加減を知らない男
───まさかの手紙が私の下に届いた
以前差し上げた転移箱から送られてきた白い封筒
刺々しく感じるのに、慣れると柔らかで暖かく感じる魔力の波動
あの人のそんな魔力で封をされたそれを、少しドキドキしながら開く
中身は案の定とばかりに季節の挨拶すらない要件の箇条書き
ええ、ええっ、期待なんて塵一つも抱いていなかったけれど
こういうところには本当に遊びがない方なんですから!
普段はもっとこう、容赦なくいじめてくださるのに!
でも、どれをとっても無視できない重大案件で頭を抱えざるを得ない
走り書きのような崩れた文字に切迫具合も感じ取って苦笑が浮かぶ
どうやらあの人は変わらず騒動に愛されてしまっているらしい
そして末尾にあるたった一言の「すまん、頼む」なんて文字だけで
頑張りたくなってしまう自分はどうやら彼を過去にできないよう
ただ───
「─────なんて、間の悪いこと」
────────────────────────────
暗い、暗い、真四角に掘られた横穴を黄金光を纏う一本の線が走る。
進行方向先端にある巨大な回転三角錐で空間を裂くように、そしてたまに
輝獣を消し飛ばしながら自らの長い車体が生み出す黄金の線路を突き進む。
オークライ発の政府特別列車。それはかの都市が未曾有の攻撃に襲われてから
一週間、初めて内から外に人を運ぶことになった一便である。
乗車しているのは事件の初動で救助活動に勤しんだガレスト学園の教員・生徒と
その関係者。これは公的には彼らの活躍を称え、功に報いるための式典への
招待とその前にしっかりと休養を取ってもらうための移動であった。
それ自体は嘘でもなく本当の事ではある。ただ彼らに恩義を感じている
オークライ市民を刺激しないための言い訳という側面もあった。
そしてそれらは表の本命。
では裏の本命は何かというなら特別列車の最後尾に乗っている。
政府が用意した国賓向けの列車ゆえか車内は広く、六人掛けのボックス席が
余裕を持って並んでいた。全席は埋まっていないが半分近くの席には乗客が座り
雑談や食事を楽しんでいるが、安全のために窓すらない内装には少しばかり
違和感を覚えているようである。そんな空気感の車内そのおよそ真ん中辺りに
ある座席群では一際にぎやかな空気に包まれていた。
「────1年半ぐらい前だったかな?
最初はねー、マーサさんが森で拾ってきたんだよ」
「森で?」
「拾ってきた?」
ガレスト学園の白い制服と黒い学生服の少年少女達。
そして余所行きの、ガレストで不自然に思われない子供向けの衣服で
着飾ったクララが思い出話に花を咲かせていたのである。それもあってか。
誘拐被害者ながら帰還者にもなってしまった地球人達は近くの誰かと雑談
しつつもそちらでの会話も気になって耳を傾けてもいた。そこには当然、
彼らからするとよく知らない別の地球人帰還者がいたからでもあったが。
尤も話題にされているその少年は不機嫌そうな渋面で沈黙している。
しかし妹分は知ったことかと種明かし。
「お兄ちゃん、お腹空かして行き倒れてたからね!」
「は? 行き倒れ? 信一が?」
「そういえば、前にそんなこと言ってたにゃー。
野花がごちそうに見えて俺はもうダメかもしれない、とかなんとか」
「そ、そんな経験が!?」
「それでお前、妙に食い物に執着してたわけか」
納得と僅かな同情を向けられた当人は、なぜか目を泳がして口を閉ざす。
これにクスリと笑ったのは彼の隣に座っているクララだ。
「原因は無計画で旅してるお兄ちゃんだけどねぇ」
「お、おいクララっ」
「無計画?」
「ウチに来るたびにお腹空かしてるし、旅立つ前に準備した装備は
ぜーんぶ壊すか無くしてくるんだもん! 根本的に向いてないんだよ!」
「…………」
ねー、と無邪気なフリでネタ晴らしする妹分と苦々しくも黙る兄貴分。
彼が否定も肯定もせずに沈黙している以上はそういうことなのだろう。
さしずめ──吹聴してほしくはないがクララを無理に黙らせてまで
隠したい訳でもないけれど素直に認めるのもそれはそれで悔しい──
といったところか。
周囲は何故か彼のそんな心情をなんとなく察して暖かい眼差しを向ける。
彼は屈辱に歯を食いしばっていたが。
「ふふ、あの日はね、マーサさん食べ物を探して近くの森を見て回っててね。
なんか早々に帰ってきたと思ったら襤褸に包まれた物を運んでて、何かと
思ったら……」
「人間、つまりシンイチさんだったと?」
「うん!
たまにあることだからみんな『今回はけっこうでかい人拾ってきたな』
ぐらいしか思ってなくて興味持ってたの私だけだったけど」
「ふんっ、うそつけ!
