式典の裏で1
ガレスト中央都市にして、大統領府もある首都カラガル。
そのセントラル1──カラガルという都市に対する行政府の一角。
他都市のセントラルと比べても質実剛健な佇まいと圧迫感のある威容を誇り
ガレストでは比較的高い建造物だ。それを前にする形で白い制服姿の若者達が
数百名規模で整然と並んで立っていた。普段はそれだけの人数が悠々と集まれる
空間は無いが“大規模式典”時等にはブロック構造の組み換えによって広大で
平らな都市大地へと変化させられる。陸上競技場等にある400mトラックが
易々と入ってしまうそれは若者達以外の者達、軍・政府関係者や報道陣、地球の
各国駐在大使、様々な来賓、軍用ガードロボを従えた警備部隊等が集まっても
余裕があった。
オークライを襲った全都市機能麻痺と戦略級の一撃からおよそ十日後。
既にあれがテロ事件であり未知の顔型新型兵器が確認されたのも公表済み。
さすがに麻痺の手口や兵器の高いステルス性、大都市を吹き飛ばす攻撃力等は
混乱と恐怖を招くだけと伏せられており、ただただ政府は「手口は判明、対策は
構築済みだ」と市民達の冷静な行動をお願いし同時に徹底的な捜査と犯人逮捕を
約束していた。
しかしそれらよりも大々的且つセンセーショナルに報道されていたのが、
被害抑制の立役者。全都市機能と軍官民組織の麻痺に誰よりも先に気付き、
初期対応と救助作業を行った外部の集団がいた事実。何を隠そうそれは地球と
ガレストの架け橋になるのを期待される学び舎であるガレスト学園、正式名称
──UN=ガレスト合同特殊高等学校の教師や生徒達であったのだ、と。
「────私は心より、嬉しく思う!」
整列した若者達を前にして、皆より一段高い場所に立つ初老の男が語る。
「我が祖父を含めた先祖達の決断は間違っていなかったのだと!」
飄々とした雰囲気を醸し出しつつ興奮冷めやらぬと熱弁するのは本音か演技か。
「知っておられる方も多いでしょう。資源枯渇の危機を前に、異世界との交流を
決めた6代前の大統領は私の祖父となります」
現職の─第46代─大統領カーク・ツェッペリンその人の視線は真っ直ぐだ。
一定距離を保ちつつも自分を撮る小型ドローン群に目もくれず、立ち並ぶ
ガレスト学園生徒達だけをしっかり見据えている。
「孫である私が大統領となり、その在任中に彼らのような若者達がいると
知れたのは運命を感じずにはいられない。何故なら確信を得られたからです。
我らが確実に先祖が望んだ未来へ進んでいると!」
彼の声は張り上げたものでもないというのによく通った。
勿論機械で拡声されてもいるが不思議とそれ以上に人の意識を集める声。
「反対はあった、苦難もあった、問題もあった……されど、今!」
天性的なものか政治家として当然の技術か。身振り等のパフォーマンスも
少ないというのに誰もが目と耳を離せない演説であった。
「次代を担う若者達が誰に言われるまでもなく人々の窮地に立ち上がり、
ガレスト人・地球人関係なく手を取り合い、関係なく手を差し伸べた!」
されどそれを自ら手放すように彼はそこで初めて大きく手を振って、
生徒達へと皆の意識─と映像─を切り替えさせる。そこには自負と自信に
満ちた少年少女たちの真剣な面持ちがある。そして。
「ならばこそ私はあえて陳腐な表現をしよう───我らは既に隣人である」
その並びは視覚的に分かるほど地球人・ガレスト人を意識していなかった。
両者が全く別けられておらず、それでいて意図的に混ぜたようにも見えず。
だから何よりも雄弁に大統領の言葉を形にした光景のように感じられる。
遠い異世界の他人ではなく、同じ社会を形成する隣人だと。
「痛ましい事件の中、この確信を抱けたことだけは幸いといえるでしょう。
皆さん、どうか彼らに…私達の未来の希望へ盛大な拍手を!」
大統領の音頭に割れんばかりの喝采が鳴り響く。
生徒達─と一部教師陣─もこれには何人か照れ臭がる様子を見せた。
だがそこには同じくらいに誇らしさもあって────
「────裏方から見ると滑稽だろう?」
大統領府地下にある、表向きには存在しない密談用の談話室。
そこへ入室するやいなやそんな言葉を投げかけたのはモニター内と同じ姿、
同じ声の人物。生中継の映像先にいるはずのガレスト大統領その人だ。
「造り物の自分が大仰な語りをしている姿は……控え目にも道化だな」
職業柄ゆえか。
笑ってしまうよとナチュラルに飄々とした、けれど感情が見えにくい表情で
自嘲気味に嘯くそれを室内にいた黒い学生服の少年に向ける。突然の声掛けで
あったが彼は戸惑うことなく小さく首を振る。
「いえ…あれが事前説明で聞いた、ホロット、なのですよね?
