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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
269/286

式典の裏で2


────────────────────




式典は佳境に進んでいた。一際大きな拍手と歓声が響く。

映像上の(ホロット)大統領が演説していた檀上に彼以外が昇ったのだ。


呼ばれたのは5人。

まず修学旅行の引率責任者として全体の代表であるフリーレ・ドゥネージュが

他の教員を二名引き攣れる形で大統領(ホロット)から順番に勲章を授けられていく。

触れる立体映像であるホロットは手の平サイズの代物なら容易に扱えるのだ。


果たして虚構の大統領から与えられている事実に気付いているのか。

彼らに授与されたのは濃い緑色の円と十字が組み合わさった勲章だ。

『緑星陽一等勲章』と呼ばれる民間人(異世界人含む)が為した功績に

対する勲章としては最上級の代物である。


共に受け取った同僚達は見るからに緊張が顔に出ていたが経歴上慣れているのか

フリーレは平然とした顔だ。ともすれば栄誉ある場ながらつまらなさそうに映る

その表情は煌めく白髪と鋭さのある美貌と相まってクールな美麗さを演出する。

退役後でも人気があるというのも頷ける姿であった。


続いて、前に出たのは二名の学園生徒。

ガレスト人生徒代表としてアリステル・F・パデュエールと

地球人生徒代表としてシングウジ・リョウが対照的な表情で勲章を受け取る。

パデュエールの跡継ぎはさすがか内心も伴った落ち着いた優雅な微笑である。

対して少し複雑な背景を持つらしいシングウジ少年は緊張を隠そうとして

余計に強張った表情になっていた。前者は将来が楽しみな頼もしさで、

後者には妙な共感と保護者のような感慨を大統領は覚えて微笑む。


「ふむ…」


されど、と横目でチラリと覗けば自分以上にそれぞれの表情を楽しげに眺める

ナカムラ少年にカークは内心、そんな顔もするのかと妙な感心をテーブルを

挟んだ向かいで抱いていた。


「なんでしょう?」


視線に気付いてか。

あの後、仕切り直しと腰を落ち着ける意味で誘った四人掛けのテーブル。

そこで勲章授与の場面になってさらに中断されていた話は今ここに再開する。

互いに一対一で席に着いた大統領と少年の表情は穏やかだ。

表情だけは、とも言うが。


「いや、キミもあそこで勲章を受け取りたくはなかったかと思ってね」


配られた紅茶から漂う芳しい香りと喉を潤す心地よい渋みを味わいながら

式典関連の話で繋ぐ。大統領にはホロットといういわば代理がいるがこの少年は

欠席となっている。この密談のためであるが表向きには救助作業時に負った傷が

未だ治療中で医療ポッドが外せず、また突然で時期を外した編入のため学園の

特殊な制服を所持していない事情も合わせて見目の悪さから自主的に欠席した、

というストーリーになっていた。会談が決定した時点で用意していたかのように

出てきた理由(言い訳)に段取りを組んでいた筆頭補佐官(オルバン)は唖然としたとか。

なお実際には彼の右腕は報告でも先程握手した感触でも治療完了を確認済み。

単に皆と制服が違うというだけでは欠席理由として弱いためそんな方便を

抱き合わせたのだ。尤も見た目を誤魔化す手段はガレストではいくらでも

あるため本来なら苦しい言い訳であるが──異論が出なかった辺りに学園での

彼の立ち位置を察する。それを少年自身はどう思っているのか。

問いかけが出た理由の一つはそんな些細な疑問だった。

が。


「全員もらえると聞いていますが?」


返ってきたのは心底不思議そうな、何かがズレている返答。


「い、いや、あの場でという話だよ」


「一般生徒は式典後に配布ではなかったのですか?」


「そ、それとは別枠でキミが檀上にあがることも出来たろう?」


「どうして自分が?」


