全部が全部、というわけでもないのです」
「どういうことだ?」
「はい。各所で魔王軍と思われる残党が暴れているのは本当です。しかし、魔王が復活したという情報には信憑性が低いのです」
「?。どういうことだ?魔王が復活したっていう情報が入ったから勇者召喚を行なったんじゃないのか?」
「実は我々は元々勇者召喚を行うつもりはありませんでした…」
「…」
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「…え~と、簡単に言うと、第一王子であるアナベルが影で何か企んでいて、魔王が復活したという情報を持ってきたのがアナベルの部下。で、その情報の信憑性を確める調査しようとした矢先、アナベルとその取り巻きを筆頭に城の臣下達が半ば強引に勇者召喚を行なった、と」
「…はい。おおよそ、そんな感じです」
(そこまで分かっていて、勇者召喚とか止められなかったのかよ!)
宰相の話を聞いて心中で若干の怒りを込めてツッコミを入れた。
「…まぁ、色々ツッコミたいところはあるけども…」
「「あんた達が勇者召喚に前向きじゃなかったのはわかった」
「…申し訳ありません…」
「で、第一王子が何をたくらんでるかは?」
「…今のところまだ…」
「召喚されたときから思ってたけど、とんでもない奴だな、第一王子って…」
「「「「……」」」」
亮太は小声で言ったつもりだったが全員に聞こえていたらしい。
「…あ~、すまない…」
「いや、気にしないでくれ。兄は昔からああなんだ」
亮太がバツの悪そうな顔をしているとエリックは、気にしないでくれ、と首を振った。
「うむ、あれは少し我が儘に育てすぎた…」
国王がアナベルの生い立ちを掻い摘んで説明した。
「…私達は子供に中々恵まれなくてね、アナベルはようやく恵まれた子だったんだ」
国王はこの国の王としては珍しく恋愛結婚だった。そして妻を愛していたゆえに、側室を1人も迎えなかった。
「アナベルが生まれた時は私も妻も嬉しかった。それ故にあ奴を甘やかしすぎた。物心つく頃には第一王子であることにあぐらをかいて好き勝手やっていてな…」
「うわぁ…」
「他者を貶めるのは勿論、自分の気に食わない事があれば相手に悪質な嫌がらせをする。何度も矯正しようとしたが結局治らず…な。罰しようともしっかりとした証拠なく、当時は他に後継者も居らぬ故にそれも叶わなかった。それから暫くしてエリックが生まれてな。アナベルとは同じにならないよう、二人をなるべく離し、クリークとダンクの下、エリックには少し厳しめに教育を施した。そしてエリックは、私の想像以上に優秀でまっすぐ育ってくれた」
「いえ、クリーク達の教育のおかげですよ」
「ヤンチャな部分もありますけどね」
「…うるさいぞ、クリーク」
誉められたエリックは照れくさそうにし、クリークの横槍にツッコミを入れた。
「エリックは優秀な上に臣下や国民からの支持厚い。しかしアナベルは一部の取り巻き以外はその逆、なので私はアナベルの王位継承権を下げ、エリックに継承権一位を与えたのだ」
「あ~なるほど」
納得がいったと言わんばかりに亮太が頷いた。
「次期国王は自分だと高を括っていたところに継承権を下げられて納得がいかないといって逆ギレして暴走してると」
「うむ」
「はぁ~、まぁ大体の事情は分かった。つまり俺達は(魔王が復活してなかった場合)無意味に召喚された可能性があると」
「「「「…………」」」」
「…はぁ、こりゃ弘人に言ったら益々怒り狂うな」
「……申し訳ない」
「…はぁ、で?仮に魔王が復活したのが本当だったらどうすんの?」
「どう、とは?」
「さっき謁見の間で言ってた魔王討伐を、俺達の依頼するのか?」
「ああ、その事に関しては、そなた達の意思を尊重する。必要ならば出来うる限りの支援を最大限させてもらう。勿論どの様な選択をしてもだ」
国王の言葉にその場にいたエリック達は大きく頷いた。
亮太は国王達を見る。亮太は国王達の真剣な表情に嘘はないと判断した。
「…なら、いくつか頼みたいことがある」
「何であろうか?」
「まず1つ目に、俺達が元の世界に帰る方法がホントにないのか調べて欲しい」
「帰る為の方法を?」
「ああ、どうせ召喚の儀式なんて伝承か何かだろ?載ってないからといって諦めるんじゃなくて、どんな小さな可能性でもいいからもう一度ちゃんと調べて欲しい」
「わかった」
「次に、俺達を、ていうか、勇者を召喚した、てことは公表しないで欲しい。大々的に公表されて逃げられないようにされたくないしな」
「亮太殿、我々は別にそのような事は…」
「あんた達がやらなかったとしても、他の連中がするかもしれないだろ?」
「…うむ。確かに」
「だから俺達の事は公にしないことを徹底して欲しい」
「うむ、了解した」
「最後にもう1つ…俺達に指導して欲しい」
「指導?」
「ああ。俺達はこの世界のことを何も知らない。だから教えて欲しいんだ、この世界の事を」
「この世界を?」
国王の問いに亮太は頷く。
「諦めるつもりは毛頭ないが、もし元の世界に帰れなかった場合、この世界で生きていかなきゃならない。その時に知識有るのと無いのとじゃ大分違う。この世界で生きていく為の知識と戦い方を指導してくれないか?」
「戦い方も?それは…」
「ああ、勇者として戦うかは別だぞ?それは皆で決める。でも自分の身を自分で護る術は必要だと思うしな」
「なるほどな。相解った。亮太殿の願いしかと聞き入れた」
「よろしく頼む」
こうして亮太達の異世界での日々が始まりを迎えた