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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
試験編 第一章「テストは利用するもの」
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04-07 暴走する鋼

長らく待たせてしまいました。ひどい風邪をひいてぶっ倒れてました。

ここまで完治まで長引いたのは生まれて初でした。活動報告にも書きましたが

当然その間書けているわけもなく、治ったあとも更新できませんでした。


一応少し書けてきたのでいいかなと再開です。

しかし一か月近く止まっていたので軽くこれまでのあらすじを


~~ついに始まったサバイバルテスト!

  しかしなぜか代理試験官に選ばれてしまった主人公

  それをいいことにスパルタ方式でクラスメイトをしごく

  そこへどうしてかやってきてしまった狐娘と縦ロール

  主人公は二人をうまいこと操ると妙な反応が近づく隣のエリアを調べにいくのだった~~



的な





人工とはいえ雄大な緑深き森林も日が沈めば別の顔を見せる。

夜の闇をその緑たちがさらに覆うことで色濃くし人々を惑わす樹海となる。

何の準備もなく誰かが迷い込めば来た道を見失い、輝獣に襲われる事だろう。


ただ。


今その森で彼ら緑の木々たちの方こそ闇に覆われ、そして襲われている被害者だ。

その巨体がわずかな月明かりや星明りさえも木々たちから奪いながら闊歩している。

当然一つや二つではない。森を覆い尽くさんばかりの数の巨体が我が物顔で暴れ回る。

輝獣ではない。その特徴的な発光器官は見えない。彼らが放つ光は攻撃の閃光だけ。

唸る轟音と共に巨体が激突する。甲高い音が響き、衝撃が周囲の木々をふきとばす。

そして足に、肢に、車輪(アシ)に、キャタピラ(アシ)が大地を踏みしめ地形を変える。


鋼を打つ鋼。飛び散る金属片。火を噴く砲口。蹂躙する(くろがね)


既にその一帯から自然の“し”の字すら一掃されようとしていた。

彼らの小競り合い(・・・・・)はそれだけで森の一角を荒野に変えようとしていた。




「…………あれはどこの映画会社の撮影だ?」




それに対して真っ先に本気とも冗談とも取れる疑問を口にしたのはシンイチだ。

彼らは戦地から離れた高台の上から鉄の巨体同士の戦いを遠目にだが見ていた。

少年以外は見慣れているのか驚いてはいないが少年同様困惑が浮かんでいる。


「ナカムラさん、あれはそういったものではありませんわ。

 海上都市(クトリア)誕生直後はそういう申請もあったそうですが許可が下りた事はないのです」


「いやいやアリちゃん、それ半分以上冗談だから。真面目に返答してどうするの?」


「………一応1割ぐらいはその可能性を真面目に考えたんだが?

