就職勇者の給料日
気分転換に短編を書いてみました。
俺は就職活動の真っ最中だ。
各方面にアンテナを巡らせ、少しでも良いところに就職できるように色々としている。
今日も狙っている先に勤めている先輩などに、アポを取って会ってきていた。
俺は大学に入ったときから、励み少しでもいい勤め先に入れるようにと努力をしてきた。
その上更に伝手を得られる様にと、業界で評判のいいサークルに入り交友の輪を広げたいた。
ここまでして生半可な企業など入りたくも無い。
だからだろう俺の決意が実を結んだのか、既に何社から採用通知を貰っていた。
さてこれからの予定はなんだ……と既に覚えていることを、再確認するためにもスケジュール帳を開いて眺めていると――
いつの間にか人の気配が段々と感じなくなっていた。
なんだ? 避難警報でも発せられたのか?
周囲を確認し、危ないようなら避難しないといけない。
こういうときは総じて暴走車などが現れるものだ。自分は死にたくないからとルールを犯し、自分本位で勝手にねじ曲げる。
その結果1人が輪を乱し、周囲が混乱し、そして事故につながる。
俺は避難するため、近くの建物に入ってやり過ごそうとする。
が……いくら歩いても、その建物にたどり着くことはできない。
なんだ? 一体これはなんだ!?
やがて走るようになり、それでもまだ建物に近づくとが出来ないで居る。
全力疾走になるまで、そう時間は掛からなかった。
だがそれでも近づくことができない。――いや、寧ろ遠ざかっているよう気がする。
俺は一度冷静になるために立ち止まり、再び周囲を見渡した。
そうすると周りの景色が薄くなっている様な気がした。
気のせい……ではない! 確実に周りが薄くなっている。
常識の埒外な事が起こり、俺は混乱のさなかにいた。
ついには辺り一面真っ白な世界になっていた。
そしてその時、その空虚な空間が崩れ落ち俺は意識を失った。
「成功だ。成功したぞ」
「これで…ようやく……」
「長かった。ここまでとても長かった……」
声が聞こえる。
俺はその話し声によって意識が浮上した。
「宮廷魔術師達よ、よくぞやってくれた」
少し遠くから少し威厳のありそうな男の声が響いてきた。
聞いたことがない声だ。だが通りがよくプレゼン向きだな……などと俺は思った。
「陛下! どうやら勇者様の意識が戻られたように思えます!」
「そうか! おいっ! 水を持ってこい」
何やら慌ただしい状況の様だ。
それにしても勇者様? どこかの劇団が演目の練習でもしているのか?
そんな陳腐な内容じゃ一般向けじゃないだろうななどと考えていると――
「勇者様。起きて下さい。水をお持ちしました。どうぞお飲み下さい」
近くで声が聞こえた。
随分俺の近くで演ってるようだな。寝ている人がいるのだから、もう少し気を使ってくれれば良いのに……
いい加減起きるべきだな。そう考えて俺は目を開き身体を起こした。
寝入ってしまってからの状況確認をするため、注意深く様子を探る。
いつの間に寝てしまったのか、俺は記憶に無かった。
しかし……随分と気合いの入った設営だな。まるで本物の宮殿のようだ。
見渡すと、そこは西洋風の石造りの柱で天井を支えた広間のようだった。
細く長い赤い絨毯が敷いてあり、それは離れたところにある大きな扉と、王座らしき大道具が繋ぐ線のようだった。
俺は何故このような場所にいるのか理解できなかった。
演劇部とは全く繋がりもないので、代役のために拉致られたというのは考えづらい。
そもそもだ……うちの大学に、このような設備を使えるような演劇部は存在しない。
そんな事を考えていると、周りが静かになっていた。
なんだ? 様子がおかしい……そう思って俺は辺りを観察していると、どうやら皆俺を見ているらしい。
もしかすると……だ。これは俺が起きたせいで演技が中断してしまったのか?
だがそういうことでは無かったらしい。なぜなら――
「勇者様。さぁどうぞ」
そう言って兵士のコスプレをした男が、俺に水を差しだしてきた。
俺が勇者役? 釈然としないものを感じたが、のどが渇いていたこともあったので有り難く頂戴することにした。
「ああ、済まないな。ありがとう」
差し出された水を飲み干す。
美味い。喉が渇いていたこともあっただろうが、それにしても美味い水だ。
随分と金を掛けている劇団だ。このような水にまで金を掛けているとは……役者のテンションを上げるための必要経費ってやつか?
