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元魔王の少女と勇者の仲間  作者: ユータロー
3/4

謁見の間にてお約束と・・・

光に飲み込まれた亮太たちは目を見張った。なぜならさっきまで亮太たちは、高校へ向けて登校していたはずだった。だがここは自分たちがが見慣れた場所ではなかったのだから。亮太たちを中心に足元には魔法陣があり、そしてそれを囲むように騎士甲冑やローブを着た集団がいたからだ。彼らは口々に「成功だ…」「あれが勇者…」などと口にしているが亮太たちはそれを気にしている余裕がなかった。周りから好奇の目を向けられ晶は無意識に弘人に寄り添い、弘人もより一層体強張らせた。そんな2人を見て亮太は僅かに冷静さを取り戻し周囲を目を向けた。


(…鎧を着た連中に…魔法使いっぽいローブ連中…少し装飾が豪華な奴…お偉いさんか?…んで、足下には魔法陣の様なもの…って、おいおい…まさか…)


亮太は冷静に周りを観察する。そして、ある可能性について自分の隣に立つ二人に話しかける。


「(晶、この状況って、前にお前が貸してくれた小説に似てる気がするんだが…)」

「(あっ…、僕も読んだ。…確か、異世界に召喚されるやつだよね?)」

「(…う、うん。…じゃ、じゃあ此所って異世界?…で、でも、そんな物語みたいなこと…)」

「(だが、この状況、どう見てもそうとしか言えないだろ…集団ドッキリじゃあるまいし…ん?)」


亮太はもう一度周囲に視線を向けた時、自分達に向けられる視線に違和感を覚える。縋るような視線、期待に満ちた視線、呼び出した事が当たり前だと相手を見下すような視線、そして極わずかにそれとは違う視線を亮太は感じた。


「(亮太、どうかした?)」

「(ん?…あ、いや…)」


亮太たちが周囲に視線を巡らせるていると、1人の人物が近づいてきた。


「おいっ、貴様たちが勇者か?」


近づいてきた人物は周りに比べ、豪華な装飾を身につけ亮太たちを見下すような視線を向けていた。


(((…お約束な展開きたぁ…)))


「おいっ、聞いているのかっ?、貴様たちが勇者なのかと聞いているっ」


あまりにも高圧的な態度に弘人と晶は身を強張らせる。


「んな事聞かれても、俺たちも突然のことに驚いているし、勇者かどうかなんてわからん」


亮太の答えに、声をかけてきた男は視線を鋭くする。


「わからんだと?…貴様、ふざけているのかっ」

「別にふざけちゃいない、わからんものはわからんし、俺はあんたの質問に答えただけだ」

「貴様っ…」


亮太の物言いに、男は今にもつかみ掛らんと言わんばかりに詰め寄ろうとしたとき、扉が開き待ったをかける者がいた。


「そこまでですよ、兄上」

「…エリック」


エリックと呼ばれた男は兄と呼んだ男を一瞥した後、亮太達に近寄る。


「突然すまない。混乱しているかもしれないが、我々についてきてくれないだろうか?」

「待てっ、まだ俺の話しは終わって「これ以上、不毛な会話をして陛下を待たせるつもりですか?」…くっ」


男は亮太達とエリックを忌々しげに睨み部屋から出ていった。


「兄上が不快な思いをさせたようですまない。私はエリック・ウィロー・ツルバキア。この国の第2王子だ。異世界の者達よ歓迎する。」


((…お、王子様…))


王子と聞いて弘人と晶はますます萎縮し固まってしまう。


「そんなに畏まらず、もっと楽にしてくれ」

「「…は、はいぃ…」」


(逆効果だろ…)


一連のやり取りをみて亮太は少し苦笑し気になっていた事を口にする。

「なぁ、聞いていいか?」

「何だろうか?」

「ここは俺達がいた世界とは別の世界で俺達は召喚されたってことでいいのか?」

「うむ…そういう事になる。詳しい話しはこれから謁見の間にて陛下から説明がある。案内しよう」

「…りょりょりょりょりょ亮太っ、どっ、どうするっ?」

「…りょりょりょりょりょ亮くんっ、どっ、どうしよう?」

「落ち着け、緊張しすぎだ。とりあえず、ついていくしかないだろ」

「では、ついてきてくれ」


エリックを先頭に召喚された部屋から長い廊下を歩いていく。


「なぁ、エリック…王子、謁見の間ってことは王様に会うってことでいいのか?」

「ああ…そうなる。それが何か?」

「いや、俺たちの世界には王族とか貴族とかなんてないからな、礼儀作法なんてわからないんだが…」


そう、亮太達はこの世界の住人ではない、ましてや貴族でもなければ国民でもない。だから国王にに対しても忠義なんてないと言わんばかりに質問した。むしろそっちの都合で勝手に召喚されただけなので誘拐と変わらないぞ、と亮太は多少の怒気を込める。亮太の質問を察したエリックは申し訳なさそうに目尻を下げた。