わざと遠ざけた上で物陰からずっと睨んでたくせに、刃物片手で」
「あうっ、き、気付いてたんだ……」
今になって明かされた話に今度はクララが目を泳がす。
十中八九、意趣返しである。が、周囲は不穏なワードにギョッとした。
「睨んでた?」
「は、刃物付きで!?」
学園勢のどういうことだと問う視線にシンイチは肩を竦める。
「もっと幼い子供なら別だが見知らぬ13、4のガキは警戒対象だ。
どの世界だろうと人の親切を利用する奴は世の中ごまんといるしな」
「わかるけど、どうしてクララちゃんが?
1年半前なら7、8歳ぐらいじゃ……」
「当時、子供達の中で一番の年長者はクララでな。
他の大人は席を外してて、だから自分がとはりきってたんだよ。なぁ?」
「うっ……空腹でいつも以上にぼんやり顔してたくせになんで気付くかな!?
まあ、そうやって周りをちゃんと見てたからマーサさんが出した食べ物
受け取らなかったんだろうけど」
「へ? イッチー食べなかったの?」
「そうなの、お兄ちゃんったら『それはあなたが食べるべきだ』なんて
かっこつけてさ」
「いや、だって見るからに貧乏そうでしかも子供大勢抱えてる孤児院だぞ?
マーサさん自身もちゃんと食べれてない様子なのにもらえないだろう?」
さも当然の判断だと主張するシンイチであるがこの場の全員、彼が空腹で
行き倒れている前提を忘れていない。失念しているのは当時も今も本人だけだ。
「シンお兄ちゃんはこれだから……まあ実際あの時うちは借金まみれで火の車。
その日の食事にも困ってたのはその通りなんだけどさ」
「そう、でしたか…」
軽く、あっさりと語られる生活苦の話は衣食住に困った経験が無い者ほど
受け止め方や対応に悩む。されど続けられた少女の声はどこか明るい。
「でもお兄ちゃんは結局、無理矢理食べさせられたんだけどね」
「え?」
内容には若干脳がついていけなかったが。
あのシンイチに、無理矢理、行動を強いた。とはいったい。
『お腹空かした子がナマ言ってんじゃないよ! 黙って食べな!』
『ぇ、むぐぅっ!?!?』
「って感じだった」
本当かと問う無言の視線を向けられたシンイチだが、どうしてか。
思い出し笑いでもしてるような穏やかな笑みで頷いていた。
「言ったじゃないか、豪快な人だって」
「それ豪快って言う?」
「言うさ、何せ俺が押し負けた」
「は?」
「うん、そうだったそうだった。
次々押し込まれてお兄ちゃん涙目!
最後には『自分で食べますから!』って悲鳴あげて降参してたよ」
すげぇ、とこぼしたのは誰だったか。
この場にいないマーサに尊敬の念が集まるのであった。
「けどマーサさんも無理矢理だったのは申し訳なかったのか。
お兄ちゃん気遣って『気にするなら気持ち程度のお金でも払うか、
力仕事でもしてくれりゃいい』って言ったんだけど……」
「けど?」
「お兄ちゃん、少しだけポカンとした顔して、でもすぐに頷いたの。
ウチのチビたちがイタズラ思いついた時みたいな顔で!」
「お前な…」
「イッチー、先に自白しといたら?」
「あんた何やらかしたのよ?」
「…………悪いことはしてない」
一斉に集まった視線と確信の声にそう返すのが精一杯のシンイチ。
ナニカをやったのは明白であった。
「うんうん、そうだよね。
お兄ちゃんはマーサさんに言われた事やっただけだしね」
「……まさかお前マーサさんから全部聞いて?」
「うん!」
クララはそれをおかしそうに笑いながら元気に頷くので彼はがっくりと肩を
落として頭を抱え込んでしまった。
「そういえば口止めしてなかったっ…」
ぼそっとそんな後悔を呟いていたが皆の注目は話の続きで、
クララはやめる気など微塵も無いため彼を無視して口を開く。
「まず力仕事だね、その日お兄ちゃんはうちで泊まったんだ。
私はまだ信用してなかったから見張ってやる、なんて思ってたけど
結局寝ちゃって、久しぶりに朝までぐっすり」
「……あれ、力仕事は?」
「してたみたいだよ。
真夜中に嫌がらせ目的でやってきた借金取りたちを
誰にも気付かせないで叩きのめしてたらしいから!」
どうしてか。
やっぱりな、という生暖かい(一部熱い)視線に晒されたシンイチ。
耐えきれずに彼目線での事情を語る。何故か言い訳のように。
「貧乏とか食糧が足りてないとかとは別に、大人も子供も睡眠不足
みたいに見えたから……なんかあるなとは思って警戒してただけだ」
「おかしいと思ったんだよね、昼も夜もなくやってきては金返せって
怒鳴りつけてきてた人達がお兄ちゃんが来てから一度も来ないからさ」
「こいつにビビって近寄れなかったわけか」
「ううん、気持ち程度のお金を払ったの!」
「は?」
「そうだよねー?」
にこにこ、にやにや。
当事者の一人であり顛末を聞いているクララの笑顔は妙な圧力を
