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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
271/286

式典(カラガル宣誓)の裏で4





「っ、漂流者同士の子供!?」


「まさしく」


異世界(地球)探査実行の宣言は45年前。地球各国との極秘接触は38年前。

50年前にガレストで純地球人が生まれるには少年が口にしたケースを除けば

既に身籠っている妊婦が漂流してきてこちらで出産した場合と能動的に地球人を

拉致してこちらで産ませた場合ぐらい。前者はさして問題はないため博士の件と

無関係と判断したと予想できるが後者を口にしなかったのは信用されたと考えて

いいものか。あるいはよりややこしいのは漂流者同士のそれと判断したか。

どことなくそんな思考で言い当てたように思える。なぜなら少年はその厄介さ

を想像してか引き攣った表情を浮かべていた。


「当時の役人達に同情したく()なる。

 交流どころか世間に知られてない異世界(場所)からの、災害的な流民がこちら(ガレスト)

 産んだ子供をどう扱えばいいかなんて、誰も知らないし経験もない」


「…ガレストという世界ゆえに、ですか」


実に頭と胃が痛くなる話だろうと言外に告げれば少年は鋭くも同意を示す渋面(返答)

いったいその子は地球人かガレスト人か。誰の下で、どう育てるべきか。

教えるのは地球の知識かガレストの知識か。それらは移民・流民・難民に関する

問題が多い地球なら類似ケースや対応のノウハウがあっただろう。少なくとも

非公開の異世界案件であってもガレストよりはまともに対応できた目算が高い。

だが他国どころか人種の概念も皆無で、都市間での人の移動も希少だった当時の

ガレストではその子の誕生で初めて発生した問題だったのである。


「しかもその口ぶりですと博士のご両親の出会いはこちら(ガレスト)、という理解で?」


夫婦や恋人だったのならそもそも問題になんかなってねえもんな。

久方にそんな裏の声を聴いた気分ながらカークは事実ゆえ頷くしかない。

そう、元々その男女が深い仲であったのなら手続きや扱いに難儀はしても

『問題』にはならない。


「さらには政治的な思惑が絡んで……いや、土台になった、かな」


そのせいで彼は生まれ、そのおかげで彼は守られたといえたが。


「なるほど、宣誓の5年前の時点で地球との交渉準備が始まっていたんですね」


そんな言い回しで色々と察したらしい少年。

問いかけを装った断定の声が妙に頼もしい。話が早くて助かる。

まさに、だ。


「当たり前だが『カラガル宣誓』は祖父が突発的に行った訳ではなく事前に

 何年も時間をかけて調査・準備が行われた上でのこと。祖父は異世界探査と

 したが、当時は既に地球国家群との交渉を念頭に置いて動いていた。博士の

 誕生前後の時期はまさにその真っ最中で、漂流者の保護もその一環だった。

 しかし……」


「そこから既にうまくいっていなかった?」


「……わかるかい?」


文字通り身内(祖父)(失態)をさらす心境で苦笑すれば、ナカムラ少年もまたどこか

過去の何かを思い出すような微苦笑を浮かべていた。


「漂流した側ですが、経験者ですので。

 異世界人との接触は双方がかなり気を付けないと大変な事になります。

 自分もあちらの言語や知識をある程度習得するまでは色々やらかしました。

 取り返しが付かないこともたくさん……」


カップに残る紅茶に自らを映しながらそう零す彼の俯き顔には初めて歳相応の

脆さが見えた。同時にこれ以上は語らないという強い拒否感もあったが。

あるいはそれはこれから話すことになる“やらかし”への配慮と受け取るのは

考え過ぎか。


「……そういう点でいえばこちらはあまりに地球人への配慮が欠けていたと

 言えるだろう。当時はまさに地球の知識や理解が足りておらず、その自覚も

 無かった。そこへ───」


ただそうだとしても気が重いせいか大統領の表情は硬いものとなっていた。

まず語らなければならない前提の話が、あまりにも恥ずかしく情けない。

そういった現代の感覚が彼らの失態の上に積み上がったものだとしても。


「───上層部と現場の連携不足と認識違いが加わっていた」


「うわぁ…」


呆れ、というよりはどこも一緒だなといわんばかりの微苦笑が優しい。


「事前調査で地球人を同じ知的生命体と認識していたゆえに保護を楽観的に

 考えていた上層部と違い、機密事項ゆえにろくな情報が開示されてなかった

 現場では未知の世界の住人(生物)に対して不安と恐れが蔓延していたらしい」


「お恥ずかしながら異文化との接触経験の無さが露呈した結果です。

