その、出会い(再会とは呼べない)4
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誰かが転移してくる!
「っ! みなさん動かないで!」
転移魔法の前兆を察知した私は反射的に皆へ注意を促しました。
これ、幼少期は他の方も見えているものだと勘違いしていましたが、
私の“眼”は魔法が発現する場所やその種類も捉えられるのです。
どうも魔力感知や魔法感知を鍛えた人とは捉え方が違うらしいのですが
それが視覚的に”視える”というのは今の所私だけの事例だとか。
「────なんで私が彼のような登場の仕方を…っ」
直後、視えた通りの場所に出現したのは魂の感じから二十代ほどの女性。
6、7割が白色で残りが黒色という何の問題も感じない善性寄りの魂。
市井の人々はだいたいこんな感じの魂を持っている方が多いです。
欲に溺れた大悪人の場合は黒が圧倒的になるのですが。
「……■■■■■、■■■■■■■■■?」
「まさかそんなので切ったの? 切れるの?」
「…■■■■■■?」
「え、いや、はいっ、大丈夫です!」
「■■、■■■■■■■■■■■■─────」
しかし、どちらの方でしょう?
出現した瞬間こぼした言葉はファランディア語でした。
けど今、こちらを警戒しながらも背後に向けた言葉は分からない。
でも言われた女性、確かリディカと呼ばれていた彼女には通じているもよう。
会話も続いていて、けど何かを言われたのか。
リディカさんは途中から返事をしなくなった。
これじゃ完全に何を言われてるか推測も出来な……もしかして?
自分の言葉が私達に通じてないのに、気付かれた?
私達が使う翻訳機は作ったアーベル殿曰く急造したモノのため二言語だけ、
ガレスト語とファランディア語にしか対応しておらず、それ以外の言語には
ガレスト製翻訳機を皆が持っている社会であるのに依存した造りであるのだとか。
だから翻訳機を使わずに対応外の言語で話されると今のようにまるで意味が
分からなくなる。
けど私達には通じず、ガレストの方には通じる言葉というのは知る限り
チキュウの言語だけのはず。つまり彼女はそちらの方?
でも最初の呟きや転移魔法を考えるとファランディア人でしょうか?
いえ、確かガレストはチキュウと交流がある世界とも聞きました。
謎の転移現象で故郷に戻ったチキュウの方々の誰かという線も?
……参りましたね、わかりません。
何か、意思疎通、打ち合わせ、のようなことをしている気配は視えるけれど
私の眼で視えるのはその人の魂が正邪どちらに寄っているかの色による割合と
その時々で浮かべている感情ぐらい。たまに勘違いされてしまいますが、
心の中すべてが視える訳ではないのです。
それに三つの世界の人々、それぞれの魂を視てきましたがどの魂も個人差は
あっても世界差は見当たりません。だから私だけではどこの人か判別できない。
こういう時、外見の情報が入らないこの眼の不便さを感じます。
……いえ、ひとまずそこは置いておきましょう!
今は何より別の問題が優先です!
正直、たいへん驚いています。
ぶっちゃけ私の作った枷を一瞬で破壊されたのがどうでもよくなる程に。
だって街中の雑踏とは程遠くとも、十数名もの人が集まっている場所に。
何より二人とあんなに近い位置に転移しようとするなんて。
マーキングはされていませんでしたから俗にいう目視転移でしょう。
すっごく乱暴で、そして危険な行いですよ!
万が一誰かのいる位置に転移してしまったら。
誰かが動いて転移の瞬間と予定座標が被ってしまったら、どうなるか。
最悪双方の肉体が混ざり合うなんて悲惨なことになりかねない。
転移魔法にはそれを避ける安全装置としての魔法も付随していると聞いてますが
あくまで緊急時用のもので平時はそれ頼りでの運用は推奨されていません。
ここは名ばかりですが聖職者の端くれとしてきっちりとお説教を!