段々と意識がはっきりしてきた。水を飲んだことで一気に覚醒したのだろう。
寝ぼけていた頭がようやく働くようになった。
とりあえず何時までも寝っ転がっているわけにはいくまい。
そう思って俺は立ち上がった。
「おぉ勇者殿。よくぞ参った」
「勇者とは俺のことか?」
ふむ……知らないうちに俺は勇者とやらになっていたらしい。
記憶に無いんだがな……まぁ王様役らしき人以外に傅かれているというのも悪くは無い。
なんだかんだ就活で疲れていたこともあったし、気分転換にいいと思ったから、ある程度付き合ってあげることにした。
「それで何か用があるのか?」
俺は話の流れから、そう言い出した。
てっきり王様がストーリーを話すのかと思ったが、近くに控えていたハゲ頭のおっさんが代わって話だした。
「それについては私からお話しします。
私はこの国の宰相をしております。それで――勇者様にお願いしたいのは、この国……いや世界の危機を救って頂きたいのです」
「ほぅ……世界を…とな」
良くある定番の『勇者が世界を救う』という物語らしい。
俺は大物ぶった感じを演出し、宰相に語りかける。
「はい。この世界はもうまもなく闇に包まれてしまいます。それは突如現れました。伝説にある封印されし魔王が復活したのです。その悪しき魔王がこの世界を手中にすべく世界を闇に包もうとしているのです」
「魔王……ね。どこにでも居る存在だな。――俺もかつては違う世界で魔王を倒したものだ」
「「「「「「おぉぉぉぉおお」」」」」」
周囲から声があがる……驚きすぎだろ。
誰だってガキのころは違う世界にはまるし、その時魔王の1人や2人は倒しているだろ?
まぁ台本なんて無いから、適当に言っただけなんだが……反応を見る限り悪いことではなかったらしい。
「なんと、――既に魔王を……」
「さすがは勇者様ですな」
「まさに伝説に謳われる異界の勇者様よ」
貴族役らしき男達が勇者役をヨイショする。
意外に悪くない。俺は鼻の穴が広がっているのが分かった。
いかんな……勇者たるもの、簡単に心を乱すようなことがあってはいけない。
俺は自分が理想とする勇者像を思い浮かべ、最後までなりきることにした。
「それで……俺にその魔王を倒して欲しいということだろうか?」
「その通りでございます」
倒したら大魔王が出てくる……ということは尺的にあり得ないだろう。
好評で続編が作られるとか、打ち切りEND風の最後ならあり得ることだろうが……まぁいい。
だが、このまま素直に頷くのも面白くない。
せっかくアドリブでここまでやってきていたんだからな。
「ふん、俺に頼む前に勿論何か手立ては打ったんだろうな?
いくら俺でも既に手遅れ……という状況ではもはやどうにもすることはできんぞ?」
「も、勿論でございます。本来ならば我々の世界のことなのですから、勇者様のお力を借りること無くなんとかしたかったところなのですが……」
「たしかに、な。それで? どのような対策をしてきたんだ?」
「まず基本的に、魔王の先兵を防ぐために軍隊を派遣しました。勿論周辺国と会わせた連合軍です」
「なるほど。だが俺が呼ばれたということは……失敗に終わったんだろ?」
「はい……口惜しいことですが、現在は防衛に配する兵のみとなり持ちこたえるだけが精一杯なんです。
ですが! 敵将を討ち果たすだけはなんとか成功させることはできました。これにより魔王の侵略が一時停止している状況なのです」
「敵将ね……四天王の1人という予感がするな」
俺がそう呟くと周りは騒然とした。
「な、何故それを!?」
「まさか……勇者様は過去を見通す目を持っておられるのか!?」
「いや、そのような神の御技はいくら勇者様とはいえ不可能だ」
「ならば……はっ! まさか魔王の僕なんてことは!」
「ば、馬鹿をいうなっ! 失礼だぞ!!」
ノリがいい奴等だな。ならばこそ定番のあのセリフを言うべきだろうな。
「俺がかつて倒した魔王にも、側近と頼りにしていた四天王と呼ばれる強大な将軍達が控えていた。
それによるとだ……最初に出てくる者は間違いなく最弱!! 今頃は『あやつは我らの中でも最弱。面汚しもいいところだ』などと言っている可能性があるな」
「な、なんと……あのような存在が最弱!!」
それからしばらくはざわざわとして、話が進まなかった。
いいのかこれ? 尺足りなくなんぞ?
