Episode9:漢字書取7万字
俺と海斗は校長室に連れてこられた。
中に入るとあからさまに怒ってますという顔をしている人がいる。
言うまでもなく校長先生だ。
校長先生と机を挟んで向かい合った椅子に座る。
1分しても先生は口を開こうとしない。
ただ俺達を睨みつけるばかりだった・・・
「あの〜」
場の空気に耐えられなかったのか海斗が口を開く。
そこでやっと先生は口を開いた。
「君達は一体何をやったんだ?」
「風紀委員の方から聞いてないんですか?」
俺がそう聞いた。
呼び出されるぐらいだから何をしたか知ってるのかと思ったからだ。
「詳しくは知らないのだよ」
「そうですか・・・」
「では、話してくれないかな」
「はい・・・」
まさか断るなんて事は出来るはずがなくて渋々計画を話すことに・・・
俺が代表してこの計画を20分かけて話した。
俺達の計画はこうだった。
最初の俺達2人は授業を抜け出す。
この時、俺は風紀委員に追いかけられるように、
海斗は誰にも追いかけられないように教室を抜け出す。
この場合、海斗は保健室に行くと言っとけば良かった。
その後は、俺は急いで屋上へ行き、金網の反対側に靴をセットする。
そしてすぐには見つからない場所へと隠れる。
その頃、海斗は保健室ではなく俺の靴がセットされている場所の真下にいる。
そこで制服に赤い絵の具をつけ、うつ伏せになって倒れているふりをする。
この時、仰向けだと顔を見られる心配があるのでうつ伏せでないといけない。
そしてその隣に俺がセットした靴の反対側をセットしておく。
俺達、学校は革靴と決まっていた為、どれも似たようなもので、
俺と海斗のを片方ずつ使ったがばれる心配はなかった。
こうしておけば、まるで俺が金網の反対側へ逃げようとして
誤って転落してしまい死んでしまったと驚かすことが出来る。
今、考えてみればどう考えてもやり過ぎだ・・・
「・・・・・・・」
俺の話を校長先生は黙って聞いていた。
勿論、怒っていないはずがなく顔には怒りが表れている。
「・・・・・・・」
話し終わってから3分が経った。
校長先生はまだ口を開いてはくれない・・・
「あの〜」
またもや海斗が空気に耐えかねて口を開いた。
「何だね?」
「いえ、何でもありません・・・」
こうやってまた沈黙が始まり、さらに居心地が悪くなる俺達。
「・・・・・・・」
更に3分が経過・・・
この時間が俺達には10分ぐらいに感じる。
「早く口開けよ、クソじじい」
と、何度心の中で叫んだかも分からない。
更にまたもや3分が経過・・・
もう、これは拷問以外の何でもない気がする・・・
結局、その後1分ほどして校長が口を開いた。
海斗の言葉に反応したのを抜けば10分黙っている。
考えてやった事なのだろうか?多分、そうだろうけど・・・
「君達は自分達が何をやったのか分かってるのかね」
説明した俺達が分からない筈がないと言いたい所ですが、
「はい、分かってます」
校長の前でこんな時に強がれる筈もなく、弱弱しく返事をする。
「どうしてこんな事をしたんだね?」
「ちょっとした悪戯心です」
この答えは間違いないと思う。
「悪戯心ね・・・」
「はい・・・」
少しだけ自信を失くしちゃいます・・・
「悪戯にしても他にあったのではないかな?」
「はい」
「どうしてたちの悪い悪戯にしたんだね?」
「ただ驚かしたい一心で・・・」
「・・・君達は・・・まったく」
校長先生も呆れ顔です。
「じゃあ、君達のペナルティーは・・・」
「ペナルティー・・・ですか?」
「それがどうかしたのかね?」
「いえ・・・」
まさか校長にペナルティーを言い渡されるなんて・・・
「漢字5万字が妥当なところだろう」
「五万字ですか?」
これを聞いたのは海斗だった。
「不満があるのかね?新藤君」
「いえ、その・・・多すぎるんじゃないかと・・・」
「そうか、では7万字にしよう」
お〜い。二万字ほど増えていますが?
「え?」
海斗が驚いたような声をあげる。
「まだ不満があるのかね・・・じゃ」
「分かりました。7万字ですね」
何か言おうとした校長をさえぎり俺はそう言った。
「では、戻りなさい。部屋の外に風紀委員が待っているから」
「はい・・・」
2人とも頷きうなだれながら校長室から出た。
「やぁ、どんなペナルティを貰ったんだい?」
西条さんが笑顔でそんな事を聞いてくる。
人の不幸がそんな楽しいのだろうか?
まぁ俺も同じ状況にいたら笑ってますけど・・・
「漢字7万字です・・・」
「うわ〜大変だね。頑張ってね」
この野郎・・・適当に言ってやがる。
「はぁ」
ムカつきながらも一応答えておく。
取調室に連れてこられた俺たちは仲良くペナルティーを始めた。
入り口の方には見張りの人が1人。
今は西条さんがやっていた。すごい笑顔に苛立ちを覚える。
最初は真面目にやってた俺達も時間を重ねるごとに
お喋りが多くなっていった。
「まさか校長にペナルティーをつけられるなんてな・・・」
「あぁ。説教だけだと思ったのにな」
俺たちはそんな不満を中心におしゃべりしていた。
「ったく、風紀委員の真似なんかしやがって・・・」
俺がそう言ったと時だった。
「それはちょっと違うよ」
西条さんが話しに加わってきた。
「え?」
突然だったので俺たちは驚いて声を上げる。
「逆なんだよ。僕達が校長の真似をしているんだ」
言ってることがよく分かりませんが・・・
そんな俺達の思いを考えようともせずに
西条さんは話し始めた。
この学校に風紀委員が出来た理由を。