「聖女さま、お下がりください! 何者だ!?」
そんな瞬間的な思考を終え、ふんす、と息巻くより前。
ジェイクが私の前に出ました。強い警戒の感情をまき散らしながら。
「ジェイク? ……あ」
そ、そうですよね。
言われてみれば突然現れたどこの誰とも分からぬ不審者でした。
これだから誰が相手でも気を許し過ぎだとラナによく叱られ……あれ?
「なっ!?!」
この女性、何か急に……驚きと戸惑い?
転移してきた瞬間は苛立ちと呆れと、奥深い悲哀の感情が視えたのに。
それはそれでなんでですかと聞きたいところなのですけどこれはいったい?
「え?」
疑問が私の眼の見方を無自覚に切り替えていました。
私は彼女の輪郭にそこで初めて意識を向けたのです。
それはどうしても魂を主軸に視てしまうためそのガワを視ない私の悪癖。
だから間抜けにもこの時までソレの存在に気付けていませんでした。
「あなたっ、手首に何をつけているのですか!?」
「わっ!? 聖女さま何を!?」
自分が目を見開いていることさえ気付けぬほどの瞬間的な慄きと驚愕に、
ジェイクを押しのけながら私は叫んでいました。
「手首? 何か布状の……リボン?」
「安物っぽいけど、何かあるのか?」
──『黒』です
彼女の手首辺りにこれまで一度も視たことのない『黒』が、ある。
欲深き悪人のそれと同じ色であるのに嫌悪も危険性を感じない『黒』色。
いえ、そんな程度ではありません!
だって、なぜ。
「ど、どうして黒色なのにそんな穏やかで暖かな想いが!?
これに比べたらその針なんて………ぁ、何の感情も入ってないから?
だから警戒しなかった? でもそれにはあなたの安寧と幸福を願う意思が!
やさしい気持ちがたくさんっ……いったいなんですかそれは!?」
自分の中でもまとまらないナニカ。
その『黒』を視て、正体不明の感情に翻弄されるように口走る私へ彼女は僅かな
戸惑いとその何百倍もの喜びを溢れるほど湧き上がらせながら、こう答えた。
「────愛です」
「愛っ!?!?」
どこか誇るような真っ直ぐで偽りのない言葉で。
何故かそれに衝撃を受けた私の反応を見て、楽しそうな感情が視える。
そして──どうしてかは分かりませんが──自慢するような意思で彼女は
次の行動に出たのです。
「え、ちょっと、あなた何を!?」
手首にある、誰かの暖かな想いの結晶のような『黒』へ口付けた。
「ん、ふぅ…ちゅ、ん」
肉体や魂から零れ落ちるほどの敬愛と親愛と────情愛のこもったそれを。
漏れ聞こえる吐息のようなリップ音はまるでこちらの耳をくすぐるようで
とても、なんだか、そう!
「ハッ、ハレンチな!!」
「え、聖女さま?」
半ば反射的に私はそう口走っていた。
だってまるでそこに、その人の顔が、唇があるかのような情熱的な接吻。
もちろんそこには誰もいない。頭と眼でちゃんと分かっているのに顔が熱い。
あの『黒』色に込められた暖かな想いとそれを受け入れ愛する彼女の想いが
交じり合って、溶け合って、まるで、まるでっ………きゃああぁっ!!?!?!
「ふふ……聞いていた話と違って存外に可愛らしい方だったのですね」
「~~~~っっ!?
なっ、なんですかその幼子でも見るような微笑ましい感情は!?」
「……まさに、なのですが……これは毒気が抜かれます。
庇うついでに、文句も言うつもりで飛び出してきたのですが…」
どうでもよくなりました、と暖かな呆れが視えます。
なんとなく年上なのはわかりますが幼子扱いはさすがに納得いきません!
だから半眼で鋭く睨んだのに、余計にその感情が強くなってませんか!?
どうして────えっ!?!
「っ」
私の耳だから拾えた、緊迫で息をのむ音。
彼女の心が瞬間的に切り替わったのが視えた。
表面的には緩んでいながら、内心は全方位を警戒してたのに今は違う。
たぶん他の誰も彼女の警戒心の大部分が背後に向いたのを気付いてない!
