日常から非日常へ
石造りの部屋、周りには甲冑を身に着けた集団とローブを着た魔法使いらしき集団、部屋の中央には魔法陣、そしてその上には3人の学生がいた。
(…どうして…こうなった?)
呆然と立ち尽くす3人の内の1人小澤亮太は静かに思った。
☆☆☆
早朝
とある町にある大きいとも小さいとも言えない山にある神社に人々に御神木と呼ばれている大樹ある。その御神木の下に小澤亮太いた。亮太はこの場所が好きだ。この場所は町の住人の憩いの場であり、そして何より亮太が親友たちと出会ったお気に入りの場所でもある。何かをするわけでもなく御神木を見上げていた亮太に声をかける人物がいた。
「あれ?亮太?」
声をかけたのは亮太の親友の1人である光井弘人だ。
「よぉ、弘人」
「おはよう、亮太。どうしたの、こんな朝早く?」
「いや、新聞配達が早く終わって何となくここにな…。そういうお前は、いつものか」
「まぁね」
弘人の家は剣術の道場を営んでいる為、弘人も子供のころから剣術をやっている。今日の日課のロードワークでこの神社に立ち寄っていた。
「よくやるなぁ」
「あはは、まぁ毎日やってるからね」
言いながら弘人は亮太の隣に立ち御神木を見上げた。弘人にとってもここはお気に入りの場所だった。
「でも亮太だって、毎朝新聞配達頑張ってるじゃん」
「1人暮らしは何かと入り用なんだよ」
「今からでも家で暮らす?父さんたちも亮太さえ良かったらいつでも歓迎するって言ってるけど…」
「う~ん、気持ちはうれしいんだが、これ以上親父さん達の世話になりっぱなしってのもなぁ」
「ははは…律儀だねぇ、そんなの気にしなくていいのに」
「そっちが気にしなくても、こっちが気にするんだよ」
亮太がまだ幼い時、両親を事故で亡くしている。中学卒業まで施設で過ごし、高校入学と同時に1人暮らしを始めていた。弘人の家族とは弘人と出会った頃からいろいろとお世話になっていた。
「そんなことより、そろそろ戻らないと遅刻しちまうぞ」
「あれ…もうそんな時間?」
2人は神社に続く石階段を下りていく。ついでに言うとホントは時間まではまだ余裕があるのだが亮太が話しをそらしたのを弘人は気づいていない。
「じゃあまた後でね」
「ああ」
「ちゃんとご飯食べるんだよ」
「わかってるって」
心の中で、お前はおかんかっ、とツッコミをいれつつ苦笑いをしながら走り去っていく弘人を見送り、亮太も帰路に着いた。
弘人と別れ、アパートへと戻った亮太は制服に着替え、弘人に言われたとおり朝食を食べ、片づけを終え、自身が通う高校へと向かうため部屋を出た。部屋を出て学校へと向かう途中、亮太へ声をかける人物がいた。
「亮く~ん」
声をかけてきたのは山下晶、亮太のもう1人の親友で弘人の幼馴染の女の子だ。
「おはよう、亮くん」
「ああ、おはよう、晶」
「亮くん、今日はちゃんとご飯食べた?疲れてない?ちゃんと休んでる?」
お前もかっ、と弘人同様少し心配性な親友に苦笑いをする。
「ああ。ちゃんと食べたし、疲れもない」
「本当?亮くんすぐご飯抜いたり、無理しちゃうんだから」
「大丈夫だって」
「そう?ならいいけど…あっそうそう、お母さんが今日もおすそ分けするから家に来てだって」
「あ~わかった。なんか、いつもいつも悪いな」
晶の家族にも弘人の家族同様、昔からいろいろとお世話になっている。亮太はそんな彼らの厚意に感謝しつつも申し訳なく思っていた。そんな亮太の気持ちを察してか晶は「そんなの気にしなくていいのに」と苦笑いを漏らした。
「さっきも同じこと言われたな」
「さっき?」
「ああ、今日早朝のバイトが早く終わって、なんとなく神社に行ったら弘人に会った」
「そうなんだ。頑張ってるねぇ。ねぇ、亮くんはもうやらないの?」
亮太は施設を出るまで弘人の親が運営している道場に通っていたが、一人暮らしを始め生活費を稼ぐ為バイトを始めてから道場に通う時間が取れなくなり辞めることなった。
「ああ、さすがにバイトをしながらだと難しいしな」
「え~もったいないよ~。おじさん達も残念がってたし…」
「…」
この話は長くなりそうだなと察した亮太は話を反らすことにした。
「俺の事よりそっちはどうなんだ?」
「え?」
「弘人にいつ想いを伝えるんだ?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?」
顔を真っ赤にして叫ぶ晶。晶は子供の頃から弘人に好意を寄せていた。亮太は度々晶に相談を受けていた。ちなみに弘人も晶に好意を寄せているがお互いに気づいていなかったりする。
「いやいやいやいやっ、そんなのまだ無理だよっ」
「けどそんな事いってると、いつか誰かに先を越されるぞ」
弘人は少し気が弱いところがあるが、周りからの信頼は厚い。成績優秀、スポーツ万能、おまけに顔も良い。特に女子からの人気も高く度々告白されることもある。簡単に言えば、モテるのだ。そうモテるのだ。
「でもでもっ、そんなの恥ずかしいし…」
晶が告白まで踏み切らないのは、恥ずかしいだけじゃない。告白をして今の関係が壊れてしまうんじゃないかと恐れているのだ。亮太はそんな晶の気持ちを察して何も言わなかったが、お互いに気づいていないだけで相思相愛なのである。そんな2人をすぐ近くで見ている亮太は、あまりのじれったさに内心かなり悶えていた。そんな時亮太の悩みの種の原因の1人が現れた。
「2人で何の話をしてるの?」
「ふぁわっ?ううんっ何でもないっ、何でもないよっ」
いきなりの弘人の登場にうろたえながら言い繕う晶。そんな晶の様子に首をかしげる弘人。
「ほんとに大丈夫?晶」
「う、うんっ、大丈夫っ、大丈夫っ。さっき2人が神社で会ったって話だからっ」
「ああ、そのこと。うん、さっき御神木の前でね」
亮太は晶に「うまく逃げたな」と意地悪な視線を送ったが、晶は気づかない不利をした。
「いつものトレーニングだよね?がんばってるねぇ」
「まね。いつもやってることだし。それに、今次こそ試合で亮太に勝ちたいからね」
「いや、俺はもう道場やめたから試合は無理だろ…それにバイトもあるし…」
亮太がまだ道場にいた頃、亮太と弘人はよく試合をしていた。結果は亮太の勝ち越し。弘人にとって亮太は親友であり、良きライバルであり、いつか勝利したい相手であった。
「だから家に来なよってっ、そしたら亮太も道場に来れるし、いつでも勝負ができるよっ」
弘人が目を輝かせながら、朝の続きとでも言わんばかりの勢いで詰め寄ってきた。
「いや、だから…」
亮太が反論しようとしたところに追い討ちをかける者がいた。
「いいじゃない、その話受けちゃいなよ。あっ何だったら家に来る?家の親も亮くんだった構わないって言ってるし」
晶だった。さっきのお返しと言わんばかりの勢いで弘人と共に詰め寄ってくる。
「くっ…」
退路を断たれてしまった亮太はどう切り抜けようかと模索したとき、異変が起きた。突然3人の足元に魔法陣らしきものが浮かび上がり、そこから洩れだす光が3人を包んだ。
「えっ?」
「きゃっ?」
「何だっ?」
そして3人は成す術もなくその場から消え去った。