Episode5:屋上での出会い
全力疾走で逃げてついた先は屋上だった。
今更になってどうしようかと思う・・・
こんな所じゃ逃げ道なんてない。
とにかく戻ろうと屋上から去ろうとした時だった。
1人の女子生徒が目に入った。
フェンスの近くで下を見下ろしているようだった。
朝のHRの時間にこんな所にいるのは俺と風紀委員ぐらいだと思っていた。
そのせいか、彼女の存在が気にかかり声をかけてみる。
「ねぇ、君何してんの?」
言葉に反応して彼女はこっちに振り向いた。
制服のリボンを見るからに俺と同い年の1年生のようだ。
「別に・・・街を見ているだけ」
素っ気無い返事が返ってくる。
「ふ〜ん。楽しいの?」
「やる事全てが楽しい事ってわけじゃないわ」
ごもっともな意見です。
「それもそうだね・・・」
「あなた、壬柳 佑斗よね」
何で初対面の人に呼び捨てされるんだ。
「まぁ、そうだけど。どうして知ってんの?」
「あなた有名人だから」
「確かにそうかもね・・・」
喜べないんだけどね・・・
「君は?」
「私は桜井 琴音」
「桜井さんね、よろしく」
「うん、よろしく」
彼女はそう言うとまた街の方に目を向けた。
何を喋っていいかも分からず沈黙が流れた。
居心地が悪いので俺が屋上を去ろうとして歩き出した時だった。
「壬柳君」
今度は呼び捨てじゃないんだとか思いながら
「何?」
と、返事をする。
「今日、放課後空いてる?」
「まぁ、空いてるけど」
「じゃあ一緒に遊びに行かない?」
何を言い出すかと思えば・・・初対面の人と遊びに行こうとは・・・
「俺と?」
「うん」
「どうして?俺達初対面だろ」
「一緒に遊びに行くのに理由なんて必要ないでしょ」
そうなのだろうか?
「まぁ暇だから構わないけど」
疑問を残しながらも俺は承諾した。
「ありがとう」
彼女はお礼を言うとまたまた街の方に目を向けた。
「じゃあ俺行くね」
彼女に別れを告げて俺は屋上から去った。
教室に戻る途中、ずっと考え事をしていた。
勿論、桜井さんの事で。
変わった人だなという考えしか浮かんでこなかった。
結局考えに進展もなく教室につき自分の席についた。
そして左手に手錠をかけられた・・・・
手錠をかけた犯人の顔を分かりながらも確認する。
「どうしたの、双葉。手錠なんかかけてさ?」
「分かってるでしょ。立ちなさい」
俺は黙って素直に立ち上がる。
桜井さんの事で風紀委員への宣戦布告を忘れてた。
俺としたことが一生の不覚である。
勿論、その後はいつもの場所へ連行されペナルティーをくらった。
グラウンド50周という拷問に近いペナルティーを。
ペナルティーも終え午後の授業も終え放課後になった。
桜井さんと遊びに行く約束はしていた時間だ。
しかし今更になって問題が出てきた。
どこで待ち合わせなのだろうか・・・
俺は桜井さんのクラスを知らないし多分あっちも同じだ。
一瞬帰ろうかなとも考えたがそれはいくらなんでもやってはいけない事だ。
考えた挙句に屋上へと行ってみることにする。
予想通りかは分からないが彼女はそこにいた。
朝と同じ様に彼女は町を見下ろすようにしてそこにいた。
「桜井さん?」
声に反応して彼女はこっちを振り向いた。
そして俺の顔を確認してからこっちの方へ歩いてきた。
「壬柳君、よく場所が分かったね」
「勘ってやつかな」
「そう、じゃあ行きましょうか」
「あぁ」
俺達は二人揃って階段を下りていき玄関のほうへと向かう。
それぞれ靴に履き替え正門の方へと向かう。
正門では風紀委員の何名かが挨拶運動をしている。
朝だけでなく放課後もやるっていうのが理解できない・・・
今日の担当だったのかそこには双葉もいた。
突っかかられるのも嫌なので双葉に気付かないふりをしながら正門を抜ける。
しかし失敗だった。天下の双葉様はしっかり気付いていました。
「あら、佑斗。挨拶はなしかしら?」
「何言ってんだよ、双葉。じゃあな」
「それより佑斗、隣の人は誰?」
俺が別れの挨拶をしたのにも関わらず話をふってきた。
「えっと、桜井さん。これから遊びに行くんだ」
そう言った途端、双葉の顔が一瞬曇った気がした。
それは気のせいだったのかすぐにいつも通りの双葉の顔になった。
「そう、せいぜい楽しめるといいわね」
何となく棘のある言い方だな・・・
「じゃあな双葉、明日学校で」
「うん。バイバイ。桜井さんもさよなら」
「さよなら」
少し時間を潰すことになったが俺たちは予定通り街に向かった。