「左に跳びなさいっ!」
果たして、その鬼気を視たのと彼女の声が届いたのはどちらが先だったか。
固まるジェイクの首根っこを掴みながら理力で強化した脚で左へ横っ飛び。
直後、私達の真横を強大な攻性魔力が走っていく。
あ、危なかった。
私はともかく気付いていなかったジェイクが直撃を受けていたら
大ケガ程度では済まなかったかもしれません。下手をすれば真っ二つでした。
私の真後ろに誰もいなかったのも幸いです。
斜め後ろにいたアーベル殿も運良く攻撃範囲から外れていて無事。
ですが、衝撃音の感じから今のを叩きつけられた建物がどれだけ抉られたかが
いくらか察しがついてしまって冷や汗です。
あちらなら教会経由で弁償できるのですがこちらではどうしましょう。
などと、何が起こったのかを考えながらも無用な破壊を防げなかった己の
不明を恥じていたところで。
「……この、厄介事が渋滞する流れはっ」
今にも舌打ちしそうなぐらい苦々しい感情が視えた。
(私から見て)右に跳んだ彼女も無事なようです。
抱えている民間人の女性も大丈夫そう。
あの一瞬でどちらが鬼気の源か見抜いたということでしょう。
凄い方です。
ただどうしてそんな感情を抱いているかは謎ですが。
「ジェイク、彼はどうなっていますか?」
気になりますが今はそれよりも彼の方。
たしかムジカと呼ばれていた男性、その彼を警戒するのが先です。
彼がさっきの攻撃をした、鬼気を放っていた人物なのですから。
「す、すいません助かりましたっ!
それと奴ですが全身が黄金色の光に包まれています!
しかも奴自身の姿が隠れるぐらいに強烈な光で……っ、なんて魔力量だ。
あ、あと、なんとなくですが……正気ではないかもしれません」
「オレガ、オレガヤルンダッ! チカラッ、チカラサエッ……アレ、バ?」
「ム、ムジカ? え……うそっ、どうしちゃったの!?」
やはり、ですか。
色までは分からずとも強大な魔力が全身を包んで巡って……いいえ激流です。
暴風のような勢いで暴れ狂っていて、思わず足が下がりそうになる圧力。
一個人が奮う魔力としては尋常ではない量と密度!
眼が痛いと錯覚しそうになります。
これ、私の理力でも彼を傷つけずに抑えるのは難題ですね。
そしてその乱暴な力の奔流が肉体どころか心にまで干渉していました。
怯え、嫌悪、渇望、困惑、くっ!
色んな感情が混ざって暴走してるせいで細かく判別できません!
でも。
「聖女さま、もしやあの黒い針とやらが原因ですか?」
「……いいえ、むしろ精神への干渉に抵抗してますね」
自然界にある無色の魔力にも似た力が彼の中で暴れ狂っているけれど、
首裏に刺さっていた黒針がその流れに抗うように精神部分にかかる負荷を
いくらか身代わりしている。あれがなければおそらく、もっと早い段階で
あの状態になっていたはずです。それに最初の攻撃の後も次から次へと無差別に
近い攻撃を繰り返したでしょう。彼を覆う魔力には人の負の感情や攻撃性を
刺激した上で増加させようとする特性が、誰かの意思が視えます。
でもあの針が邪魔するせいで僅かに彼の正気も残っている。
実際さっきの攻撃に彼自身が戸惑っている感情もなんとか視えました。
「…末端中の末端ですらそれですか、あのお人好し…」
んん? なんでしょう?
暴走してる訳でもないのに複雑すぎて判別できない感情が右側から視えますが
とりあえず今は後回しです!
「ともかくっ! 今のは彼の意思による攻撃じゃありません!
