エピローグ
ユイが消えてから、俺は相変わらず絵を描いている。
ユイのおかげで多彩なタッチで描けるようになった俺は、地元で人気の画家となり、数回展示会を開いてもらう。
それはまさに俺の望んでいた姿だった。
ユイがいないことを除いては。
料理にもトライして、ユイほどではないが、うまくなったと思う。
次にユイに会ったら食わせてやろうと思う。
秋が過ぎ、クリスマス、俺は小さな指輪を買ってユイの墓に置いた。
ユイが欲しがっていたブランドの指輪だった。
前に指輪を欲しがったとき、買ってやれなかったから。
サイズはそのとき測ったものを覚えていた。
指輪のサイズだけじゃなく、服のサイズまで鮮明に覚えていた。
きっとこの先誰に逢っても、ユイほどに俺の心を動かす人間はいないだろう。
正月は、二人ぶんの願い事をして、二人ぶんのおみくじをひく。
二人とも大吉だ。
俺のみくじには、
『待ち人――きたる。待つべし』
と書かれていて、なんだかウキウキする。
春になり、桜が咲くと、ユイのあの笑顔を思い出して、ちょっと泣く。
桜が散り、初夏になると、俺は一人で菊池渓谷へ行って写真を撮る。
思い出しながら、ゆっくりと撮る。
これも二人のアルバムに載せておこう。
セミの鳴く季節がやってきて、俺は一人でファームランドのソフトクリームを食べる。
ユイが大絶賛したソフトクリームだ。
そして時は経ち、またこの日がやって来る。
俺は花束と桶と柄杓を用意して、ユイの墓へと急ぐ。
指輪も盗られていない。
良かった。
柄杓でお墓を清めながら、去年はここでユイとであったなと思い出す。
少し笑みを浮かべると、俺は墓に向かって手をあわせた。
ざわざわッ。
木にひっかかる音がする。
ざわざわざわざわッ。
俺が振り向くと、
そこには
ユイが
いた。
コンタクトにウェーブヘアの、あのときのままのユイだ。
「えーと、あの?」
俺の口からはその言葉しか出なかった。
「帰って……きちゃった」
「な、なんで?」
「最後にコウヘイが幸せになるところが見たい、と思ったら、ここにいた」
「ユイ……?本物?」
「なに、偽物とかあるの?」
俺はぶんぶんと頭を横に振ると、恐る恐るユイに近づいた。
「その指輪、はめていいの?」
言われてハッと気づく。
指輪を持ってくると、ゆっくりとユイの指にはめる。
「ユイッ!!」
抱き締めることができた。
俺は何か言いかけたユイの唇に、唇をあわせる。
「コウヘイが、幸せになるまでなんだからねッ」
ユイが唇を尖らせて言う。
「俺はユイがいてくれれば、どこでもいつでも幸せだ!」
二人は抱き合い、二度と離れなかった。
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