 上からの丁重に扱えという命令には忠実だったので乱暴にも粗雑にも扱わず、

 環境としてはきちんとしたものを用意したのですが未知への恐れと不安は

 及び腰の消極的な接触となってしまったのは否めず、また当時は翻訳機開発が

 始まったばかりで出来の悪い試作品しかなかったのが拍車をかけてしまい…」


「なまじ姿形が同じなだけに言葉が通じないのがすごく不気味に見えたそうだ。

 こちらには他言語の概念も無かったからね。上はそれを軽く考え、現場は

 気味悪がり、互いがそうであると気付いてもいなかった」


言葉が通じない地球人とガレスト人だけならいざ知らず。

言葉が通じるガレスト人同士でも相互理解出来ていなかったのは皮肉である。

後々にまとめられた報告書によれば試作翻訳機を通して片言ながら意思疎通が

できた個人もいたが片言ゆえに細かいニュアンスが通じなかったり、異文化の

タブーに無遠慮に触れてしまったことで関係構築に失敗した例が多々あった。

これが機密に触れる公にならない仕事、つまり下手な失態は自分達が極秘裏に

処理される危険があるものだと重く受け止め─過ぎ─ていた現場はさらなる失敗

を恐れて、より彼らに踏み込まないようになり、その状況を上層部に隠すように

なっていったという。典型的なミスと隠蔽のコンボであった。


「それで指示を出した上層部、実際に対応する現場、保護された漂流者達、の

 それぞれ(・・・・)の間で物理的・精神的な距離を生じさせてしまったことが博士の

 両親を親密にする環境を整えてしまった、と?」


「まさしくだよ、ホントに」


やはりナカムラ少年は大方の状況を読んでいたらしい。

そう、ここが“まず”問題であった。この男女は元々何の関係もない間柄だ。

出会い、そして親密になったのはどう言い繕ってもこちらの落ち度が切っ掛け。

言語の違いを軽く考え、地球への理解が薄かった当時のガレスト政府が人種、

出身国、使用言語等で漂流者達を別々にする配慮が出来た訳がない。

漂流者達の間でも意思疎通は殆ど出来ておらず、件の男女がいた保護区画に

おいては彼らと同じ言語圏だったのはその二人だけであった。


「二人からしてみれば、突然怪物(輝獣)溢れる謎の場所に飛ばされ、言葉の通じない

 現地人に保護なのか軟禁なのか不明な扱いをこれまた言葉が通じない外国人達

 と一緒に受けるんだ……しかも出される食事に栄養はあっても味はない」


異世界、言語といった問題に続く最大の問題がそれだ。

かつてガレストにおける食事とは必要な栄養を摂取する作業だった。

おいしくしようとか楽しもうという発想が端から存在しない行為だった。

食べているモノは料理でも食物でもなく、もはや分類としては薬だった。

それが毎日続く。


「新手の拷問か何かですか、それ?」


「やってる側に自覚がない最悪なパターンの、だねぇ」


「そしてそんな地獄で言語を同じくする若い男女が揃ってしまい…」


「互いを慰めるように、という流れですか」


いかにもよくある話だといわんばかりの声色に大統領も補佐官もナカムラ少年が

十代であるのを忘れてしまいそうになる。それでいて非難する色が感じられない

のも年齢以上の経験値を感じさせた。その結果生まれた命があるうえに既に

二つ目、三つ目の理由を語っているため博士のその後を察しての気遣い、と

思うのはカークの過大評価か。


「…担当者達が気付いた時にはもう妊娠中期だった。さすがにこれは隠せないと

 現場は上に報告。寝耳に水の大統領府を余所に、拙い翻訳機越しだが当人達が

 産むのを希望したので彼らは全力でサポートした。上層部も混乱しつつ、

 やるべき手配はしていたらしい」


「そうしてクオン・クルフォード氏は史上初のガレストで生まれた地球人と

 なりました……公式記録には一切残っていませんが」


公には異世界公開後にこちらへ移住した若夫婦の間に生まれた子がその称号を

得ている。血筋は地球人。戸籍は双方持ちで成人後の選択制。生来素粒子は

ガレスト型のどこにでも出せる子、である。


「…で、博士の誕生後も彼の立場は宙ぶらりん?」


「ああ、だがそうせざるを得なかったというのが本音だ。

 妊娠発覚後、政府はようやく自分達の考えや認識が甘いことに気付いた。

 けれど何が適切なのかは依然として分からないまま。だから後でどうとでも

 出来るグレーな立ち位置にして調査が進むまでの時間稼ぎとしたんだ」


「まあ失態と知識不足を自覚しての判断としては妥当でしょうね」


付け焼き刃の知識で取り繕ったり、極端な方針転換をするよりはずっといい。

なにやらそんな経験でもあったかのように苦い顔をするナカムラ少年は本当に

あちらでどんな2年を過ごしたのやら。


「だがこの妊娠と出産は確かに上層部を悩ませたが現場と漂流者達にはじつは

 プラスに働いていたんだ」

 

