表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

葬儀

『コウヘイくん?ユイが、ユイが……!』

ユイの携帯からかかってきた電話の声の主はユイの母親だ。

ただ事ではない母親の声に俺はイヤな予感がした。

「ユイが、どうかしたんですか?」

『ユイが死んじゃった……!』

「えっ……?死んじゃった?まさか」

俺は病院の名前を聞くと、タクシーを急がせた。



タクシーを降りて病院に駆け込むと、受付で名前をいい、安置室へと通された。

俺は土気色になったユイの姿を見た。

お母さんが横で泣いている。

お姉さんと妹さんは壁に寄りかかって遠くを見ている。

お父さんはお母さんを抱き締めるように、そこにいた。



ユイは赤信号で突っ込んできたトラックにはねられ、死んだ。


運転手は、居眠り運転だったらしい。

かろうじて顔だけはきれいなまま、俺のユイは横たわっていた。



「おい……嘘だろ?起きろよユイ!起きろ!」

揺さぶってももうユイは起きない。

「嘘だといってくれッ……!」

ユイは冷たいままだった。



お通夜の晩、俺も一緒に立ち合わせてもらった。


もう、ユイのあの元気な姿を見ることは一生できない。

ユイの笑い声を聞くことは一生できない。

ユイの怒った顔を一生見ることはできない。

もう、ユイの――――


お通夜は静静と進んでいく。

俺はまだ、ユイがそこにいるんじゃないか、という気持ちで実感がわかなかった。

眠れなかった。



――葬式。

ユイの友達がたくさん来てくれる。

俺は親族席に座っている。

あのときの合コン仲間の顔もあった。

学校の先生らしき人がきて、

「この度は御愁傷様なことで……竹中くんの絵には才能がありました。今後を期待していたのですが……残念です」

と言った。


ユイの顔写真の周りには、今まで描いてきたユイの力作が並ぶ。

一緒に炊きあげるのだという。


俺はその中でも一番、ユイの好きだった絵をもらうことにした。


その絵のモデルは俺たち二人。

手を繋ぐ二人の姿が描かれていた。



葬式が進むにつれて、ようやくユイがいなくなった現実に向き合えるようになってきた。


ご焼香の列はまだまだ続く。

ユイは面倒見がよかった。

だから、後輩たちまで参列してくれた。


お経の音が静かに響き渡る。


俺のユイはもう戻ってこない。

俺はお経の中でいやというほど思い知らされた。


お経も終わり、出棺の時間になった。

俺たちはタクシーで火葬場まで行く。


火葬場に入ると独特な、寂しげな感じがした。

ユイはたくさんの作品と共に天高く登っていった。


お骨を一つ一つ丁寧に拾い上げていく。

そのたびにお母さんは泣く。

お父さんはそんなお母さんの側で寄り添うように立っていた。


俺もお骨を拾う。

こんなにユイは小さかったんだね、と思う。


不思議と、俺の中でくすぶっていた悲しみは薄らいでいった。

ただそこには、いとおしさだけが残った。


ユイは小さな骨壺の中に入ってしまった。

俺にも特別に小さな骨壺をもらい、そこにユイのかけらを入れてもらった。



俺とユイの恋は、終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