 こっちに来て色んなロボット見たけど、あんなの(・・・・)初めて見たぞ俺」


彼がその光景を撮影か何かだと少なからず思った原因はある巨体のシルエットのためだ。

月明かりがあるとはいえ夜。ましてや距離もあるため詳細は判別できないが他と違う。

これが撮影でなく彼女らが驚きもせず今が試験中だと考えればあれは技術科の作品だろう。

それも木々よりも高い躯体を持つ機体を作り上げるとなれば技術科上位クラスの生徒。

実際確かめてみればこのエリアは技術科のBクラスが試験中のはずのエリアであった。


だからこそソレの違和感は半端なものではなかった。

同じ技術科で学んで得たモノで作られたのなら程度の差はあれ似通ってくる。

同型の等身大ならば転入初日の見学時に見かけたように感じるがあのサイズでは初である。

その証拠のようにクトリアを警備する多足型のガードロボを模したような機体が多い。

しかし、それらに囲まれ孤軍奮闘しているのはどう見ても人型ロボット(・・・・・・)なのだ。

それもシルエットからだけで分かるほど装飾過多な気配が漂うスーパーなロボットが。


「………まんま敵の量産機に囲まれた主役ロボみたいな状況だな、おい」


それはクトリアでもガレストに関する資料においても出てこない存在だった。

その理由についてはシンイチの両隣りに立つ少女達が簡潔に説明してくれた。


「人型ロボットを求める風潮は完全にこっちの文化だからね。

 だから受けがいいだろうって交流初期にはわざと重機とかを人型にしたぐらい。

 学園だと日本出身の子は一回は作るって聞くよ。あのサイズはボクも初めて見たけど。

 ガレストだと何かのために人型を作るより人を雇った方が安上がりだから」


「索敵や調査、直接戦闘に警備。土木工事から日常的な掃除。

 様々な分野で働くロボットはいますが、目的に応じた形というものがあります。

 コスト問題もありますがわざわざ人型にするのは合理的ではありませんから」


余程人型でなければならず、人が入るには危険な場所での作業のため。

そんな限定した状況でもなければ人型ロボットは求められていなかったのだ。


「外骨格が先に普及しちゃってるから等身大の人型ロボットは必要性薄いしね。

 その中身を作るより外を強化しちゃえばたいていどうにかなるし」


「大型の場合は人が動かし方をイメージしやすい利点は確かにあるのですが、

 そういう機動兵器は数を揃えるべきなのでやはりコストという面で劣るのです。

 あれを一機作る手間と費用があればおそらく十機以上のガードロボが作れるでしょう」


技術的に巨大人型ロボットは作成可能でも主流の機動兵器群に比べると手間がかかる。

同じ手間と資金をかけるなら安上がりでさらに数を用意できる方に人は流れるものだ。

人型ロボットに対するロマンを生み出した文化がガレストに無いのも一因だが。


「これまで見かけなかった理由はわかった……けどそれなら、アレはなんだ?」


しかしそのはずなのに巨大人型ロボットは間違いなく彼らの視界にあった。

どういうことだと問えば、ふたりは一緒になって苦笑を浮かべながら推測する。


「多分、なんだけどね。

 技術科にいる子はたいていが我が道をいくタイプが多いんだけど、

 それでも同じ技術を学んでいるから得意分野ごとに別れて切磋琢磨してるの」


「けれどそうはいっても己が研究が一番の者達です。中には最初から誰とも被らない分野。

 といっていいかも分からない……いわば趣味に走ってしまう者がたまに出るのです」


「…………巨大人型ロボを作りたいから、作った奴がいるのか?」


「おそらくそうではないかと」


地球より格段に進んだガレスト技術は多くの科学者に絶望と同時に夢も見せたという。

これまで不可能と考えられていた道具や設備をこれなら作り出せるかもしれない、と。

それが実用性ではなくロマンに走った結果。その極致が彼らの視界にある。