「ああ、それなら問題ない。こっちの勝手な都合で呼び出したんだ、いつも通りにしてくれて構わない」

「そりゃ助かる、堅苦しいのは苦手なんだ」

「それには同意する。私も堅苦しいのは苦手だ」

「そうなのか?なんかあんたとは気が合いそうな気がするよ。そのしゃべり方は素なのか?」

「いや、普段は違う。いつものしゃべり方だと宰相達が『もっと王族らしく節度のある態度で接してください』と口煩くてな、公の場では気をつけるようにしてある」

「ふ~ん、王族って大変だな。」

「国民のためだ、これも仕方ない」

「…あ、あのぉ~、りょ、亮くん。王子様と意気投合してるところ、あれなんだけどぉ~…」

「…周りの、視線が怖いことになってます…」

「ん?」


亮太が周囲に目を向けると、周りにいる家臣らしき人物たちが「王子に何、生意気な口聞いてんだ、コラァ」と言わんばかりに睨んでいた。弘人と晶はますます縮こまり、居心地が悪くなっていた。


「あらら。いやな、年も近そうだし、話しやすそうだったから、つい、な」

「それは何となくわかるけど、亮太はもう少し緊張感持とうよ」

「お前ら2人は、もう少しリラックスしろよ」

「私たちは亮くんみたいに神経図太くないもん」


そんなやりとりをしてる間に、亮太達は謁見の間の前にたどり着いた。


「さて、これより先に陛下がおられる。だか、気負いせず普段通りしてくれて構わない」


普段通りと言われても、弘人と晶はまた一気に緊張してしまう。亮太だけはこれまでのやり取りで、大分落ち着きを取り戻した。そして、エリックを先頭に謁見の間に入ると、そこに待っていたのは、一番奥の上座に威厳のある男性が座っており、そしてそのすぐ横には副官らしき男性、その反対隣にはエリックの兄が立っている。そして両側に位のある家臣達が並んでいる。その光景に弘人と晶はますます萎縮してしまう、エリックは気圧されることなく進んでいく。亮太はエリックの後についていき、弘人達も慌てて後に続く。そして亮太達が上座に近づきエリックは跪いた。


「陛下、召喚されし者達を連れて参りました」


エリックの後ろに立っていた亮太はお辞儀をして敬意を表し、弘人と晶も慌ててお辞儀をした。しかし亮太達の態度に家臣達は咎めるように睨み付け、上座に座っている男性の隣に立っているエリックの兄が声を張り上げた。


「貴様等!陛下の前でなんだその態度はっ、無礼にも程がある!」


エリックの兄の物言いにほかの家臣達も声を上げる。弘人と晶は身を硬直させる、亮太は気にした様子もなく周囲に目を向けた。その態度に激昂したエリックの兄が口を開こうとした時、エリックが助け舟をだした。


「構いません。私が許可しました」

「なっ…」


エリックの言葉に僅かに周囲がざわつく


「どういうつもりだエリック?仮にも陛下の御前であるのだぞっ」

「彼らは、この世界の住人でもなければ、国民でもありません。こちらの勝手な都合で呼び出されただけで、当然、忠義なんてものもありません。右も左も分からない彼らに、こちらの仕来りを押しつけるべきではないと判断しました」


「ふんっ、そんな庶民風情の都合などどうでもいい。その無礼な態度を…「構わん」…なっ、父上?!」


エリックの兄が更に糾弾しようとしたとき、国王陛下が割って入った。


「国や、ましてや世界が違えば作法も違ってくるだろう。異世界の者達よ、我が息子、アナベルの無礼な振る舞い、私が代わってお詫びいたす」

「なっ…父上!何故このような輩に頭を下げるのですか?!」


「(実際は下げてないけどなぁ…)」

「(亮太っ、しっ。)」


「勝手に呼び出したとは言え、彼らは客人である。丁重にもてなすのは当然であろう」

「しかし、父上っ」

「くどいぞ、アナベル」

「…くっ」


この話は終わりだと言わんばかりの姿勢にアナベルは何か言いたそうに唇を噛んだが渋々と元の位置に戻った。


「さて、お見苦しい所をお見せした。私はアンブレラファン・ルーク・ツルバキア。このツルバキア王国の王を務めている。この様な状況下で混乱しているだろうが、どうか楽にしてくれ。」

「…4人か」


亮太は小声でボソッとつぶやく、それを近くで聞いていたエリックは何のことかわからず僅かに、首を傾げた。


「どうも、俺は小澤亮太。あぁ、こっちでだったら、リョウタ・オザワって行ったほうが良いかな?」

「えと、僕はヒロト・ミツイです」

「…アキラ・ヤマシタです」

「うむ、早速で悪いのだが、そなた達の中で誰が勇者なのであろうか?」


王の質問に対して3人は答えれなかった。なぜなら3人は元いた世界ではただの学生に過ぎず、当然何か特別な力があるわけでもないからだった。そして亮太は気になっていたいたことを質問した。


