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正月休み

「ただいまぁ」

と、扉を開くと母がちょうど玄関へ餅を取りに来たところだった。

「あら、おかえり」

「うん、ただいま」

「いつもより帰ってくるのが早くない?」

「そんなこたないよ」

俺は言いつつリビングへ急ぐ。

うちの中は昔の家だからかとても寒い。


リビングへ入ると、兄貴が親父と一杯やっているところだった。

「お前も呑むか?」

「うん、ちょっとしてからね」

俺はストーブの前に陣取って暖をとる。


ユイは初めて来る実家に緊張しているのかおとなしかった。


少し暖をとると、こたつに移り一杯始めた。


母が

「あんた、餅は2つでよかったいね?」

と聞いてくるので、ユイの分もあわせて、

「3つでお願い」

と言う。

「そぎゃん食べきるとかい」

といいながら母がレンジで餅をチンする。


毎年食べるけど、やっぱりうちの雑煮が一番だ。

それは誰しもが思うことだろう。


雑煮を食べつつ、焼酎を呑む。

この辺りでは、酒と言えばビールか焼酎、朝の乾杯のときだけは赤酒のお屠蘇が出るくらいだ。

赤酒は子どもの頃は好んで呑んだが、大人になった今、あの甘い甘い酒を好んで呑もうとは思わない。


子どもの頃とはだいぶ変わったな、と思う俺。


隣ではユイが餅をふーふーと冷ましている。

幽霊だから実際には食べれはしないのだけど、一応味見したいらしい。


「コウヘイは、夏休みもいっちょん帰ってこんでから」

と父が言う。

「バイトで忙しかったったい」

実家に来るとすんなり出る熊本弁。

普段は意識していなかったけれど、標準語をしゃべっているみたいだ。

「正月休みがあるだけましとたい」

俺は言い訳をする。


ユイが雑煮を食べて美味しい!と絶賛する。

「他のも好きなのば食べなっせ」

酔ってきているせいか、熊本弁丸出しになる俺。


あれ?そういやユイの熊本弁ってあんまり聞いたことがないや。


幽霊だからいくら食べても目前の料理は減らない。


ユイも楽しそうに会話を聞いている。

「そういやさ、ユイは熊本弁あんまり話さないよね?」

酔った勢いでつい、ユイに聞いてしまう。

「うちは途中まで東京だったから……」

ユイが答えると同時に親父が

「誰としゃべりおっとや?」

と聞いてくる。

俺は焦って、

「独り言。最近は独り暮らしで寂しくて、癖になったみたい」

と言う。

親父は

「寂しかなら、うちに帰ってこい。うちからだって通学できるどもん?」

と言ってくる。

「就職とかしたらどのみち独り暮らしだけん、そのままでよかよ」

と返事する俺。

「そうか、そんならしゃーなかったいね」

と親父は納得してくれた。

実家に帰ってきたら、ユイと普通にしゃべれなくなってしまう。

あぁ、焦った。


その日は一通り最近の事を報告して終わった。


布団に入ると、いつものようにユイが忍び込んでくる。

俺は寒いなか、ユイの冷たい体を抱いて眠る。

今日は酔いもあってか、すぐに眠りに落ちていった。



朝起きると異変があった。

ユイが成長している。

今までの服がちんちくりんになっている。

いつの間にか、メガネまで装着していて、出会ったころのユイを彷彿とさせた。

ユイに聞くが、夜中に身体が暖かくなった気がして、気がついたらこうなっていたと言う。

メガネも言われて始めて気がついたと言う。


とりあえず、帰宅したら服を買いに行く約束をした。


すると、ガラッと扉が開き、兄貴が

「誰としゃべってんの?」

と怪訝な顔で言う。

俺は慌てて携帯を探すと、

「か、彼女と電話だよ!」

と言ったが、携帯は実はリビングに忘れてあった。

「お前、どうかあるのか?」

と心配する兄貴。


とりあえず、寝ぼけていたことにして切り抜けた。

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