確か触れる立体映像で、実物としか思えないリアルな映像を動かせるとか」
一般には存在すら秘匿されている特殊な映像投影技術『ホロット』。
要人の所在地を誤魔化すためや密談でのアリバイ工作等で影ながら使われてきた
代物で、この少年には変に驚かせないため事前に概要を聞かせていた。
「ああその通りだ」
「あと再現対象が人の場合は事前に記録させた動きや発言しか出来ない、とも
聞いています……ならそこまで卑下される話でもないでしょう」
「うむ?」
「屋外でも通る発声、意識を引く間の取り方、過剰ではない必要な身振り。
大統領のこれまでの努力と鍛錬が垣間見える立派な演説だったかと」
とてもよく出来ていましたよ。
薄らと上から目線を感じる発言ではあったが大統領は虚を突かれた。
少年は当然に彼の「民衆に聞かせる演説の手腕」とそれを習得する過程を
賞賛したのだ。それは久しく浴びていない類の言葉で、その声色と表情から
嘘ともおべっかとも思えない発言なだけに年甲斐もない面映さを覚える。
「ははっ、嬉しいことを言ってくれる。
この歳、この立場になると誰も褒めてくれなくてね」
寂しい限りだよと嘯きながら──なるほど、これは手強そうだ──と
破顔の裏で事前に立てていたプランをいくつか練り直す。
何せいきなり投げかけた、芝居がかってすらいた発言を的確に読み取り、
不快どころか良い気分にさせる言葉を返してきたのだ。先手のつもりが見事に
やり返されたような心持ちである。狙わずにこれかと半ば戦々恐々だった。
悟られまいとわざとらしく肩を竦めて悠然と歩を進める。供として連れてきた
青髪の補佐官も同感なのかちらりと見た横顔には微かに冷や汗が流れていた。
それでもポーカーフェイスは崩れてないと褒めるべきか否か。埒も無い思考を
片隅に歩みは少年の前、互いの手が届く距離に着くまで続いた。
少年は礼儀か警戒か。奥のソファやいくつかある四人掛け程のテーブルにも
つかず、談話室ほぼ中央のスペースで自然体で立っていた。ガレストらしさ全開
の飾り気の薄い内装やインテリアであるがその泰然とした姿は一瞬ここの主が
彼だと錯覚しそうな空気感を漂わせていた。大統領が目の前まで来ると少年は
洗練された所作で目礼。
「改めまして、このような形とはいえ直接お会いできて光栄です大統領閣下。
ガレスト学園1-D所属ナカムラ・シンイチです。どうかお見知りおきを」
「ああ、ガレスト政府代表、第46代大統領カーク・ツェッペリンだ。
後ろにいるのは私の筆頭補佐官のミハイル・オルバン、共によろしく頼む」
十代の学生と世界一つを背負う大統領の会談はどちらも気負いのないそんな
自己紹介と握手で始まった。片方だけがあまりに立場が低いが、この二人が直接
顔を合わせなくてはいけない事情があるためかどちらも平然としたものだ。
「しかし、キミはその肩書きを名乗るのだな?」
「これしか無いもので」
「だが今は未帰還者拉致監禁事件の被害者代表ではないかね?」
そう本来なら接点など無いこの二人がいま大統領府にて非公式ながら会談に
臨んでいるのは“彼ら”の今後を話すためであり、ナカムラ少年はその立場で
ここにいた。
「保護した全員、キミが代表ならと委任状にあっさりサインしたと聞いたが?」
「そこは自分も驚いていますがマーサさんの根回しでしょう。
彼女の人徳ですよ。それに事件が秘匿されてる以上どのみち非公式な話かと」