「そうなのですか?」


「妊娠・出産は両親だけが頑張ってもうまくはいかない。特に彼らのように

 特殊な状況であれば余計にだ。その苦境と頑張りを間近で見た現場は自然と

 彼らを同じ人間と受け入れられるようになったらしい。特に子持ちや出産経験

 のある者達がそれまでが嘘のように積極的に動いたとある」


いみじくもナカムラ少年が裏ありきとはいえ最初の方で口にした言葉。

人種や出身より似た境遇で苦しむ者へ人は手助けしたくなる、という主張が

的を射ていたのだろう。


「翻訳機のよる片言、ボディランゲージ、映像を用いた説明等を駆使して妊娠、

 出産、その後の育児も団結して当たったことで彼らの間にあった距離は

 だいぶ埋まったらしい」


「そしてそんな環境で育ったせいかその頭脳ゆえかは判然としませんが博士は

 自然とガレスト語も地球の言語も習得して3歳時にはもう双方の通訳が

 出来ていたとか……さすがに発音は歳相応だったようですが」


「またそのデータのおかげで翻訳機開発は予定よりぐんと進んで他の

 保護区画でも意思疎通が改善、関係性が良好になったと聞いている。

 食事問題もそこで発覚して地球産を極秘入手して解決したんだとか」


「……ガレストは博士に借りがあり過ぎでは?」


「あはははっ……返す言葉もない……」


ここで政府にではなくガレストにとしたのはわざとか否か。

端的に痛い所を突く言葉に笑ってみせた大統領だが即座に力無く首を振る。

政府の調査不足、対応ミスの結果として生まれながらカバーするように双方を

繋ぎ、最終的にはガレストを救う開発や発明を多数した偉人となった。

受け取り方次第ではガレストを恨んでもいい生まれと境遇にも関わらず、

当人のガレストへの功績が多過ぎて苦笑すら出来ないカークであった。


「一応それもあって表舞台に立ちたくないという取りようによっては我儘な

 要望が通った所もあります」


「……それも彼の幼少期を思うとどこまで生来の気質だったかは疑問だがね」


気持ちを察しての補佐官のフォローであったのは理解していたカークだが

それでも博士がその結論を出した背景に性格的なものとは別の要素があったの

ではと考えずにはいられない。そしてそこまで語れば目の前の少年は概ねを

察する。


「…やはり博士の両親は帰還時に彼を置いていったのですね。 

 いえ、ひょっとして帰還決定前にはもう?」


「あぁ、男女としても親子としても破綻していたらしい。

 二人は元々特殊な状況下による共依存的な関係だったと見られている。

 息子の誕生は一時それを強めたが……博士は普通の子供ではなかった」


優秀(特殊)過ぎたのだ。様々な機器や装置の構造や技術、その背景にある様々な理論。

それらに幼少期から興味を持ち、世話役の者達に積極的に色々と尋ねたとか。

どうせまだ分かるまい、あるいは、この程度なら教えてもいいだろう。

そんな判断で世話役達が色々と教えた内容をそれ以上でもって吸収した彼は