「そんな勝手していいんだ技術科って」


「成績次第だけどね、多分Bクラスでも上の方なんじゃない?」


「あのサイズの物を作成する許可はあまり出ませんから間違いないかと」


少女らが“珍しいがよくある事”と苦笑しながら説明する中で少年だけがどうしてか。

どう表現していいか分からないほど複雑な表情を浮かべてそのロボを見据えていた。


「ともかく、ここからではよく分かりませんね。

 午後の試験が長引いている可能性もありますが隣接エリアに近付きすぎです」


「普通なら試験官が離れるように注意する距離だよね、もう。

 それになんかあの人型ロボットをリンチしてるようにしか見えないし」


なにか常とは違うことが起こっていると少女らが警戒心を上げる。

ただ真ん中にいる男の指示で1-Dが似たようなことをしていたとは知らずに。

本人もそうだったのかとかなり他人事の様子で流して反応すらしなかった。

なにより───


「…………あんな状態じゃ注意もくそもないだろうがな」


「へ?」


「は?」


───この状態が異常だという証拠を彼は目聡く見つけたのだから。


「はっきりとは見えないけど、戦闘してる所よりもっと奥に檻っぽいのないか?」


「え、まさか……『ズーム』」


そういって既に暗視のスキルをかけていた肉眼に望遠のスキルをかけて遠方を覗く。

爆心地のようになっている鋼の巨体の戦場からさらに奥に鉄格子尽きの立方体がある。

そしてその中に複数人の大人たちが閉じ込められているのがはっきりと見えた。


「技術科担当の試験官たちです! なぜ、どうしてあんな!」


「………事情はわかんないけどこれはアウトだね。

 それやっちゃったら生徒同士のケンカっていうレベルじゃ収まらないよ」


「ロボ同士が激突してる時点で既にケンカじゃすまないと思う俺の感覚はおかしいのか?」


だからこいつら妙に落ち着いていたのか。と異世界文化とのギャップに苦笑する。

尤もシンイチとてかつての(・・・・)現代日本人の感覚ゆえに現実とすぐに認識できなかったのだが。


「ルオーナさんは教員方を。

 わたくしは生徒たちの方を止めてきます。外骨格(アーマー)、アクティブ!」


「うん、それはいいけど……さっきからずっと気になってたんだけど、いい?」


即決で外骨格を再び装着して迷いなく宙に浮かんだ姿に思わず彼女は問いかけた。


「構いませんが、急いでください」


彼女がした役割分担に不満は無かった。むしろミューヒも同じ判断だ。

生徒からの“受け”という点では圧倒的にアリステルの方が人気がある。

仲裁相手としてはこれ以上はなく応じなくとも彼女なら武力制圧ができる。

だからミューヒが聞きたかったのはそれとはまったく関係ないここに来た背景にある。


「イッチーに半ば騙されて連れてこられたことについては何もないの?」


「………ここで聞くのかよ」


あれだけ照れながらも嬉しそうに彼の腕に抱きついていたわりにはおとなしい。

そこがミューヒからしてみるとどうにも腑に落ちなかったのだがあっさりと彼女は返す。


「ああ、そのことですか。確かにまた遊ばれたのかと悔しい気持ちはあります。

 けどわたくしならばこれをどうにかできると信頼してくれたということでしょう?

 その光栄さに比べれば、たいしたことではありませんわ」


「…………」


「…………」


にっこりといっそ嬉しそうに見えるほど微笑んで、それではと彼女は現地に飛んでいく。

鋼の巨体がぶつかり合う戦場に行くには小さき鎧だがそこに気負いも油断もない。

そしてあの体格差と遠目に見える動きから考えて外骨格に対応できるかは怪しい。

そのため戦闘面において彼らはアリステルに対して何の不安も持ってはいなかった。

沈黙してしまったのはそれとは別の話だ。


「自分であんなことやって連れてきておいてなんだが、あいつ大丈夫か?