にっこりとした裏の無い笑みで名乗りはしないと口にするナカムラ少年。
これに大統領が頬を僅かに動かしたのはおそらく彼しか見えていまい。
日本人らしい謙遜のようでいて、何か違うニュアンスを感じたのだ。
「しかも他に出来る人物がいないというだけで選出された消去法人事。
選挙で選ばれた市長や大統領とは比べるべくもない立場でしょう」
だからどうか遠慮なく、と少年は柔和な笑みを返す。
しかしこれを額面通りに受け取るようでは政治家としてやっていけない。
というよりカークは今のがこう聞こえてしょうがなかった。
『どうして俺が選ばれたか理由分かってるんだから文句はないよな?』
『お前らは選挙で選ばれたけど、その選ばれた奴らが色々やらかしたから
オークライはあんなことになって、この事件も気付かなかったんだよな?』
──いきなりぶち込んでくるじゃないか
許されるなら吹き出したくなるのをカーク大統領は涼やかな顔で堪えた。
この少年はあたかも仕方なくここにいるような口ぶりで、しかし政府側には暗に
『自分の立場を認めろ』『認めないというなら責任追及まで踏み込むぞ』と
意思表示してきたのである。
「いやいや、いざとなれば代わりがいる我らよりある意味貴重な人材だろう。
こちらとしてもキミに纏わりつく不可解さがいくらか解消できて助かったよ」
これにカークは了承する意図を込めてそう返事をした。
実際、現状ではこの少年の代わりとなれる人材は存在しない。
何故なら被害者達にはさらわれた先の現地政府と交渉が可能な者がいないのだ。
能力の有無ではなく、一か月の監禁状態からの解放直後という肉体的・精神的な
疲労が抜けきっていないという健康上の問題と現在の二世界に対する知識が
ほぼ皆無であるためだ。サポートする人材をつけようにもそちらには逆に
ファランディアやそこで生きる地球人の知識が要求される。それらの条件を
最低限でも満たせる人物は彼以外にいない───そんな話をこの少年は
ドゥネージュとパデュエールの跡継ぎを通して自分から政府に明らかにした。
自らがファランディアからの帰還者である事とそれ以外も。
手際よく被害者達と十大貴族跡継ぎ二名による事実を保証する一文も添えて。
これによりまさに唯一無二の人材となりガレストや地球では侮られやすい評価が
されていた彼を軽く扱えなくなった。尤も少年同様、大統領の言葉にも
裏はある。
『代わりがないのだから無茶はしないように』
『元々キミには注目していた』
『ファランディアからの帰還者というだけでは解消できない謎がある』
ナカムラ少年の立場は認めつつ暗に君自身には懸念を抱いていると告げる。
しかも一番に身の安全を心配している風に、だ。これは裏の言葉ですら本音では
ないが向かいの変わらぬ表情に伝わっているとカークは確信している。
尤もこれは脅しというより牽制されたことへの意趣返しに近いが。
「そこまで言って頂けるなら若輩者ですが頑張らせてもらいます。
正直、同じ世界に迷いこんで苦労してきた彼らの手助けはしたかったのです。
人間やはり種族や国籍より、同じ境遇にこそ親身になってしまうもので」
『そこ認めたからには翻すなよ? 何せこれは何者でもない俺が、
ただ同じ苦労をした奴を助けたいっていう人情的な話なんだからさ?』
ただそれはスルーされたようで彼は“代わりがいない”からこそその立場に
あるという認めを利用して自らが地球人としてはこの場に立っていないのを