気付けば大人でも舌を巻く才覚を見せつけ────漂流者達の中で浮いた。

生来の気質もあったのか巧みに隠したのかそれを寂しがる事も無かった彼は

むしろ嬉々として独りで日々を過ごし、制限がある中でもあらゆる勉学に

邁進したという。世話役達の主観だが机に座って何かを学び、調べている時が

一番楽しそうであったとか。


「そして博士が12歳、地球各国との秘密交渉が始まっていた時にはもう

 顔を合わすどころか互いに話題にもしなくなっていたとか。帰還時には

 別れの挨拶もしなかったらしい」


交渉がまとまり順次帰還していった漂流者達の中で博士の両親はそれぞれの

祖国へ別々に帰還している。役人からそれを聞かされた彼は淡々としていた。

全く関心の無い様子であったとも。


「じつをいうとクオン・クルフォードという名前は生来のものではない。

 両親が帰還して思う所があったのか後々の生き方を見越してか本人が改名を

 願い出てね。それを受けて彼を誕生から見守っていた世話役達がこぞって

 出してきた案を混ぜた名前がクオン・クルフォードになる。

 もしかしたら博士は彼らの方を家族に近いものと見ていたのかもしれない」


それもあってか。

彼を養子に誘った者も何人かいたがその頃にはもうクオン少年は日常において

他者を必要としない精神性を獲得していた。それどころか。理路整然と自分の

能力をアピールし、そしてこのまま秘匿された存在であり続けるメリットを

訴えてよりよい勉強環境とガレストでの生活環境を政府に用意させている。

高い能力の個人を求める傾向にあるガレストでも12歳前後でのそんな決断と

立ち回りは少し引いてしまうものであった。


「優秀過ぎる子供を持った親の反応はおおよそ自慢か拒絶です。

 そもそも異常な状態からの逃避が関係の根底にあった男女に規格外の子供を

 受け入れる余裕はなかったでしょう。その子の成長でいくらか問題が解決

 してしまったというのなら尚更……博士の反応はどこかそれを理解しての

 ことのように聞こえます……そも期待していなかった、とも取れますが」


「……子供にそこまで分析されてしまうと大人は立つ瀬がないな」


的確で隙の無い、おそらく正解なのだろうナカムラ少年の言葉をカークは

複雑な面持ちで聞く。当時クオン少年の世話をしていた役人達もこんな心境

だったのかと思いながらわざとらしく肩を竦めて。


「すいません、さすがに生意気でしたね」


「ハハッ、むしろキミぐらいの歳なら生意気盛りでいてほしい気もするが、

 それはそれで大人のエゴか…」


難儀な話だと首を振れば、大人も子供も苦笑しつつ頷く。

こんな話を理解して頷ける者は果たして本当に子供だろうかと思いながら。

そんな印象を受けてしまったからか。


「……何も言わないのだね」


主語の抜けた問いかけをカークはしていた。尤も。


「当事者でもない相手に何を言えと?

