Episode18:気付いていないこと
文化祭についての話し合いの後の帰り。
俺が一人で歩いていると後ろから声をかけられた。
「壬柳君」
声の聞こえた方を振り向くと桜井さんがいた。
「桜井さん、どうかしたの?」
「何もしてないわよ。ただ壬柳君を見つけたから」
「そう、何か用だった?」
「特に何もないわ。一緒に帰ろうと思って」
「そう、じゃあ行こうか」
「そうね」
桜井さんの返事と共に俺達は歩き始めた。
会話はとりとめもないような日常の話だった。
しかし突然、桜井さんが話題を変えた。
「壬柳君、最近元気ないわね」
「そう、俺は何も変わってないと思うけど」
「変わってるわ。私から見るとよく分かるもの」
「え?」
「多分、他の人から見ても分かると思うわよ」
「そうかな?」
「えぇ。だから何かあったんでしょ?」
「別にこれといってあるわけじゃないけど」
「そう。じゃあ、あなたが気付いてないだけかもね」
「え、どういう意味?」
「そのままの意味よ。あなたが気付いてないだけ」
「・・・・・」
「あまり深く考えないほうがいいわよ」
「あぁ、そうする・・・」
「じゃあ、私はこっちだから」
「あぁ、じゃあね」
「うん、またね」
彼女はそう言うと暗い夜道を歩いていった。
そういえば、桜井さんは俺と家が逆方向だったんじゃ。
今更だが俺はその事を思いだした。
同時に疑問に思っていた。
どうして桜井さんはわざわざこの方向に来たんだろうか。
近くに知り合いの家でもあるのだろうか?
それとも、俺に何か言いたい事があったのだろうか?
多分、後者だろう。間違いないと思う。
さっきの会話を思い出してみる。
「あなたが気付いてないだけ」
その言葉が頭の中リフレインされる。
俺が一体、何を気付いていないのだろう。
考えても分かりそうにはなかった。
彼女は言った。あまり深く考えないほうがいいと。
もしかしたら自然に分かるときが来るのかもしれない。
次の日は、土曜日で休みになっていた。
土曜日は一週間の中で俺の一番好きな日だった。
今日も休みで更に明日も休みだからだ。
なんて素晴らしい日なのだろう。
そんな俺の素晴らしい土曜日を壊したのは1つの電話だった。
午前10時。まだ熟睡している時間。
俺の携帯電話が鳴り出した。
不愉快な気分に陥りながら画面を見ると双葉からのようだった。
一瞬、取ろうか取らないこうか迷ったが取ることにした。
後々の事を考えると取るに越したことはない。
風紀委員の権限で何かされたらたまったもんじゃなかった。
「はい、もしもし」
「佑斗、今日12時に学校集合ね」
「はぁ、何でだよ?」
「文化祭の話し合いよ。やっぱり喫茶店なんて嫌だわ」
「そんなの知らねぇよ。一人で考えろよ」
「何言ってんのよ。みんなでやるものなのよ」
「だったら喫茶店でいいじゃん」
「それが嫌だって言ってるんでしょ」
「・・・めんどくさい」
「関係ないわ。他の皆は来るって言ってるわ」
「俺はパス」
「そんなこと言っていいの?」
一瞬、背筋がぞくっとした。
「・・・・分かったよ。行けばいいんだろ」
「そうよ。行けばいいのよ」
「じゃあな」
「うん。後でね」
あ〜あ、めんどくさい事になったなぁ・・・