暗に訴える。後々ここでの話を種族間・世界間の問題に絡ませないための
予防線であり釘であろう。
「ははっ、分かるよ。こちらも出来る限りの配慮を約束しよう。
何せ我らは共に犯人を追う者同士。事情が事情ゆえ表沙汰にするのは難しいが
こんな非道な犯罪を見逃すつもりはない。そこは協力し合えるはずだ」
『そこは弁えているとも。被害者達の救済にも最大限に手を貸そう。
だから犯人逮捕にも君達の手を貸してもらえると嬉しい。
我々もこの一件を有耶無耶で終わらせたくないのでね』
その主張に理解と同意を示しつつも協力を求めたのは足並みを揃えてほしい、
というこちらの釘であった。別々に動いた結果、邪魔し合いになるのが最も
避けたい事態だ。尤も同じ口でさりげに『有耶無耶で終わるのは嫌だろう?』
とも聞こえるように口にしたのも事実だが。
「頼りになるお言葉です」
『物は言いようだな、足元見やがって』
「何、当然のことだよ」
『それはお互い様だろう?』
表情と声色、微妙なニュアンスで彼らは確かにそんな表裏の会話をしていた。
それでいて表側の穏やかさ─を装う空気─は微塵も失われていない。
「………」
──元帥の言う通り、子供と思って油断したら痛い目にあいそうだ
これに大統領の背後で表情を消していたオルバン補佐官が胸中でこぼす。
どこからかこの会談と相手が彼である情報を入手したガルドレッド元帥が
秘匿及び大統領との直通回線を使ってまで「子供と思って甘く見るな」と
忠告してきたのだ。彼らはその時点でそれを真摯に受け止めたつもりであったが
今その意味を実感していた。それは何も裏を匂わす会話が出来ている、という
点だけではない。後ろ盾があるにしても交渉相手のホームでこうも平然と
一世界の大統領と向かい合って表裏で言い合うなど普通は出来まい。
死が近い世界だというファランディアで生き抜いてきた猛者の気配を彼は
文官ながらひしひしと感じていた。
一方でカーク大統領の方はその胆力とは別にその方針を評価していた。
ナカムラ少年は公の評価が低く功績も無い。それを逆手にあえて侮られて隙を
突く交渉も可能ではあった。下手に出て、譲歩を引き出す方法もまた。だが、
彼がこちらから引き出したいだろうモノは被害者達の手厚い保護と犯人や黒幕に
迫る捜査だ。それらは政府の本気と真摯な対応が求められる事柄。
しかし侮った相手にしてやられるのはやった方は痛快でもやられた方は不快で
心証が悪くなりかねない。へりくだり過ぎて対応がおざなりになるのは論外。
ならば最初から侮ると危険な相手、真剣に交渉すべき相手と思われるよう
振る舞うのは適切といえよう。ただ逆に言えば保護と捜査がきちんとなされる
なら自分への警戒や注目度が上がっても構わないという態度でもある。
彼の後ろ盾を思えばその強気は納得だが、それならば何故という疑問も湧く。
「ふむ、しかしそうなると…」
「大統領?」
いくつか推測は立つが、直接切り込んでみるか。
どのみち確認は必要なのだからとカークはその話題を放り投げる。
「被害者代表を名乗らないのは分かったが、ならもう一つの方は?」
「もう一つ、とは?」
おや、分からないのかい。
とでもいいたげな所作を見せながらなんでもないようにそれを告げる。
「マスカレイドの代理人、だよ」
カレを知る者なら誰もが驚愕し絶句するだろうその立場を。
この少年がガレスト政府との交渉相手になれた最大の要因はそんな凶悪過ぎる
