表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

バイト

バイト先は意外に早く見つかった。

近所のしティモールの食堂だ。

料理ができない俺を、それでもいいと言ってくれた親切な店長さんの元で働くことになる。

制服も貸与ありだ。

時給750円。これもまあまあだ。


バイトは学校が終了したあと六時から九時半までの三時間半だ。

土日は丸1日。


ユイが不満を言うんじゃないかと思って、当日まで秘密にしていた。

「じゃあ、俺バイトに行ってくるから」

そう言い残して家を出る。

「卒業制作大丈夫なの?」

結局ユイはついてきた。

俺の職場を確認しておきたいらしい。


俺はまずお好み焼き担当になった。

先輩から仕事を教わる。

キャベツにタネを混ぜ、先に焼いた豚肉の上に乗せて焼くだけだ。

楽勝、と思いきや、ひっくり返すという至難の技が必要だ。

この、ひっくり返す、が何度やっても綺麗にできない。

先輩はすぐに慣れるよ、と言う。

ユイは我慢できなくなったのか、ひっくり返す俺の手をとって教えてきた。

あれ?できるじゃん。

一回出来るようになると次から次へとできるようになる。


先輩が、

「なんだ、コツを掴むのが早いな」

と、笑いながら言ってくれる。


その日は三時間半勤務なので休憩は本来ないのだけれど、先輩の好意で15分間休憩をもらった。

俺は休憩所にいくと、タバコに火をつけた。


するとユイがすかさず

「タバコなんて、いつ吸い始めたの?」

と、多少お怒り気味に聞いてきた。

そういや、ユイが来てから家でタバコを吸ったことはなかったな……

「お前が死んでからしばらくしてからだよ」

と言う。

「タバコは身体に害だから、だめ!」

めっ、としてくるユイ。

「タバコくらいいいだろ?酒を飲むわけでもなし」

それでもユイは聞かない。

「ダメと言ったらダメなんですッ」

「俺はやめる気はねーからな」

そこまで話すと、他のバイトが入ってくる。

ヤバい、聞かれたかな?

表情を見ると、聞かれていたことがわかる。

俺は携帯を握りしめ、いかにも携帯で話してたよ的な方向へ持っていく。

バイト生もあーね、という感じでタバコに火をつけた。


俺はそっと片隅から出口へ向かって歩いた。


そうか、携帯で話してるふりをすれば周りにはわからないんだ!

一つ学習したぜ……

俺の変な汗も吹き飛んだ。

「おぅ、新入り、休憩所わかったか?」

先輩が尋ねる。

「はい、すぐにわかりました」

「嘘つき、迷った癖に」

俺はユイの腕をつまんでねじった。

「痛い、痛い、いたたたた……」

ユイには痛覚もあるらしい。

ご飯を食べないこと以外は全く普通の女の子だ。


ユイはバイトが終わるまで、ウィンドウショッピングを堪能したようで、

「欲しい服があった」

とねだってくる。

「給料が入ったらな」

「給料まで待ってたらなくなっちゃう」

帰宅途中の自転車の後ろで膨れっ面しているのがわかる。

「だってお前、幽霊は着替えられないじゃん」

「そんなことはないんだよ。お炊きあげすれば着れるんだもん」

「だけど、お前ちゃんと自分のサイズに合うの見つけたの?」

「そっ、それは……」

これはサイズを見ずに選んできたに違いない、と俺は確信する。

「なんでも欲しがるのはいいけど、サイズくらい考えろ。お前今、小学生くらいしかないんだから」

「……はい」

「それから、うちには経済的余裕はないからな、しっかり覚えとけ」

「……はい」

あれ?ちょっと強く言い過ぎたかな……?

「私もバイトしてもいい?」

「バイトぉ?」

「イラスト描くからそれを売って欲しい。そしたら好きな服も買えるんでしょ?」

「まあ、そりゃそうだが、お前のイラストが売れるかどうか……」

「売れるかどうかはやってみなきゃわからないでしょ?」

まあ、せっかくカンバスも買ったし、自由にさせてもいいかな……

俺はそう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