「あ~王様。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「うむ、何であろうか?」


亮太の態度に家臣たちが文句を言うが亮太はそれを無視する。


「何をもって勇者なんだ?」

「何をもって?…」

「ああ、俺達は元いた世界ではただの学生で、向こうでも何か特別な存在ってわけでもないんだが…、だから勇者の証みたいなものはあるのか?それと、俺達をここに呼んだ理由も。後、これから話してくれるであろうない内容について、俺達に選択の余地はあるのかどうか…。話を聞いたからには拒否は許さん、何てことにはなりたくないしな」


亮太の言い分に同意するように、弘人と晶が首を何度も縦に振る。


「うむ、そうだな。順をおって説明しよう。それとそなた達には当然選択の余地を与えるつもりだ。話を聞いたからと言う姑息なことはせんよ」


そう言って国王は傍らに控えていた副官に目を向けた。


「ここからは私が説明させていただきます。私は宰相を務めているクリーク・ソラナムと申します。以後お見知りおきを」


クリークは恭しく礼をし、説明を始めた。


簡単にまとめるとこうだった。約10年ほど前、世界を脅かす存在、魔王と魔王が率いる魔王軍が現れた。人々は総出を上げこれに対抗したが敵の力は強く多くの犠牲が出た。このままでは人類全てが全滅するのも時間の問題と言う危機に、人類は最後の手段がとられた。それが勇者召喚だった。召喚された勇者は人類と協力し魔王軍を、そして魔王を撃退することに成功。この世界に平和が訪れたのだった。

しかし、近年その平和が崩れだした。魔王軍の生き残りが世界の各地で暴れているということだった。幸いなことに魔王軍も10年前ほどの勢力はなく、被害は最小限に抑えられていたが、魔王が復活したという情報が入ったことにより事態が一変した。魔王の力は強大で国の兵だけでは、全滅する恐れがあった。魔王を何とかしなければこの世界が壊滅する、そこで先代の勇者を招集しようとしたが、先代勇者は数年前から消息がつかめなくなっていた。そして苦肉の策として新たな勇者を…


「召喚するにいたった、と」

「…はい、誠に勝手ながら…」

亮太達はクリークの話を神妙な表情で聴いていた。


「それで、俺達にその魔王を倒してほしいと言うわけだ」

「はい…」

「で、でも、亮太もさっき言いましたけど、僕達にはそんな特別な力はないですよ?…」

「…そ、それにあったとしても私達に出来るかわからないし…」

「それについてなのですが、まず勇者の選定はあの魔法陣よってなされます。あの魔法陣は超高位の魔力量を持つ者を選定しています。つまり勇者となる者はそうですね…1人で軍を軽く相手にできるほどの力を持っていはずです」


クリークの言葉に亮太達は絶句する。そして、頃合いをみて国王が口を開く。


「どうであろうか?今回の話、そなた達には関係のない話だが、良ければ受けてくれるだろうか?」

「「「……………」」」


亮太達は答えなかった、答えれなかった。それもそのはず、亮太達はは只の学生だ、例え力があったとしても、殺し合いをしてくれ、と言っているのには変わらない。亮太と弘人は武術の心得がある、たが、試合と実戦が大きく違う物だと言うのは理解している。簡単には答えることが出来なかった。

亮太達の心情を察してか国王は口を開く。


「…このような事、直ぐには答えは出せないであろう…。少し考える時間を…」

「…王様、もう1つ聞きたいんだが…」


国王の言葉に被せるように、亮太が口を開いた。 家臣達が、この無礼者っ、などと言っていたが亮太は気にせず言葉を続ける。亮太には、どうしても聞いておきたいがあった。


「何であろうか?」

「この話だが、受ける受けないば別にしてだ…、俺達は、元の世界に帰ることはできるのか?」

「「…………」」


亮太の質問に対して答えを返す者はおらず、返って来るのは沈黙だけ、その場にいた者のほとんどは苦虫を潰した表情で顔を伏せる。

国王達の表情を見た弘人と晶は戸惑い動揺を隠せない。亮太は予想をしていたのか冷静に国王の言葉を待つ。


「…すまぬ。そなた達を元の世界に返す方法は…、我らには持ち合わせていない…」


国王の言葉に覚悟していたとはいえ、少なからずショックを隠せない亮太。そして、弘人と晶は、亮太以上に狼狽え、冷静さを失う。


「かっ、帰れないって、どっ、どういうことですか?!」

「そんなのひどすぎますっ!」


冷静さを失った弘人と晶は国王に詰めかける。


「勝手に呼び出して、帰れないって、あまりにも無責任過ぎます!!」

「…そんなのひどいよぉ」


感情的になった弘人は更に国王に詰め寄り、晶は目尻に涙を浮かべその場に崩れ落ちた。その様子に国王と宰相、エリックは申し訳なさそうに俯いた。そしてその日の謁見は終了した。

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