葬儀
『コウヘイくん?ユイが、ユイが……!』
ユイの携帯からかかってきた電話の声の主はユイの母親だ。
ただ事ではない母親の声に俺はイヤな予感がした。
「ユイが、どうかしたんですか?」
『ユイが死んじゃった……!』
「えっ……?死んじゃった?まさか」
俺は病院の名前を聞くと、タクシーを急がせた。
タクシーを降りて病院に駆け込むと、受付で名前をいい、安置室へと通された。
俺は土気色になったユイの姿を見た。
お母さんが横で泣いている。
お姉さんと妹さんは壁に寄りかかって遠くを見ている。
お父さんはお母さんを抱き締めるように、そこにいた。
ユイは赤信号で突っ込んできたトラックにはねられ、死んだ。
運転手は、居眠り運転だったらしい。
かろうじて顔だけはきれいなまま、俺のユイは横たわっていた。
「おい……嘘だろ?起きろよユイ!起きろ!」
揺さぶってももうユイは起きない。
「嘘だといってくれッ……!」
ユイは冷たいままだった。
お通夜の晩、俺も一緒に立ち合わせてもらった。
もう、ユイのあの元気な姿を見ることは一生できない。
ユイの笑い声を聞くことは一生できない。
ユイの怒った顔を一生見ることはできない。
もう、ユイの――――
お通夜は静静と進んでいく。
俺はまだ、ユイがそこにいるんじゃないか、という気持ちで実感がわかなかった。
眠れなかった。
――葬式。
ユイの友達がたくさん来てくれる。
俺は親族席に座っている。
あのときの合コン仲間の顔もあった。
学校の先生らしき人がきて、
「この度は御愁傷様なことで……竹中くんの絵には才能がありました。今後を期待していたのですが……残念です」
と言った。
ユイの顔写真の周りには、今まで描いてきたユイの力作が並ぶ。
一緒に炊きあげるのだという。
俺はその中でも一番、ユイの好きだった絵をもらうことにした。
その絵のモデルは俺たち二人。
手を繋ぐ二人の姿が描かれていた。
葬式が進むにつれて、ようやくユイがいなくなった現実に向き合えるようになってきた。
ご焼香の列はまだまだ続く。
ユイは面倒見がよかった。
だから、後輩たちまで参列してくれた。
お経の音が静かに響き渡る。
俺のユイはもう戻ってこない。
俺はお経の中でいやというほど思い知らされた。
お経も終わり、出棺の時間になった。
俺たちはタクシーで火葬場まで行く。
火葬場に入ると独特な、寂しげな感じがした。
ユイはたくさんの作品と共に天高く登っていった。
お骨を一つ一つ丁寧に拾い上げていく。
そのたびにお母さんは泣く。
お父さんはそんなお母さんの側で寄り添うように立っていた。
俺もお骨を拾う。
こんなにユイは小さかったんだね、と思う。
不思議と、俺の中でくすぶっていた悲しみは薄らいでいった。
ただそこには、いとおしさだけが残った。
ユイは小さな骨壺の中に入ってしまった。
俺にも特別に小さな骨壺をもらい、そこにユイのかけらを入れてもらった。
俺とユイの恋は、終わった。