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嫉妬

一週間ほどかけて、ユイの絵は完成した。

あとはサインをするのだが――

「俺の名前にしとくか」

「そうだね、いない人間のサインなんて気持ち悪いだけだしね」

「そんなことはないけど」

「なんちゃって。売るのがコウヘイなんだから、コウヘイのサインにしとこう」

おれはなんだか複雑な気持ちで絵を見る。


明らかに俺ではないタッチ。

それを俺が売る。

そんなことして、本当にいいのか――

でも、ユイは絵を売りたがっている。

売れたらユイは喜ぶだろう。


それは洋服が欲しいとかなんとかじゃなくて、もっと深いところ――

自分の存在意義を確認できる――

そんなところだろう。


俺は早速画廊に問い合わせる。

翌日に絵の搬入が決まる。


ユイは翌日まで待てそうになかった。


翌日、昼過ぎに絵を持って搬入に行く。

ユイはウキウキしながら後ろをついてくる。

「まだ売ってもらえるか決まったわけじゃないんだからな」

「うんうん、わかってるってば」

「って、お前、危ない!車道にでるなよ」

「危なくなんかないよーだ」

「それは……そうだけど」

そうだけど、そうじゃない、そう、言いたかった。


いつも俺は車道側を歩いていた。

車も危ないし、泥はねなんかもあるし、で、俺なりに考えた結果だった。

ユイがそれに気づいていたかは別にして――


それが今や、歩道からすぐ外れて歩いたり、縁石の上を伝って楽しそうにするユイ。

俺は気が気じゃなかった。


俺の中ではユイは生きていた。

だって抱き締めるとそこにユイはいたから。

繋ぐ手と手には感触があるから。


幻とは思えない。


画廊につくと、女性の店員が、

「じゃあ、それこっちに持って来てもらえる?」

と言い、指示に従う。

「うん、素敵な絵じゃない!これは売れるよ!」

絵を見て店員が言う。


「そうですか……」

「何、元気ないのね。絵はうちで大切にお預かりするから心配はいらないわよ」

「はい」

俺は売れると言われたユイの絵に、少しだけ嫉妬した。


帰りに新しいカンバスを買って帰る。

真っ白なカンバスはまるでユイに描いて描いてと催促しているようにすら見える。

俺の絵にはないことだ。


少しだけ、と言ったが、本当はかなり嫉妬していた。


俺の絵を持っていったところで、あんな風に快諾されるとは思えない。


俺は黙って道を歩いた。

「ねぇッ」

と呼ばれて振り替えると、膨れっ面のユイがいた。

「ちっとも話聞いてくれないし、何か怒ってるの?!」

「あ……あぁ、ごめん、考え事してた」

「もう……なに考えてたか知らないけど、あたしより大切なことなの?!」

ユイは不満丸出しだ。

「いや……ユイの方が大事に決まってるだろ」

俺たちは手を繋いで歩き始める。


一週間ほどしてだろうか、画廊から連絡が入る。

あの絵を買いたいという人が現れたらしい。

こんなに早く売れるなんて!!

しかも高値で売れるらしい。

ユイは大喜びだ。


俺は素直に喜べない。

せっかくユイの夢が一つ叶ったのに、喜べない。

なんて意気地の悪いやつ、自分のことをそう思う。


とりあえず画廊にお金を受け取りに行く。


そしてその足でシティモールへ行く。

子ども用服屋であれこれ物色するユイ。

その生き生きした姿にすら嫉妬した。


ダメだ、俺はダメな男です。

彼女の活躍を羨ましいとしか思えないダメなやつなんです。


その日は洋服を二着購入して家に帰った。


家に帰ると油缶へいくつか木切れをいれて燃やし始める。

そこへ買ってきた服をいれ、一緒に燃やす。

ユイは目をキラキラさせてそれを見つめていた。

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