「えっと、だから……キミ、何か急に話が通じなくなったね!?」


「うぬ?」


先程までの裏まで含めた丁々発止はどこに失われたのか。

思わずこちらの本音が漏れ出てしまったカークと首を傾げるナカムラ少年。

じつの所、拉致事件さえなければ彼も公の場で名誉を受け取れた立場にある。

オークライの救助作業開始の最初の号令を本当の意味で発したのがこの少年で

あったのはパデュエールとドゥネージュの連名で送られた報告書で知っている。

おそらく交渉相手としての箔をつける意味合いで─許可を取って─彼女達は

事実を明らかにしたのだろう。学園ひいてはクトリアで起こったここ最近の

事件の解決にもマスカレイドの協力者として関わっていた件も合わせて。


「私はキミがオークライでのMVPだと思っているんだよ」


全ては無理でもいくつかは公には出来る。それを持ってあそこに立たせる事も。

否、事態の深刻さを即座に見抜き、学園勢を動かせる人物達へ進言。その行為

だけでも個人的には表彰モノだとカークは考えている。何せそれがどれだけの

時間を短縮できたかは計り知れないのだ。救助作業において初動の一分一秒は

値千金。通常の流れであれば、事態の把握、情報収集、生徒達の安否をしつつ

緊急事態で動揺や混乱に陥っているだろう生徒達を収め、まとめる時間もいる。

しかしそれらが成っても最初に選択するのはまず避難だ。

いずれは救助作業に助力してくれたかもしれないがその大きな時間的なズレは

間違いなく犠牲者数を跳ね上げた。発生直後という事態を把握しきれず混乱さえ

出来ていなかったタイミングでドゥネージュとパデュエールという二枚看板が

学園勢力を救助作業に従事させる方向で働きかけたからこそのあの結果だ──

──オークライ市民を救った最初の立役者は間違いなくこの少年である。

だというのに。


「はい?」


「……もう呆れるぐらい『なんで?』って顔したね、ナカムラくん。

 そういうのに関心ないどころか考えも及ばないタイプかぁ……」


──一番厄介なんだよ、それ

問題に対して早急且つ適切に対応できるがそれが評価されるとは微塵も

考えていない。必要なコトをやれる人間がやっただけ、という程度の認識。

自らが解決した事態を軽く見ている訳ではないのだから不思議な話だ。

じつはこのタイプは頼りにはなるが同時に扱いに困る人材なのである。

集団や組織の運営において必須な信賞必罰、その『賞』を受け取りたがらない。

もらうほどのことはしていないという認識なのだ。信賞必罰は怠れば全体の

士気が低下し、優秀な人材の流出を引き起こす。健全な組織運営では軽く

考えてはいけないのだがこのタイプは適切な報酬や地位を与えるための最大の

障害が本人という笑い話のような状態を作り出す。今は反逆者のどこぞの将軍も

同類だった。だからきっと重大な決断を傍から見るとあっさり選択してしまう。

周りの誰かの想いを置いてけぼりにして。


「………元帥が気に掛ける訳か」


「?」


「すまない、忘れてくれ」


不思議そうな、悪く言えば抜けてる顔をするナカムラ少年にカークの方が頭を

抱えそうになる。ここまでの年齢に合わない落ち着きややり取りとは正反対の

歳相応以下(・・)な顔つきに毒気が抜けるが、大統領として彼は早々に切り替える。


「さて、式典はまだ続くがキミが興味のありそうな場面はもう無さそうだ。

 本題に入ろう────どちら(・・・)からがいい?」


「…そうですね、捜査状況も気になりますが要望を伝えるだけになる被害者達の

 今後についての話を先に済ませてしまいましょう」


「おや、伝えるだけ、なのかい?」


こちらは何の二択かあっさり察するのか。

と埒外に考えつつもカークは意外そうな顔を見せた。

てっきりそちらに力を入れて交渉に望んでくると見ていただけに。


「既にまとめてありますので。

 無理難題や突飛な要求は無いと思いますがそこは担当の方と詰めたいかと」


そういって彼が片手をあげれば背後のオルバン補佐官の端末に要望書(データ)