全員警戒しつつも迂闊に動かないでください! 彼を刺激しないで!」
理屈は分かりませんこれは外部からの干渉による暴走。
現状は奇しくもあの黒針が防波堤になって抑えていますが長くは保たない。
実際、この場にいるだけで本能的な警戒心が刺激される。
無意識に両手を握り、冷や汗を流している自分がいます。
これは危険です。
もしこの場であの密度と量の魔力が暴発したら最悪、私以外が助からない。
理力でどれだけ削れるか。いえ、それが爆発の切っ掛けになる可能性も。
しかもそれだとどちらにせよ確実に彼は助からない。
いけない、なんとか暴発させずに彼を止めないと!
そのためにはまず原因を特定しないと。
「いったい、どうしてこんな……いったい何が?」
彼女が転移してからはそちらに意識が向いていて彼を視ていなかった。
でも、遠隔からせよこの場でにせよ何かをされたのならさすがに気付きます。
そういった何らかの力による干渉も私の目は捉えられるのですから。
なら、元々彼が持ってたナニカが原因?
でも全身を覆う力の奔流が激し過ぎてどこが起点なのか!
「…半分ぐらいはあなた方の責任だと、私は愚考いたしますよ聖女猊下」
そう彼を凝視していた所へ。
嫌味な声色と共に呆れと苛立ちの混ざった感情が届く。
この感情は、転移した直後に持っていたもの?
いえ、というより、いまなんと?
「え、わたし、たちが原因?」
「…責任、だと言いました。
状況的にあの精神状態に追い込んだのがトリガーでしょうから」
「いったいなんの話を…」
意識の大半を猛り狂った強大な魔力に侵されている彼から離さず。
されどこちらには、私には暖かな呆れの感情を向けてくる彼女は淡々と、
けれど容赦なくその責任を並べ立てていった。
「未知の力による手足の感覚を奪うほどの異様な拘束術、というだけでも
一般人には戦々恐々ものでしょうに謎の光に体中を貫かれてもいたのです。
ああ、謎の武装集団に囲まれてもいましたか。そのうえその集団のトップが、
自分達を拘束した術を使ったらしい女が、ニコニコ笑顔で近寄ってくる……
それはもう息が止まるほど恐ろしかったことでしょう」
「……………ぇ」
それはもう分かりやすく。
確かにそう言われると何とも恐ろしい状況で愕然としてしまう。
自分がそれをやってしまったという点も含めて。
ただ、一つだけ分からなかったことが。
「笑顔って怖いのですか?」
あれは楽しいとか嬉しいとか、あと敵意が無いのを伝える表情なのでは?
他の表情含めて昔ラナとたくさん練習したのに!?
「………なるほど。
時と場合によりますが先程の状況では逆に一番恐ろしいかと」
「なんてこと!? やってしまいました!」
今にして思えば確かにお二人から恐れと焦燥の感情ははっきり視えていた。
けれど経験則で、あちらの感覚でその程度なら大丈夫だと判断してしまった。
ここは異世界だったのに。
都市の形、治安の程度、脅威との距離感。違うことは知っていたのにその意味を
解っていませんでした……良かれと思って私達と彼らを同じ人間であると
考えていたのがこんな形で裏目に出るなんて!
「……これは本来お前達がカバーすべき事柄ですよ」
そんな風に私が自らの浅慮と失態に愕然としている横で。
彼女の意識は、非難の言葉は、他の者達に向けられていました。
今ならはっきり視える。彼女が抱えていた苛立ちはジェイク達に対してだと。
「通常の視界を持たぬ方に仕えるのに、その代わりを務める気がない側仕えなど
何の意味があるのか────恥を知りなさい」
「っ、どこの誰とも分からぬ者が勝手なことを!
