Episode29:一言あれば捕まります
俺が今どこにいるかといいますと・・・
もはや定番の場所になりつつある取調室・・・
どうしてこうなったかというと・・・
上手く教室から脱出した俺は屋上で午前中を過ごした。
授業に戻ろうと考えもしたがめんどくさいからやめた。
そして、午前中の授業が終わり昼休みに教室に戻った。
そこには双葉もいてやっと来たわねみたいな顔をしていた。
双葉は席に座ったままで俺を捕まえる気はなさそうだった。
俺は諦めてくれたのかと思い喜んでいた。
でも、もちろんそれは違っていた。
双葉は突然、俺に向かってこう言った。
「佑斗、捕まりなさい」
俺は一瞬ポカンとした。
そして思い出した。双葉と賭けをして負けたことを。
「・・・・・・」
「あんたは一ヶ月私の僕なのよ。分かってるでしょ?」
「分かってる・・・・・・」
「なら、一緒に取調室に行きましょう」
「・・・・・・・」
こうして俺はなすすべもなく捕まってしまった。
取調室には俺と双葉の2人だけしかいなかった。
さっきは意識してなかったけど今はなんとなく恥ずかしい。
自分の気持ちに気付いてしまった今、双葉との接し方が分からない。
「はぁ」
溜息をつくと双葉が笑顔でこう言った。
「ペナルティーだけど、何がいい?」
「楽なもの」
俺は素直にそう答える。
「却下」
どうせ何も許す気ないくせに・・・
「じゃあ、こんなのはどうかしら?」
結局は自分で提案するんだ・・・
俺はそう思いながら返事をする。
「何?」
「腕立て500回」
どうして体育系の罰なんだよ?
俺の疑問をよそに双葉は自分の提案を素晴らしいと思っているようだ。
「我ながらいいアイディアだわ」
何もいいアイディアじゃない・・・
「決定ね。佑斗、あんたのペナルティーは腕立て500回」
「そんな回数できるわけないだろ」
「途中で休憩入れても構わないわよ」
当たり前だろ・・・
「500回って多くない?」
「そう?じゃあ1000回がいい?」
「いいえ、ごめんなさい」
俺は結局、腕立て500回をするはめになった。
腕立てを始めて既に30分が過ぎていた。
回数は半分をちょうど超えたところだった。
腕はというともう既に感覚がなかった。
帰宅部の俺には拷問以外の何物でもなかった。
帰宅部じゃなくとも拷問だけど・・・
午後の最初の授業の終わりを告げる鐘が鳴った時、俺はやっと500回を終えた。
教室に戻るとクラスがいつもより賑やかだった。
近くにいたクラスメイトに聞いてみると、
「次の授業の先生休みなんだって」
と教えてくれた。
皆が嬉しそうにしているのも頷ける。
先生が休みっていうことは授業は自習ということだ。
自習というと真面目な印象を与えるが、
実際はそれは名目上だけであり自習する人は少ない。
勿論、俺がするわけがない。
自習の時間は睡眠をとることを決めているのだから。
5時間目の始まりを告げる鐘が鳴り先生が入ってくる。
この時間は数学の時間だったけど入ってきたのは関係ない先生だった。
どうやら担当の先生は本当に休んでいるようだ。
その先生も3分ほどで出席を確認し教室から出て行った。
先生が教室を出て行くと同時に俺は机に突っ伏して睡眠タイムに入った。
「キーンコーンカーンコーン」
5時間目の終わりを告げる鐘が鳴り響いている。
俺はその音で目を覚ましゆっくりと体を起こす。
それと同時に右腕に違和感を感じた。
恐る恐る右腕の方を見てみると、右腕と机が手錠で繋がれていた。
「・・・・・・・・・」
言葉が出なかった。そして眠ったことを後悔した。
この手錠が告げる意味・・・
それは取調室への連行以外にありえない・・・
俺は周りを見渡し双葉を見つけてから声をかけた。
「双葉」
友達と楽しそうに話をしていた双葉は俺に気付き近づいてくる。
「やっと起きたんだ」
邪魔されたのが嫌だったのか声が少し不機嫌になっている。
「まぁな。それより手錠を外せ」
「はいはい。あんたこのまま連行ね」
「分かってるよ・・・」
「今回は素直なのね?」
「どうせ一ヶ月間は抵抗しても無意味だろ」
「それもそうだけどね」
「ってかお前それなら手錠付ける必要ないだろ」
「気分よ。久しぶりにあんたに手錠はめたくなってね」
気分で手錠を使うなよ・・・
「あっそ・・・」
「うん」
俺たちはこの後ずっと無言で取調室へと向かった。