後ろ盾と仮面直々の指名にあった。
「現地協力者、の間違いですよ閣下」
これをさらりと訂正する平然とした態度は本音かフェイクか。
「おっとそうだったね。
確か地球世界の調査を計画していたマスカレイドが現地での協力者として
帰還を強く願っていたキミを選んだ、という話だったか」
選定基準はそれ以外にもあちらで定職を持たずどこにも定住していない事。
また家族を作っていない等があったのを少年当人と仮面から報告されていた。
そう、ナカムラ少年は自分がファランディアからの帰還者である点に加え、
最初からマスカレイドの協力者であった事もガレスト政府に明らかにしたのだ。
彼からのみの話なら一笑に付すが仮面からも認められては無下にも、否、通常
以上の丁寧な応対を必要とする。この密談に大統領が直接出張ってきたのには
そういう事情もあった。だからこそその関係を前面に出してこない態度にカーク
は違和感を覚えている。
「はい、ファランディアでは近年、地球からの次元漂流者が増えていました。
従来は百年前後で数人程度だったのがここ五十年では40人以上の漂着が
確認されていまして…」
「っ、単純にざっと数十倍か。それなら調査をという話になるのも頷ける」
その疑問を見透かしてか。それともこちらの動揺を誘ってか。
事前報告されていなかった情報を雑談のように明かされ、一瞬息が詰まった。
「しかしファランディア側に原因が見当たらず、ならばとマスカレイドは
地球側の調査に踏み切るのを決断しました。私はカレが地球に慣れるまでの
簡単な水先案内人を期待されていたのですが、いざ帰還してみれば…」
「別の異世界との交流が始まっており、キミ自身は6年もの時差を抱えた。
調査の優先順位が完全未知のガレスト方面に偏るのは当然の流れだな」
少年の言葉を引き継ぐように語れば「ご理解いただき感謝します」と返る。
しかしながら同時に『それだけか?』と裏で促されているのが聞こえた。
「それにそちらで次元漂流者が増えた時期はガレストが地球側と接触し始めた
時期がほぼ同じ……当初の目的とも関係ありそうとなれば余計に、か」
「はい、閣下のご推察通りです」
「そういう訳だったか…」
ナカムラ少年の認めにカークは納得したように頷きながら鵜呑みはしていない。
確かに筋は通っているが同時に確認のしようがない話でもあったからだ。
確定事項と言えるのは拉致被害者がマスカレイドを認識している以上、カレが
ファランディアなる世界の存在である点とこの少年もまた一時期そちらにいて
共に地球にやってきた点ぐらいだろう。あとはおそらくだが今日に至るまで
行動も共にしていたらしい事もか。当然ナカムラ・シンイチたる少年の情報は
名が挙がった時点で調べ上げている。するとどうか。マスカレイドの活動が
見受けられた動線と彼の動線がおよそ一致するのだ。クトリアに渡る船から
総合試験時に起きた事件に歌姫の一件にオークライ。元帥から報告のあった
修学旅行の護衛依頼を受けたというのは方便だったのだろう。また逆算すれば
裏で『無銘』が関わっていたらしきデパート立て籠り事件の現場にこの少年が
いたとの情報もある。事件報告書によれば奇妙な破壊痕があったというが画像を
見れば巨大な手による引っ掻き傷のようであった。十中八九マスカレイドだ。
「しかし余計に分からないな。
そこまでの関係でありながら、それを名乗らない訳はなんだい?