送られた。補佐官が少し確認したのち空間投影されたテキストを読んでいけば

彼の言う通り実現不可能な要求もおかしな要求も見当たらない。彼らを隠しつつ

出来る限り不自由のない生活を送れる現実的なプランが既に組み上がっていた。

つまりは───交渉の余地がほとんど無く、注文はそれ以上に無い。


「力を入れ切って完成させた口か…」


「はい?」


「ははっ、出来の良さに感心していただけさ」


「…恐縮です」


信じてない顔だな。しかもそれが素直に出ている。

彼としては「世辞はいい」という心境か。場慣れした空気は感じるが我が事には

焦点が合っていないのは先程のも含めて胸中が呆れと苦笑でいっぱいになる。

が、カークはそれをおくびにも出さずに、されど気になった点を指摘した。


「しかし、これは直近の対応についてのみで今後の要望という点にはあまり

 触れていないが…」


当然だがいつまでも政府で保護し続ける訳にはいかない。

どこかで開放しなければならないが、その際の取り決めや方針にはノータッチ。


「…現状ではそれを話せる段階ですらない、と判断しています」


理由はわかっているだろう。

先程の問いかけを忘れた訳ではあるまい。

と鋭い視線と言葉の裏で語る少年にカークは苦笑と共に頷く。


「確かに……何はなくとも事件が解決しなければ始まらない、か」


「せめて手段だけでも特定できれば、まだ違うのですが」


起こった事象から考えれば犯人側が有しているモノは厄介であった。

ガレスト政府が認識していない異世界ファランディアの次元位置情報。

それほど次元距離が離れている世界を探査し地球人のみを特定するシステム。

それによって発見した対象を全員ガレストまで転移させた装置ないし手段。

補足するならこれらを可能とする高い技術力と莫大なエネルギーを所持している

可能性が極めて高い。それぞれの詳細が一切不明なまま。

だから個人レベルで次元転移が出来るマスカレイドがいるにも関わらず、

被害者の中には即時にファランディアへ帰参したい者もいるというのに、彼らを

次元転移で戻せないでいる。動機すら不明なために犯人が拉致した目的が達成

されたかさえ分からない以上、再度の拉致が無いとは言えないからだ。


「手段、手段か────だから『未帰還者一斉探査計画』か」


「ええ、同じモノが使われたのではないか、と。

 さほど荒唐無稽な発想ではないと思うのですが、どうでしょう?」


わざわざ裏側を翻訳する必要もない露骨さのある物言いにカークも笑う。

ここで間抜けと不誠実をさらせば何をされるか分からないという怖気への

笑いであるが。


「ああ、ご指摘の通り(・・・・・・)

 我々も事件の概要を聞いて、最初は驚きに呆けて、次はオークライは厄ネタの

 宝庫かと頭を抱えて、その後だったよ。地球人だけを攫ったという話に

 まさかと背筋を震わせたのは」


共通のフレーズとまだ記憶に新しい時期だったこと。

何より自身が二世界へ大々的に友好や人道的配慮をアピールし、計画の音頭も

取っていたのもあって連想は早かった。近年の研究で生命体は血筋ではなく、

生まれた世界によって体内に持つ素粒子に違いがあるのだという。比較対象が

二世界分しかないため全てに当てはまるかは断言できないが地球生まれと

ガレスト生まれには一律の差異があった。それを目印にした探査がこの計画の

肝である。ゆえに関係者か技術か装置か。どれかが悪用された可能性は容易に

想像できた。


「すぐに調べさせたよ。当然他のアプローチでの捜査も含めてね。

 だからその時点ではあくまで一つの可能性でしかなかった……が」


「…何か出ましたか?」


「ナカムラくんの懸念が大当たりだったのは確かだ────最悪な方向で」


そんな抽象的な発言を少年はどう受け取って、頭で何を想定したのか。

形ばかりの表情(笑み)すら消えた真剣みのある顔つきで鋭くこちらを見据える。

続きを促すそれにカークは一つ頷き、その事実をまず口にした。


「計画の発起人であり技術面における中心人物であったさる博士。

 クオン・クルフォード氏が自宅で遺体となって発見された」


「口封じですか?」


「かもしれないね……2年前に(・・・・)彼が何かを知ってしまったのなら、だけど」


「っ!?」


初めて少年の顔に揺らぎが見えて少しばかりしてやったりな気分のカークだが、

それ以上にこれは政府がしてやられた(・・・・・・)話であるので精神的マイナスが大きい。

察したのか続く報告は自分の役目と判断したのか補佐官が話を引き継ぐ。


「…計画が政府に提案されたのは約2年前となります。

 発見した遺体は特殊な装置で保存されていましたが検死結果から死亡したのも

 およそ2年前だと判明しました…」


「おい、それはっ」


「ねえナカムラくん」


「っ」


「我々ガレスト政府はいつから騙され、どう利用されたんだろうか?」


果たして自分は今どんな顔で笑っているのか。

表情を作るのも政治家の仕事と考えるカークであるがうまく出来ている自信は無かった。



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― 新着の感想 ―
[一言] やっと追いつけました! こんなに面白い物語を書いてくれてありがとうございます! とっても続きが気になる終わり方でした 次の更新を楽しみに待っています!
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 知れば知るほど笑えないなぁ、これ
[一言] 更新ありがとうございます 本年は今回が最後の更新でしょうか? 今後もご自愛の上無理なく作品の投稿を続けていける事 願っています
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