「皆のものしずまれぇぇえええい!!」
そんなときだった、突如王様が立ち上がり大声を出した。
「狼狽えるでない! それは過去のことである。今は勇者様がここにいるではないか! まだ希望は残っておるのだ!!」
どうやら王様のカリスマを演出するシーンだったようだ。
間の取り方がいまいちだった気がするが、まぁ修正できたならそれでよしとするか。
「まぁ、俺に任せれば問題ない。もっとも敵軍とは直接はやり合えないがな。何せ俺は1人だからな」
「確かに勇者殿は1人だな」
「敵軍の足止めは任せる。その間に俺が魔王の主立った将を倒してくれば問題は無い。将無き軍は烏合の衆に過ぎない。この国にも優秀な将はいるのだろう?」
そう言って俺は王の近くに控えてる、高そうな鎧を着けた男達に視線をくれてやる。
「もちろんだ。このものは一騎当千の猛者達よ」
一騎当千の癖に魔王軍に敗北した……とここでいうのは白けるだろう。
俺はその王様の言葉に乗ることにした。
「彼らならば魔王はともかく、その先兵から国を守ることは造作も無い……俺はそのように感じた」
「勇者様に言われるまでもなく、我らこそ国の盾であると自負している!」
「ならば任せる!!」
俺がそう力強く宣言すると、将軍達の顔に芯が入ったように見える。
おぉう、役者だな。イケメンだし映えるだろう。
というか今気付いたよ。
奥にメモってるやついるから、アドリブでやってから台本にする形なんだな。
素人が考えた方が、大衆向けってか?
なら見せてヤンよ。素人が演出する勇者劇ってやつを、よぉ!
「俺は勇者。魔王を倒す者である。そして将達は国を守る。ここまではいいだろうか?」
「あぁ、勿論だ」
「ならば俺もこの国の一員というわけだな」
「勇者殿は我らの代表ともいえるな」
いつの間にか対話役が王様に戻っていた。宰相役仕事しろよ……。
まぁ、いい。着いてこれない奴は放っておくに限る。
「ところで、そこの諸将達も当然国に仕えるからには給金があるわけだよな?」
ピシッ。
いきなり方向性が転換したことで周囲は緊張に包まれた。
「う、うむ。勿論国に対し貢献している者達だからな……当然国庫から出されておる」
「なるほどなるほど……。ということはだな、俺にも当然給料はでるってことだよな? あ、準備金も必要だけどな?」
そう、俺が不満に思っていた勇者ストーリー。
最初に王様に端金を渡されて、さあ魔王を倒してこいとは随分なことだと感じていた。
だから勇者は腹いせに、宝物殿から宝を盗み出したり、民達から義援金というなの搾取をしなければやっていけないのだ。
モンスターがお金を落とすということなどないのだから。
あったとしてもそれは侵略した国の金というわけだしな。
「勇者様! いくらなんでもこの場で金の話など、不謹慎極まりないですぞ」
「そうじゃそうじゃ!」
「うむぅ、勇者様は疲れておいでのようじゃ」
なにやら老害役が騒ぎ出した。
まさに定番ってやつだな。俺のアドリブに狼狽えている若い連中とは、格が違うと言ってもいいだろう。
「名誉や誇りで腹が膨れるか?」
俺は淡々とそう述べた。
聞こえるか聞こえないか微妙な大きさというところが肝だ。
「なんといった?」
王様は俺にそう聞き返す。
やはり腐っても王役だ。分かってるな。王が全面に出れば他の貴族は口出しできない。
「名誉や誇りで腹が膨れるか? と言ったんだ」
今度ははっきりともの申す。
「現物支給も良いだろう。だが俺は長期潜入任務につく事になる。ならば食料は腐ってしまう。ならば金で貰うほかないでは無いか!」
「ぐぅ」
老害どもが狼狽える。だが腐っても貴族役、なんとか俺に言い返してきた。
「そこは勇者様のお手前で、現地調達などなされては?」
「ほう、あなたは民から徴発しろと言っているのか? それを公布していただけるのならそれでも構いませんよ」
俺はそう言い返す。タンスを開けることこそ勇者の使命。
「クッ……、陛下のご威光ならばそのようなことを為されずとも、民は協力してくれる」
「ふん、俺は王様じゃなくて勇者だ。俺の顔など知らない民にとって、そのようなことをすれば強盗だと判断するだろうな。それで魔王討伐が手遅れになる……ということもあり得るな」
「き、貴様! 我らを脅しておるのか!?」
取り繕った仮面が剥がれてきたようだ。実にいい演技をする。青筋を浮かべるのも体力がいるからなぁ……。
「脅す……とは人聞きの悪いことをおっしゃる。私は事実を申しているのですよ。しかも……勿論それは経費です。私に対する報酬という給金はまた別ですよ」
「き、貴様は金の亡者か!!」
「ならばあなた方も無給で国に奉仕したらどうですか? 給金をほしがるなら金の亡者なのでしょう?」
「あ、あげあし・・・を揚げ足をとりおって!!」
あっ、カタカタ言ってる。あそこまで興奮すると倒れてしまうんじゃないか? いくら演技に力が入ってるからといって無理はしちゃいかんよね。
俺は可哀想になり、標的を変えることにした。
「何も大金を寄越せといってる訳じゃ無い。当たり前のことをしろと言ってるわけです。そうですよね宰相? それとも国の事業ともいえる魔王退治に予算が下りないなど……言わないですよね?」
そう、空気となっていた宰相にだ。
宰相という大役の癖に、影が薄いとか後で降板されるのはよくないと思い、俺は手をさしのべたのだ。
「勿論です勇者様」
おいっ! せっかくの援護射撃にそれしか言えないのかよ!