はっきりいえば学生より丁重に扱われるし要求も通りやすいだろうに」
「既に名指しを受けています。それを軽く見るあなた方ではないでしょう。
しかも協力者というのは便宜的な立場に過ぎませんし、それに…」
「それに?」
「ここにマスカレイド当人や本当に代理人がいたら交渉にならないでしょう?」
──満面の笑みでいうじゃないか
やはり分かっててやったなこのガキ、と大統領は表情を崩さず内心で毒づく。
何せそれは交渉ではなくもはや恫喝に等しい。例え当人達にそのつもりが
なくともそう見えてしまうという厄介さを併せ持って。この二世界の誰が仮面の
要求に逆らえる。内容も言ってしまえば被害者保護と捜査協力の範疇だ。しかし
その場合どうしても圧力に屈した印象を政府側は拭えない。相手がマスカレイド
なため理解はされるが理性で納得できても感情はどうか、というのは
人間相手では常に配慮しておくべき事項だ。コトが秘密裏なため外部や内部の
目が少ない中それを軽んじるのは危険である。取り決めた事が実行されない、
あるいは程度が低くなる、等ということが起きかねない。内外の目があっても、
大統領命令であっても、勝手な判断や嫌がらせ、中抜き等を行う者達は後を
絶たないのだから。しかし交渉相手が十代の学生が相手ならば同じ結果でも
人道的配慮や大人げない対応が出来なかった、という言い訳が出来なくもない。
尤もそれは被害者達達の保護に格別の配慮をする“程度”でこの一件に関して
マスカレイドという最強の協力者を得る見返りと思えば安いものだ、という
考えがあってこそだが。
「ははっ、ご配慮感謝するよ」
「いえいえ、有益な話し合いをしたいだけですよ」
例えそんな言い訳全てが相手に用意してもらったものであろうとも。
「確かに……では早速、といきたいがガレスト大統領としては今の話を聞いて
確認しておきたい事柄が出来た……ガレスト人の漂流者の有無について」
とはいえそれはそれ。
ガレストを預かる者として彼はそこを疎かにする訳にはいかない。
ただそれをナカムラ少年が一瞬喜ぶように微笑んだのは気のせいか。
「ええ、当然の確認でしょう。
むしろ聞いてこなければあなたの評価を下げる所でした」
「おっと危ない」
せいではなかったらしい。
「ですが肝心の返答ですが、おそらくいなかっただろう、が適当ですね」
「…ずいぶんと曖昧だね」
「そこはご勘弁を。
こちらに来る前にファランディアで異世界人に関する調査は済ませましたが
ガレストを認知していなかった時期の調べですから、断言はできません」
「では、いなかっただろう、と判断した根拠は?」
「発見できた異世界人が全員地球人であった点が一つ。
あとこちらの方々の身体能力や常に身に着けている装備を考えると例え危険な
場所に漂着したとしてもいきなり死ぬようなことにはならないのが一つ。
そうなると目立たないというのも難しい、が一つといった所ですね」
漂着した途端に現地生物や環境によって死亡する事が無ければ、当然あちらで
生きていく道を選ばざるを得ない。その際ファランディアにはない装備を持つ
彼らがどこにも誰にも怪しまれず、記録にも記憶にも残らないかといえば
まずありえないか。
「キミやマスカレイドがガレストを知らなかった。
その事実そのものが漂流者がいなかった証明に近い、か」
「無論それらをずっと隠し続け、目立たずひっそり生きて死んだ。
となれば分かりませんが……今回の件の犯人を捕らえればいま生きている
ガレスト人がファランディアにいるかどうかは分かるのではないかと?」
「…というと?」
いま自分の顔は歪まなかっただろうか。
思い付きか誘われたのか。ここでそこを指摘されるとは内心冷や汗の大統領だ。
「おや、そこはとぼけずともよいのでは?」
公になっている情報ですよと少年はにっこりと─背筋が凍るように─微笑む。
「今年の3月、ガレストにおいて未帰還者の一斉捜索。世界全体のスキャンが
可能な装置を使って行われた、と聞いています。確か生まれた世界によって
体内に違う素粒子を持つのを利用したもので実際に幾人か発見できたとか……
…今回の一件、それが使われたんじゃないですか?」
ここで切る




