指輪
お炊きあげした洋服を早速着るユイ。
なかなか似合ってるじゃない?
そうしていると、嫉妬も少しずつ和らいでくる。
「ね、見て、これ。フワフワなの」
ユイが無邪気にはしゃぐ。
そのうちさっきしていた嫉妬などどうでもよくなってくる。
「いいんじゃない?似合ってる似合ってる」
「もう!ちゃんと見て言ってよね!」
「ちゃんと見てるさ!」
ホントのところ見ていなかった。
言われて初めて見たが、いわゆる普通の小学生だ。
ユイが小学生の頃はこんな感じだったんだなぁと改めて認識。
まだ独特のお堅い感じはでていなかった。
ユイは夕飯の支度を始める。
最初の頃に比べると包丁さばきもよくなり、幽霊ならではのパワーの使い方によって炒め物をつくっていく。
幽霊ならではというのは、手で持たず炒め物のフライパンを持ち上げて炒めることだ。
ずいぶん器用になったものだ。
一緒に住み始めて3ヶ月が経過していた。
病院では相変わらず統失扱いで、さらに強い薬などが出された。
でも、一向にユイが消える雰囲気はない。
いつしか俺は薬を飲まなくなり、病院にも行かなくなった。
3ヶ月たち、クリスマスのシーズン。
ユイに何が欲しいかと尋ねると、指輪が欲しいという。
前に記念であげたのをなくしちゃったからね。
けど、幽霊の指輪なんて、サイズをどう計ればいいのだろう。
するとユイがメジャーを持って来る。
これで外周を計って買ってこいというのだろう。
俺は冷たいユイの指をメジャーで計った。
一緒にショッピングについてくるユイ。
恐らくは指輪を選びに来たのだろう。
案の定宝石屋を見つけると入って行くユイ。
そんな高いのは買えないって!!
近くの雑貨屋さんに入る。
二千円台で指輪がおいてある。
シルバーの、この中から選べ、と目線で指示をする。
ユイは膨れっ面になりながらも指輪を選んだ。
サイズを選んだ意味もない。
「少しブカブカじゃないか?」
小声で俺が聞く。
「大丈夫、成長するって」
ユイは言うことを聞かない。
仕方ないので、指輪とシルバーの細いネックレスを買う。
シルバーのネックレスに指輪をつけておけばなくすこともないだろう。
俺は買った袋を破くと、路地に入り、ユイにつける。
最初そんなものを買ってつけたら、透明人間がつけて歩いているように見えやしないかと心配したが、周りには全く見えていない様子だったので安心した。
ユイはすごく喜んだ。
この上なきハッピーな笑顔だった。
ユイは元の指輪の在りかを思い出していた。
多分仏壇の前に置いてある。
そう言った。
ユイの絵は順調に売れた。
俺のバイト代が必要ないように売れた。
でも、俺はバイトをやめなかった。
一つは楽しかったというのもあるが、他にも理由はあった。売れているのはユイの絵で、俺の絵じゃなかった。
俺も世間で認められたい。
そのために自分の絵が売れるまではバイトを続けよう、そう思ったからだ。
実習と卒業制作の合間に、俺も絵を描き始めた。
と言っても、学校は忙しいし、卒業制作も時間がかかっているため、ほんの合間にしか描けなかったのだが、根気よくやり遂げた。
年末前にユイの絵を搬入するときに、一緒に持っていった。
店員は、
「こんな絵も描けるんだね、うんうん」
とだけ言った。
ユイの絵は瞬く間に売れた。
どうやらファンがついたらしい。
俺の絵はいつまでも壁に飾られたままだった。
正月休み、どうしようかと迷ったけれど、ユイも実家に連れていくことにする。
置いていっても一人じゃ暇だろうし、あんまり話しかけないことを条件に連れて帰ることにする。
電車で30分ほどのところに我が家はある。
電車で30分なら独り暮らしはいらないだろ、と思うだろうが、俺の念願の夢だったので、独り暮らしは決行した。
ユイはつり革にぶら下がったりして遊んでいる。
俺は小声で注意しながらも実家への道を急いだ。
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