「……ふぅ。必要経費は除いて、基本給は……そうだな将軍ほど出せとは言わない。
俺はこれから潜入して、様々なところを独断で転戦していくということになるわけだ……。
つまり作戦を立案、そして実行する階級ということになるな。
せめてその程度に相応しい給料は欲しいものだな。給金に責任は伴うものだからな。あまり冷遇されるとなるとやる気も失せる」
「ふむ、そうなると上級隊長ということになりますね。その程度でしたら問題は無いでしょう」
宰相ではなく、今まで黙っていた王の近くにいる別の貴族が答えた。
――どうやら財務卿役といったところだろうか……。絶妙な間だ、今までタイミングを計っていたのだろう。
それにしても………………宰相お前もういらねーよ。
「じょ、上級隊長クラスとなると金貨1枚といったところですね」
豚のような貴族が慌てて発言した。
「それはどのくらいの日数でだ?」
「ね、年間で……だ」
怪しさ抜群だ。恐らく着服しているのだろう。それが減るということで慌てているのがよく分かる。
そしてそれを確認すべく、軍務に携わって居るであろう者達の様子を伺う。
――やはりな。
どうみても、なにいってんのこいつ? といった顔をしている。
「舐められたものだな。そしてそれとともに哀れみも感じる……。滅亡するかしないかという瀬戸際で自分の懐具合の計算か? 着服したお金で食う飯はさぞかし美味かろう」
「な、なに……何をいってりるのりゃ!」
動揺しすぎて、ろれつが回っていない。
実に良い演技をする。まさに適役だな。体型から飯としたが、これで痩せていたらそのセリフももっと別の物にしないといけないところであった。
俺は王様に視線を飛ばし、合図を掛ける。
「卿……、そなた。かつて一度許された身でありながら、再びそのような事をしているとは、な。もはやそなたに付ける薬もなし! ものどもひったてぃ!!」
おぉー時代劇のようだ。和洋折衷な気もするがいいものはいいのである。
そして豚貴族が兵に抑えられ、引きずられていった。
抵抗している様子だが、いかに体重が重かろうが、ガタイのいい兵役達には勝てるはずもなかった。
「悪いことをしたな、勇者殿」
「いや、膿は出しておくべきだからな。いくら俺でも孤立無援――後方支援がなくなったら、死んでしまうからな」
「確かに、な」
「裏切り者もいずれ出てくる可能性もある。この国でとは言わない。他の国が魔王の元に靡く可能性もあるということは忘れない方が良い」
「むぅ……」
他人のアドリブに乗せられてしまい、随分違う方向に進んでしまった。軌道修正しなくては――。
「それで上級隊長の給金とは本当はどのくらいなのだ?」
「月初めに金貨1枚である」
「本当にか? これは国家事業だぞ? 自信をもって言えるのか?」
「ああ間違いない。かつて俺がそうであったからな!」
そう答えたのは先ほどの将軍。実に説得力のある発言だ。
「ならば給金は良い。後は経費による支度金だな。これはいくらほど出せる?」
「ひとまず……そうだな、財務卿どの程度出せる?」
そう王様は先ほどのナイスな役者――やはり財務卿に問いかけた。
それに答えてすらすらと話し始める。出来る男は違うな。あ? まだ宰相いたのか? 早くこの場から去れよ。
「そうですね、いくら勇者様とはいえ、実績がありませぬ。それ故、確保できる財源全てを渡す……という訳にはいきませぬ。
ならばひとまず金貨3枚。これだけあれば少なく見積もっても2ヶ月ほどは持つでしょうな」
「なるほどな、まずは結果を見せろ……と。だが、長期戦略でそれ以上掛かる場合も勿論でてくるだろう。その時はどうする?」
「あくまでこれは、最初の経費である。何か戦績を残せば、次回作戦を提出して頂ければその都度予算から排出すると約束しよう」
なるほどな、財布のひもがしっかりしている財務卿役ということなのだろう。
俺は芯のある役柄に深く納得し、承諾する。
「なら次だ」
「次? まだ何かあるのか?」
そう答える王様は少し引きつっていた。
次はどんな無理難題をいうのだろうか……と言ったところだろう。
だが、無理難題など言った覚えは無いのだがな。
「装備だ」
「装備?」
「ああ、見ての通り身一つで来てしまったので、俺専用の装備は手元にないわけだ……言いたいことはわかるか?」
そういって俺は先ほどの将軍に顔を向ける。
将軍は自分の武器を要求しているように思ったのだろうか、さりげなく剣をずらし背中にかくした。
ちげーーーーーよ!