 それに自分は地球どころかどこかの国も背負っていませんよ」


少年は的確に口にされなかった部分を読んで、答えを返していた。

ナカムラ少年はここまで一度も当時のガレスト政府を批判していない。

必要な受け答えをし、相槌を打ち、原因を見抜き、呆れもしていた。

しかしそれだけ。理由はカークたちが当事者ではないのと自身がその立場を

持っていないからという簡潔さ。なんとも困った会談(・・・・・)相手(・・)である。


「だから、どうかご安心を」


「うむ?」


「さっきみたいな目は向けませんよ」


「っ!」


笑顔だった。

何の圧もない穏やかな微笑みだった。

これが最初であったのなら何でもなく流せたその表情から目が離せない。

世界や国家背負ってないが舐めると怖いぞ、という脅しがこれでもかと透けて

見えて背筋が寒い。


「………お気遣い、肝に染みる(・・・)


本当は冷えているのだが、あえてそこまでは口にしない。

先程のあれで半ば萎縮している側なのだ。それぐらいの嫌味は言わせてほしい。

尤もそれを避けようと当時を言い訳(フォロー)しつつの説明であったのは否めないので

目線で「よくいう」と伝えるに止まった。少年はそれに気付いているだろうに

ただ優雅に─いつのまにか配られていた─二杯目の紅茶で喉を潤すだけ。

カークは恨めしい顔つきになるが続くように彼もまた二杯目を楽しむ。

爽やかな甘い香りとすっきりとした味わいは心を落ち着かせてくれる。

悔しいほどに。


「こほんっ─────これらがクルフォード博士を隠していた一連の事情かな。

 彼の存在を知っているのは今の話に出てきた者達を除くと政府中枢の一部と

 祖父から私までの間の歴代大統領、十大貴族の当主経験者達、あとは実際に

 彼と共同で研究やら開発やらをした科学者や技術者、それを知る学会の重鎮達

 ぐらい、かな?」


最後に確認を込めて背後の補佐官に投げかければ頷きが返る。


「補足するなら直接会った者を除けば顔は知られていません。ただ顔を隠したり

 変装したりはしない方だったので会っていれば容姿を知っているでしょう。

 それ以外の方は各々、前任者から口頭で存在を聞いているだけと思います。

 ……あくまでここ数十年の話ですが」


数としてはそれなりにいるがガレストの風土ゆえ実力と結果を示す博士に

好意的な者が多く、またその恩恵を様々に受けてもいるため存外に彼に関しては

皆、口が堅い。わざわざ機嫌を損ねて協力関係が切れる方が損害が大きいのも

あるが。


「そうか、データに残らないからそうな…ん?

