02-02 間違い
───トンネルを抜けたらそこは、
異世界でした────
街角にある巨大モニターには多量のフラッシュを浴びながら握手をする男たちが映る。
この国の首相とガレストという世界の大統領がその関係を内外にアピールしている光景。
それを行き交う人々が見ることもなくそれぞれの目的地へと行くために歩き続けている。
なんてことはないいつもの光景。それにひとりの少年だけが息を飲んだ。
初めてきた街で迷子になった心細さにも似た妙な感覚。
そんなわけがないと心で首を振るが少年はここがどこだかよくわからなかった。
見たこともないタブレット型端末を持ち歩く人たち。見慣れない形の建物。
記憶とまるで違う面影の無い街角。違和感を覚える流行りのファッション。
店のウインドウに並ぶマネキンが着ているのは衣服ではない謎の機械の鎧。
街中だというのに当たり前のように巡回する自衛官“らしき”者たち。
そして黒や茶、金に混じって奇妙な色なのに自然だと思える髪色の人々。
それらすべてを日常の風景として当たり前に受け入れて気にもしない人々。
何度もよく遊びに来ていた街なのに、ここはどこだと少年は途方にくれた。
「なにしてるの信一くん、置いてくよ!」
背後からそんな快活な声をかけられ、少年は本気で心臓が止まるかと思った。
いきなりだったからではない。“彼女”の接近に気付けなかったことに。
それほどまでに自分が動揺しているのだと自覚して、息が止まりかけた。
「っっ!? あ、はい。すいません凜子さん」
最近知り合ったばかりの若い女性が笑顔で見詰めてくる。
どうしてか少年は無性に泣きそうになっている自分に気付く。
けれどそれらを即座に表情から消して無難な顔を作ると頭を下げた。
それを少し複雑でどこか不満げな顔で見た彼女だがすぐにその手を引っ張る。
「ほら、ふたりが待ってるから行こう!」
「あ、いえ引っ張らなくてもちゃんと行きますって!」
「遠慮しない。しない!
今日は信一くんの物を買いに来たんだから。まずは服からだね。
年頃の男の子の服を選ぶの実は私ちょっとした夢だったの!」
本当に楽しそうに笑いながら連れられて、少年は苦笑する。
まいったな。ちょっと強引だけどほんとうにイイ人だ、と。
─────だから俺は、帰ってくるべきではなかった
俺はまた、選択肢を間違えた─────