Episode10:風紀委員誕生の理由
「校長先生が高校生だった頃の話だけどな」
その学校は県内でも有名なほど荒れていた。
当時、大学受験を控えていた校長先生は
そんな環境に嫌というほどうんざりしていた。
しかし、不良どもにそんな事を言えるはずなく
なかなか勉強も上手くいかず結局、一浪してしまった。
校長先生は悔しがった。
例え学校が勉強しにくい環境であろうと
大学受験に一浪して両親を悲しませてしまったからだ。
話がここまで来て海斗が口を挟む。
「大学狙うならなんでそんな高校行ったんだ?」
ごもっともな意見です・・・
「それは校長先生の家に問題があったんだ」
校長先生の家は貧しかったらしく
とても、有名な私立などには通わすことが出来なかった。
しかも運が悪いことに公立で進学校は近くになかった。
毎日、電車通学になってしまうのだった。
両親に迷惑をかけまいと近くのその高校にした。
高校が近ければバイトとかもしやすかったからだ。
「まぁこんな所だよ、話を戻すけど・・・」
そこまで言ってまた海斗が口を挟んだ。
「家にお金がなかったらどうせ大学無理じゃん・・・」
これも確かにごもっともな意見です。
「高校時代にバイトでためたお金を使う気だったんだろう」
「あぁ」
こんな答えで納得する海斗君・・・可愛そうです。
まぁ奨学金とかがあったんだろうと俺は思った。
「とりあえず話し戻すよ」
ってか今思ったんですが話し聞かないと駄目?
そんな俺も気持ちも考えず話を進める西条さん。
「確か一浪したところまで話したよね」
次の年に校長先生は大学に見事合格が決まった。
その時校長先生は決心したらしい。
校長先生になって私のように苦しむ生徒が出ないようにと。
そして風紀委員を思いついた。
そしてこの学校に風紀委員が出来た。
「そして風紀委員にいろんな権限を与えたんだ」
なるほど。風紀委員共が生徒会より偉いわけだ。
「最初の風紀委員になった方々は戸惑ったそうだよ」
「何にですか?」
俺はそんな質問をした。
「どんなペナルティーを与えたらいいかに戸惑ったんだ」
与えないって選択すればよかったのに・・・
「そこで校長先生がいろいろ指示したんだ」
「へぇ・・・」
「つまり僕達のペナルティーの内容は校長先生譲りなんだよ」
「・・・・・・・」
「では続き頑張ってね」
それだけ?
ドアの方へと戻っていく西条さんを睨みながらも
俺たちは漢字の書き取りへと集中していった。
放課後になってやっと半分が終了した。
もう手が鉛筆を持つのを嫌がっている。
持とうとすると拒否反応が出てしまう・・・
いつの間にか見張りは双葉になっている。
ってか俺達が終わるまで見張るのかな?
俺は気を取り直して鉛筆を握ろうとした。
その時一瞬、双葉と目が合った。
同時に双葉は目をそらしてしまった。
俺もほとんど同時にそらしてしまったのだけど・・・
もう一度気を取り直して鉛筆を握ろうとした時だった。
「俺ちょっとトイレ」
海斗がそう言って部屋を出て行った。
勿論、トイレ等で部屋の外に出る時も
付き添いという形で見張られるのだが・・・
海斗が部屋をでていくと俺と双葉は二人っきりになった。
気まずい空気が部屋中に流れている。
何とかしたいけど何ともできない。
俺たちはただただ俯くばかりだった。
3分ほどしてやっと海斗が戻ってきた。
海斗が戻ってきて少しだけましになった。
それでもやはり気まずいのに変わらず
俺は息苦しい感じになっていた。
稀に視線がぶつかった時が1番気まずかった。
「はぁ・・・あんな事しなければよかった」
今更そんな事を後悔して俺は誰にも聞こえないように呟いた。