 それでは彼の発明品や発見は表向き誰の手柄となっているのですか?」


「いえ、そこは非公開扱いとなっています。

 元々ガレストには当人が望んだ場合に限り、発明者や開発者を非公開にして

 保護する制度があるのです。名が知られるのはメリット、デメリット、色々

 ありますので」


「昔、外骨格の基礎を完成させた技術者やその家族が何度も狙われた事件が

 あったため作られた制度でね、大統領でもこの非公開の名を知るには色々

 面倒な手続きが必要なぐらいさ」


余談だが複数人のチームでの研究・開発の場合、博士の尽力具合でそのチームの

名義か非公開かが変わるという。その判定は博士以外のメンバーで行われるが、

ここで測り間違えた上で自らの手柄としてしまった者達は数年以内に大きな失敗

をするというジンクスがあるらしい。


「他に博士に関して伝えるべきことは……そうだな、優れていたのはあくまで

 頭脳だけで身体能力ひいてはステータスは低い方だ。それも地球人基準で」


血筋がそちらなので当然というべきか。本人もステータスを伸ばす事には

伸びしろの短さもあったが興味が引かれなかったらしく、およそどの項目も

CかDランク程度。運動自体も当人は好んでいたが下手であったとカークは

聞いている。


「なので自衛手段は豊富に揃えていたようなのですが、こんなことに。

 どれだけ優れた道具やスキルで守られていてもその道のプロに直接

 狙われたのなら限界があるということなのでしょう……」


「……そういえば博士の死因は分かっているのですか?」


「検死によれば心臓への一突きで、即死だと。

 しかも検視官が妙にキレイな遺体だと所感を残すほど他に外傷や異常もなく、

 薬品や毒物も検出されていません」


まさに鮮やかな手口。補佐官がその道のプロを連想するのも当然だった。

誰もが──許可された範囲内だが──自衛の装備を持ち歩くガレストでは殺人を

計画しようとする場合、自衛装備を外す場所を狙うか装備を突破する方法を用意

するかの二択になる。現状、どんな状況で殺害されたかが不明なためどちらが

取られたかは分からないがどちらであっても実行犯は手練れであるのが窺える。

彼に装備を外させるほど近づいたのか。博士手製の装備を突破するナニカを

用意できたのか。その後の入れ替わりと政府への計画立案まで狙っていたなら

余程入念な準備と計画があったのが透けて見える。だが。


「……あの、どうやって身元確認を?」


どうしてかここ一番に怪訝な顔をする少年に何が気になっているのかと思った

カークであるが確かにそこは疑問かと納得する。


「ん? ああ……データが残ってないのに何故分かるのかという話かい。

 じつは博士も自分のライフスタイルだと、もしもがあった時にそれが本当に

 自分かどうかが判別出来ないのは問題だと考えたらしくてね。我々にその際に

 使える判定装置を渡してきたんだ」


「指紋、血液、髪の毛、体組織、個人判定に使えそうものならなんでも

 受け付けられる小型のスキャニング装置で、読み取ったモノが博士と同一か

 否かだけを判定する代物です」


ちなみに最新技術でも中のデータを読み取ることさえ出来ない謎仕様。

分解すら出来ないという報告まであるので脱帽だ。しかしそれは中身を

書き換えたり、壊すことさえ製作者以外には難しいことを示していた。


「元々自宅の調査には──あぁ、博士希望の生活を許す条件として自宅の場所は

 把握させてもらっていたんだ──で、それには博士の顔を知ってる者を何人か

 同行させていたから発見した遺体が博士のものだとすぐに分かった。だが、

 見た目だけなら如何様にも出来る以上は、とその装置で遺体から取れるモノ

 全てで検査したが判定は残念ながら全て博士本人であると出た」


「装置は代々の大統領が直接受け継いで自身で厳重に保管しております。

 博士当人ですら8年前に一度整備して以降触れていませんし大統領に

 接触すらしていません」


つまり偽者も触れてはいない、ということである。

万が一改竄方法を博士から聞き出せていたとしても実行不可能。

すなわちどう疑ってもその遺体が博士当人であるのが確定してしまう。

発言通り心底それを残念に思うカークは、だから少年の表情変化を見逃した。


「……噛み合わないな」


不安になるほどの硬さと懸念まみれの声が届く。

カークは顔を向けたが声を漏らした少年はこちらを見ていない。

それどころかカークたちの困惑に気付いている様子がなかった。


「ナカムラ、くん?」


「徹底的な隠蔽、可能とする技術力、客観性のある精神、多分野の見識と才能。

 そんな傑物を探し出し、把握し続け、誰にも気付かれずに暗殺・入れ替わり?

 しかも遺体はキレイだった、か……俺でも出来ねえよっ」


「は?」


「なら、その死体はいったい…?

 不格好な絵だ…どれが間違っている? 何が足りない?

 いったいナニなら……誰なら…なんのために……?」


早口の呟きは止まらず、されど半端にしか彼らには届いていない。

それでも少年が博士の死に対して何かしらの懸念を抱いたのは感じ取れた。

彼のことなら例え可能性だけでも聞かねばならないと腰を上げかけたカークは、

しかし。



「────恐れながら大統領閣下」



待ったをかける若い女の声(・・・・・)で動きを止めた。


「旦那様はいま考えをまとめておりますので少々お待ち頂きたく…」


しかしそれは懇願を受け入れたのではなく、多分に驚愕ゆえのこと。

いったい、どうして、なぜ────彼女がいるのを失念していたのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?これって誰だ? 狐は地球に置いてきてるはずだけど。 誰だか忘れたけど、シンイチのことを旦那様と呼んだ人がいたような?
[一言] そこまでの天才なら簡単にできそうな事がひとつあるんだよなぁ······ その場合動機が問題になるんだけど
[気になる点] やっぱり本当に死んだと思えないんだよな [一言] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。
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