 将来、とんでもない男に騙されて利用されやしないか不安になってきた」


彼がやったことをそう評してしまう純粋さや人の好さは立場を思えば危うい。

一度何らかの事情で信頼した、認めた相手に対するポジティブな考え方が半端ではない。

それらを含めてシンイチはわりと本気でアリステルの将来に不安を覚えていた。


「現在進行形の人がいうだけに説得力があるんだか無いんだか……アクティブ」


お前がいうなと呆れ混じりの苦笑を浮かべて外骨格を身に纏って空に舞う。

しかし宙に浮かんで彼を見下ろす表情はどことなく楽しげなものに変わっていた。


「でも、気持ちは少しわかるかな。

 認めている人から頼られるのはけっこう嬉しいからね。行ってきまーす!」


そんな言葉を残して縦横無尽に空を舞って戦地を迂回するように彼女も飛んでいく。

シンイチはそれを見送りながらその表情を渋いものに変えていって低く唸る。


「ヒナの奴め……地味にこっちの罪悪感を抉っていきやがって」


恨み言のようなそれは誰の耳にも届かず虚しく霧散していく。

彼女を頼ったのは確かだが光栄と思われるほどキレイな信頼かといわれると自信がない。

からかって遊びたい心半分と適任だという合理的な考えの半分だと自己分析は訴える。

ろくでもないなと誰もいないのをいいことに力無く笑って誤魔化す。


「真っ白なつもりはないけど真っ黒だと自覚するのはやっぱきつい」


その正反対の存在になってくれと願われて育ててもらったというのに。


「……まあいい、俺もあっちに行かないとな」


気持ちを切り替えるように首を振る。何もせずに傍観するのは罪悪感以前の問題。

自分が彼女らを連れてきたのなら少なくとも自分も関わるべきだと思考する。

そんな苦労性染みたものが誰のせいで自分に根付いたかを考える事もなく人型を見る。

今しがた鋼の砲口から放たれた火によって吹き飛ばされた巨体を見据えて、微笑む。


「俺にもまだこういう感情が残っていたとはな!」


どこか嬉しそうなそれと共にシンイチは高台から飛び降りて夜の森に消えていった。







───────────────────────────────────────────







もう到着すると思った矢先に人型が吹き飛ばされたのを目撃して動きが止まる。

しかし砲撃が集中して200メートル以上の距離を宙に舞ったというのに損傷は少ない。

地に倒れているが起き上がろうともがいている様子から搭乗型にせよ遠隔操作型にせよ。

操縦者は無事であろうと判断した彼女はオープンチャンネルとスピーカーで呼びかけた。

襲っている側もどちらにいるのかが分からなかったからだ。


「そこのガードロボ及びその操縦者たち止まりなさい!

 わたくしは特別科3-Aクラス委員のアリステル・F・パデュエール。

 ただちに戦闘行動を停止し、こちらの誘導に従って姿を見せなさい。

 今あなた達には試験中に教員を拘束し私的な戦闘をした疑いがかかっています!」


大地を走る鋼の躯体を見下ろすような位置から厳しめにそう命じる。

遠目からでは同じような機体に見えたがここまで近づくと少なからず個性が見える。

どれも地上型だがその歩き方(アシ)は多足型からキャタピラにホバーと多様であった。

しかし共通点もある。その脚は整備されてない森林を走破するための各々の工夫だろうが、

そのいわば本体ともいうべき部位は共通した砲台を付けた装甲車のような風体であった。

この場にシンイチがいればこう評するだろう。“戦車に足つけただけじゃねえか”と。


『うるせえっ!!』


その足つき戦車ともいうべきガードロボの砲塔から怒声と共に砲撃が飛ぶ。

砲弾ではない。これらもフォトンによって動いている以上それもまたフォトン。

エネルギーの砲弾が次々と彼らから放たれていき空を引き裂いていく。


「っ!?」


警告も無しの突然の攻撃に驚きの表情を浮かべながらも彼女は動かない。

彼女から見ても外骨格が行った弾道予測もどれも当たらないと判断したためだ。

そしてそもそも彼女が驚いていたのは攻撃された(・・・)事ではなくしてきた(・・・・)事だ。


「少数のガードロボの砲台から外骨格を狙うだなんて、なにを馬鹿なことを……」


あり得ない行動に出たことに呆れ以上の不自然さを感じた彼女は訝しむ。

この学園にまで公開された技術で作られたガードロボに対外骨格戦の能力は無い。

元々この系統のガードロボは対輝獣用の防衛戦力として誕生し発展してきたものだ。

対人戦には最低限の適応力しかないため一人とはいえ外骨格を相手するには向かない。

弾幕を張るだけならまだ意味もあるがそれなら固定砲台の方が役に立つというもの。

そもそも10機前後では砲台の数が足りず弾幕といえる弾幕にもなっていない。

そんなことをいくら戦闘が門外とはいえ技術科の生徒が知らないとは思えない。


「落ち着きなさい!