そもそもお前が現れなければとっくに終わっていたんだっ」
「針を消されて完全暴走した民間人を見殺しにして、ですか?」
「ぐっ」
それは彼女の介入がなければ、あり得た結果でした。
いまこうして会話できる余裕があるのはあの黒針のおかげ。
被害が最低限で済んでいるのも、対応を考える時間があるのも。
当初の目論見通り消してしまった後でこうなっていたら、その場合……。
「…ジェイク、そこまでです。
これは言い逃れの余地なく、こちらの落ち度でしょう」
ここが異世界だと、そこで生きているのは私達のことを知らない人々だと。
理解しているつもりで安易に力を振るって、知らぬうちに追い詰めていた。
ええ、確かにこれは私達の責任です。
「ならばこそ! 私達が彼を止め、救わなければ!」
「そ、そうはいってもこれはかなり厄介な魔力暴走ですよ!?」
他の人には無い力を持つ者としての責任を。
仮にも聖女と呼ばれる責任を果たすために。
そしてそう呼んでくれる人達を裏切らないために。
今ここにある私のすべてを使いましょう!
「大丈夫、私の理力があれば、それに……」
だから笑ってみせる。
笑顔をみんなに見せる。
今度は安心を与えられるよう願って。
出来ないことも多い私には彼らが必要だと分かるように。
だって私は一人ではないのですから!
「みなさんもいます! どうかこの私に苦しむ人を救う力を貸して───」
「いえ、もう終わりました」
「───へ?」
素っ気ない、されど簡潔な終了宣言に思考が一瞬止まる。
こぼれ出た私の戸惑い声と、彼の方から何かが破裂して地面に転がり落ちた音が
届いたのはほぼ同時で、途端にあの強烈な魔力奔流は弾け飛んだ。
それはもうきれいに霧散、し、て………ぅえええぇぇ?
「ムジカ!」
「ぅ、ぁ……リ、ディカ……おまえ、大丈夫…か?」
「っっ、それはこっちのセリフでしょ、もう!」
正気を取り戻した少年と涙声で駆け寄った女性のやりとりが聞こえてきても
頭が働きません。
え、なんで、どうして……い、いえ!
助かったのならそれでいいのです! そうですとも!
女性の方の安堵と喜び、男性の方の戸惑い混じりの安堵の混ざり合い。
たいへん視てて胸に暖かい光景で、じつにいい……のですが。
今しがた固めた決意とか挽回に燃えた心とかが、こう、なんといいましょうか。
行き場をなくして私の中で右往左往して激突事故ってるといいますか?
かけっこの第一歩で盛大にこけてしまった感といいますか?
いえ、誰かとかけっこなんてしたことないですけど……ってそれは別に
どうでもいいんです! ええ! 元に戻って良かった!! はい!
それは本音、本気で、ホントーなんですけどっ!!
なにか!
こう!
釈然と!
しません!
「ぅぅっ」
さっきとは違った理由で、でもなんでかは分からないまま顔が熱いです!!
「────では、ここで私どもは失礼いたします聖女さま方」
「ふへ?」
ぐわんぐわんと胸と頭で膨れ上がるナニカに翻弄されていた私を余所に
彼女はいつのまにか安堵し合うお二人の所にいました。
丁寧な言い回しと落ち着いた声での不意打ち気味の逃亡宣言は
すっごく楽しそうな声と感情で行われ、私のナニカを逆撫でる。
けれど同時に天啓のような閃きが脳裏を走ります。
わ、わざとですか!?
わざとあの流れに持っていって!
わざとあのタイミングで解決しましたね、あなた!?
って、こらっ、転移魔法が発動寸前じゃないですか!?!
「ま、待ちなさっ」
「あぁ、ご心配なく。件の黒針はこちらで処理しておきますので」
ちがーう!
いえ、そっちもですけど!
でもそうではなくて!!
あ!
「き、消えた…」
「現れた時といい、なんて鮮やかに転移魔法を使うんだ」
浮かんだ疑問を口に出す暇もないまま彼女は二人と共に転移してしまう。
一瞬何が起こったか理解できず。次の一瞬で理解してなお感情が追い付かず。
さらに次で自らの体が寒さや恐怖以外の理由で震えているのに気付く。
「あの……聖女さま?」
この世に生まれてから20年。
特殊な眼を持っていると自覚してからおよそ12年。
今この時ほど普通の目が欲しいと思った瞬間はありません!
「いったいぜんたい何がどうなって助かったんですか彼!?」
見えてたなら誰か教えてーーーっっ!!