彼も武人の役になりきっているのだろう。自らの武器を大切にするという武人らしい武人を演出していると予想できる。できるが――
正直もっと格好いいのが欲しいんだよ!
勇者に相応しい装備は、そのような何の変哲もない剣などではないのだ。
「別に他人の物を寄越せといってるわけじゃない。俺にも国に所属していると分かる物か、勇者と分かるような物が欲しいんだ。なまくらじゃ刃が立たないこともあるだろうしな」
「なるほど……確か伝承で勇者の剣がどこかにあったはずだな。宰相分かるか?」
「はい、たしかあれは――」
おぉぅ、伝承を語るという役が残ってたのか……それなら確かに退場させる訳にはいかなかったのも納得できるが、そういうのは王女役の人にして貰いたいものだ。
ふとそう思うと、居るはずの人物が居ないことにようやく気がついた。
定番では勇者召喚は王女が指示をするものである。
俺を召喚したと思われる魔法使い達は、どうみても爺さん連中だ。
ガンダ○フを初めとする老魔術師の方が確かに、いかにもらしい魔法使いだが、そのようなことは求めていない。
そもそも勇者の冒険譚とか見るのは若い世代だぜ? イケメンの将軍達はいるのに美少女がいないというのはよろしくないんじゃないか?
「――以上です。陛下」
おっと、聞いていなかった。まぁ宰相だしいいよね?
「ふむ……ならばある程度魔王の軍勢を混乱させた後はその……勇者の剣を捜索せねばなるまい。だがそれも今の窮地を抜けてからだ」
「その通りでございます、陛下」
「ならば勇者に、我が国に誇る名剣を授けるべきだと思うが、皆の者どうだろうか」
「「「御意にございまする」」」
あーなんか茶番劇だなぁというった感じになってしまった。
やっぱり宰相絡むと質が低下するな。
本来部外者の俺からいうのもあれだしなぁ……などと考えていると、俺の前に一振りの剣が運び込まれた。
「勇者様、我が国の誇る名剣でございます。確認をお願いします」
そう促され俺は剣を取る。
結構重たいな……、俺はそう感じていると、
「抜いて確認されないのですか?」
と問うてきた。
仕方ないとばかりに俺は頷いて、鞘から抜きだした。
そして一通り眺めた後、やはり大物ぶって告げる。
「そこそこだな、この程度ではおそらく魔王には通じまい」
実に態度が悪い勇者である。もらい物に一々ケチをつけるとかとんでもない話である。
だが、あの宰相が居る限りこの劇は多分当たりはしないだろう。
もうあきらめの境地で俺は流されるまま進むことにした。
「あくまで間に合わせだから。勇者の剣――それこそ魔王を倒すことのできる唯一のものなのだ」
その後もなんか色々言っていたが、聞き流した。
正直飽きてきたからだ。
そろそろ現実にもどって就活の続きしなきゃな。
そう思った俺はこの幕を閉じるべき次のシーンに移ることにした。
「あまりこうしていても手遅れになるかも知れない。そろそろ出立使用と思うが、金は準備できているか?」
「………それもそうだな。例の者をここへ」
「はっ」
王様は側近に指示をだし、その者が広間を出て行った。
それから待つこと数分、男が1人の従者を伴い再び戻ってきた。
「勇者様、そのものはあなた様の従者となります。お金などもその者に持たせておりますのでお連れください」
そういって紹介した従者は――普通の男だった。
まぁ今更美少女とか期待していないけどね。
「そうか、では出立する。そこの者着いて参れ」
そう宣言し俺は扉に向かった。
「勇者様御出陣」
そう門兵が告げ、開きだした。
そして、俺は現実に戻るべく扉を潜ったのだ。