 相手が誰か、わたくしが誰かわかっているのですか!?」


『邪魔すんなっ、俺達が正しいんだ!』


『馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがって!』


『遊んでばかりのクズなど吹っ飛ばしてやる!!』


「え、ちょっ!?」


彼女とて自らの名を出せば万事解決するなどと楽観をしていたわけでなかったが、

いくら戦闘による興奮が幾分かあるにせよこの聞く耳の無さは想定外であった。

全員が正気を失った異常な興奮状態にあると判断した彼女は次の行動に出る。


「埒があきませんね……生体反応サーチ、操縦してる者達はどこにいますの!?」


目許にゴーグル状に展開された小型モニターが周辺の生物を探して映し出す。

シルエット状に浮かび上がる人型の枠群は全てガードロボの内に存在していた。


「やはり搭乗型、ならば!」


変わらずフォトンの砲弾が飛び交うなか彼女は迷うことなく一気に下降する。

連携の無い砲弾の雨は彼女からすれば隙間だらけで外骨格の予測と機動力の敵ではなかった。

縦横無尽に空を舞い、稲妻のような軌跡を残しながらの急降下に彼らは対応できていない。

そもそも反応しているのかいないのかさえ判断できないほど乱雑な砲撃であった。


「いったいこれは……無人機の方がまだましな砲撃をしますわよ!」


下手過ぎることに逆に違和感を覚えながらもその疑問は後回しにする。

そして下降の道中に脳裏に数多の武装を思い浮べるとその中から一つを選ぶ。

手にしたのは長い銃身を持つ一丁の狙撃銃。されどその銃口はいささか大口。

ゴーグルモニターにスコープが表示され、照準を合わせた彼女はトリガーを引いた。

連続する発砲音と共に発射された弾丸は砲台に着弾するとその機能を封じる(・・・)


『くっ、動かない!?』


『撃て、撃て、撃てよ!!』


内部から“どうしてそうなったのか分からない”とでもいいたげな焦燥した声が届く。

彼らが乗る機体の砲台は粘着質の高い物体に覆われて砲口が完全に塞がれていた。

砲身内部に異物が入った砲台は暴発を防ぐために発射命令に応じないようになっている。

それを見越して放たれた暴徒鎮圧用のジェル弾はその能力を十二分に発揮した。

彼らの兵器を沈黙させたのと彼女が地表付近まで下りたのはほぼ同時。


「はぁっ!」


ジェル弾を装填されていた狙撃銃を投げ捨てると両手にブレードを出現させる。

そして機体同士の隙間を縫うように地上すれすれを飛行してそのアシを切り裂く。

同時にバランスを崩したそれらを勢いで吹き飛ばして横倒しにし無力化していった。


『うおおおぉっ!?』


『俺たちの方が真面目にやってるのに!!』


『許さねえっ、許さねえぞあの野郎!!』


「…………本当になにがあったのですか?」


それは5秒もかかっていない出来事で搭乗していた者達には理解が及ばない。

だとしても彼らの反応は最初から最後までおかしいの一言。冷静さが皆無過ぎる。

自ら作ったマシンの当然の機能や特徴すら忘れた言動はやはり呆れより違和感が強い。

とにかく相手に冷静さが求められない以上即座に拘束すべきとガードロボから

一人ずつ引きずりだすと力尽くで眠らせ、拘束のスキルで縛り上げた。


「ふぅ、10人ほどとはいえ1人でやると手間がかかりますね」


念のためにとフォスタを取り上げた所でアリステルは少し息を吐いた。

そしてエネルギー製のロープと手錠に拘束された技術科生徒を見下ろして少し悩む。

最初は何らかの事情で始まった生徒同士の諍いが発展しすぎてしまったのだと考えた。

だが教師の拘束に一人の生徒─の製作物─への集団での襲撃と彼らの異常な状態。

関わった者達の心の中だけに収めておくわけにはいかない事態である。


「どうしてこのような……?」


『リンリーン、リンリーン……電話だよぉ、電話だよぉ……』


「……………人が真剣に考えている時にふざけないでいただけますか?」


思考の海に入りかけた所で自分を呼び止めたふざけた声に些か刺々しい声を返す。

通信回線を開くと同時に空間にモニターが浮かびあがり想定通りの顔が現れた。


『怒らないでよぉ。これでも音が止むまで待ってたんだから!』


いつものにこにことした顔で頭の上の狐耳を動かす少女の姿に溜息がこぼれる。

そんな判断ができるなら空気を読んだ通信の入れ方をしてほしかったアリステルだ。


「怒ってません。呆れているだけです」


『わぁ、アリちゃんなんか最近めっちゃ素直でボク嬉しいよ!』


思わず感じたことをそのまま返したアリステルの何が面白いのか。

より笑みを深くしてテンションをさらに無駄にあげていくので彼女は頭を抱える。

コレをそばに置いて平然どころか振り回すシンイチへの評価を地味に上げていたが。


「はぁ、もういいです。

 それよりもそちらはどうだったんですか? 先生方から何か事情は聞けました?」


『ああ、それねぇ……檻と先生たちを見つけたは見つけたんだけど……』


気持ちと話を切り替えて本題に入れば、一転してモニター向こうの相手は言い淀む。


「なにか……あったのですね」


『その様子だとそっちもなんだね。

 まあアリちゃんが出てきたのに戦闘続けただけでも異常だけど』


彼女もまたアリステルの名に怯まず外骨格相手に戦いを挑んだ異常性を理解している。

笑顔なのは変わらないがそこに先程までのおふざけの雰囲気はもう霧散していた。


『結論を先に言えば先生たちは拘束されていたわけじゃなかったよ』


「拘束されてなかった? ですが彼らは確かに檻に入れられていましたわよ?」


『うん、けどこの場合は拘束じゃなくてさ───』


この目で確認したはずだと返せば相手は苦笑したような表情を浮かべると

モニターアングルを自身の顔から件の犯罪者拘束用に作られた檻へと変えた。途端。


『教師をバカにしやがって!』


『授業なんてやってられっかーー!!』


『給料あげろぉっ、ぶっ殺すぞ!!』


「きゃあっ!!?」


画面いっぱいに広がるような憤怒の顔をした大人達が映し出された。

鼓膜を震わすような怒声とその顔を前にしてアリステルが可愛らしい悲鳴をあげる。

常ならばそこをからかって遊ぶ彼女も今回ばかりはそうせず端的に彼らの状態を表現した。


『───もうこれ隔離だよね』


「………………」


確かに、と言葉にはせずともアリステルはそちらの異常性を認識していた。

ズームで見た時もがいていたのは分かっていたが脱出を試みてるようにしか見えなかった。

だがこの距離で見せられれば彼らが興奮状態で暴れているだけなのだと理解できる。

誰一人冷静な者はおらず檻の中で野獣のような雄叫びを上げて取っ組み合う者までいた。

ならばこれは教師を拘束したのではなく暴れだした教師を隔離したと考えるのが妥当だ。


「こっちの生徒たちも似たような状態でした」


『やっぱり』


「となるとそれをやったのは襲われてた側の生徒?」


『だろうね。支離滅裂で大興奮してる子らがそんな考えになるわけないし』


互いに同じ見解を示しながら画面越しに同じ方向に視線を向けた。

ようやく起き上がれたばかりのなのか。立ち上がった人型の巨体が視界に入る。

少し距離はあるが他に比べて暴れるような様子が見えないだけで安心できた。

ゆえにその搭乗者にどうやら事情を聴くしかないようだと彼女らは判断した。

そこへ。


「うはああぁぁっっ!!! マジかぁぁっ!!!」


「……は?」


『……ふえ?』


すさまじく興奮した様子の誰かの声が大きく響いて間の抜けた声が彼女らからもれた。


「いま、のは……」


『イッチー?』


そんな状態の彼を知らないため確信を持てないが彼のような気がする声だった。

それがひどく興奮(・・)していたという事実に彼女らの脳裏に最悪が浮かぶ。

彼らが暴れた原因が不明な以上その要因にシンイチが巻き込まれないとはいえない。

彼もまたこの異常な状態を起こしたナニカによって彼らのようになってしまったのか。


「…………」


『…………』


思わずモニター越しに黙って見つめ合った二人は次の瞬間慌てて駆け出した。


『しょ、正気に戻ってイッチーっ!!』


「シンイチさんっお気を確かに!!」




ちなみに、


慌てたからつい下の名前で読んじゃっただけです。

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