シンイチに与えている。このまま私が全部喋っていいの、とばかり。
好き勝手脚色されそうな気配に苦々しい顔のままシンイチは口を開く。
「……最初の晩にのした連中から借金のことを聞いてその足で孤児院が
借りてる所を全部回って全部返済してきたんだよ。取り立て方法は
最低だったが借金自体は本当で利子もギリギリ法外ではなかったし」
「その日の、いえその晩のうちに全額返済?」
「おい、それ。
当然子供の小遣いみたいな額じゃねえだろ、それを一括って」
「うん、正確な金額はさすがに私も知らないんだけど、
後から色々計算してみたら、大雑把だけど300万ゼントぐらいだった」
こいつそんなの計算してやがったのかと内心呆れたシンイチであったが
その感情を視線にして隣に向ける前に顕著な反応があちこちから出てきた。
「ぶほっ!?!」
「げほがほっ!?!!」
「300万ゼントっ!?!?」
「うっそでしょっ!?」
同じ車両にいるファランディア経験者たる地球人達が一斉にむせたり、
絶句するような悲鳴をあげた。そして全員が似たような驚愕顔をそれぞれの
席から覗かせながらシンイチを見ていた。。
「……そっちの通貨だからいまいち分かんないけど、なんか察した」
どうやらとんでもない金額らしい。
だがそれでは我慢しきれなかった狐耳娘が一匹さらに踏み込む。
「ねえ、そこのお姉さん。具体的にそれどれぐらいのお金?」
されどそこで近くの席にいた名も知らぬ女性に声をかける辺り、
自分のやった事、を語るシンイチに信用が無いのが窺える。
「え、ええっと……困ったわね。あっちとこっちじゃ物価は勿論だけど
生活費の範疇が微妙に違うから一概には言えないけど……そうね。
一般人の一家四人が標準的な施設や防備が揃った街で贅沢せずに
暮らした場合、3年~5年ぐらい生活できる金額かしら」
期間に開きがあるのはケガや病気、災害等で緊急的に大金が必要な場合を
想定しての揺らぎであるという。
「……思った以上にとんでもない金額だな、おい。
なあ日本でそれやろうとしたらいくらかかるんだ?」
「ちょっと調べてみたけどだいたい家賃抜きで一月30万とちょっとかな。
だから一年で360万円ぐらいでそれが5年だから……1800万円!?」
特異な血筋とはいえ感覚は庶民なトモエとリョウからすればとんでもない金額。
それを恩人とはいえ出会ったばかりの人達の借金返済のために支払った。
思い切りが良すぎる。こいつ金遣いでも躊躇いがねえ、と半分呆れ半分感心の
視線が向けられる。そんな二対及びさらにその外からの「マジかお前」とでも
言いたげな目にさすがに耐えかねたシンイチはこう反論した。
「……気持ち程度のお金ってことは好きなだけ払っていいってことだろ?」
「曲解にもほどがある!?」
だが当然誰にも受け入れられなかった。
同じ事を実際にマーサに言って説教されたのを知るクララだけはクスクスと
笑っているが。
「そ、そもそもちょっと高く見積もり過ぎだ!
あっちの生活費はもっと安い。一般家庭に通信費、交通費は無いし、
光熱費や水道代の類はおおよそ魔法で代用が可能だから──」
「ああっ、あれね『生活魔法のススメ』!」
「──っ!?!」
日本円換算はもっと低いと主張しようとした所に割り込んだのはミューヒに
声をかけられた女性だ。もっと言えばマスカレイドによる救助時にその魔法の
デタラメな腕前に心底引いていた人物でもある。
「えっと、それはいったい?」
「1年ぐらい前にファランディアで広まった一般人向けの魔法教本よ。
生活に根差した魔法が、超初心者でも使えるようになれる手順やら実際に
どう使うかの例がイラスト多めですっごく分かりやすく記されてるの」
「うんうん、本当にそう!
実戦向けの魔法が全然ダメな私があっさり使えたぐらいよ!
おかげで日常のあれこれが楽になること、楽になること」
「旅生活でも頼りになるしね。
火種、飲み水、灯り、そういったものがちょっとした魔力で
簡単に生み出せるようになるから、荷物減って助かってる」
「あれは売り方がうまかったって知り合いの商人が言ってたな。
生活魔法が広まれば需要が減る道具とか消耗品を売る連中にあらかじめ
話を持っていって、あれば習得しやくなる物とか使えるようになると逆に
欲しくなる物とかリスト化して教えて一枚噛ませたとか」
「そういえば本の中でも個人の技量や体調に左右される魔法だけに
頼り過ぎないよう道具類もちゃんと常備しておくべきとかなんとか…」
「あれってそういう意味もあったのかよ!
道理で行商人とかがあちこちの村に配ってた訳だ」
「それだけじゃなくてな、生活が便利になれば余裕が生まれるだろ?
そうなると嗜好品とかが前より売れるようになって最終的には利益が
上がるって寸法で、実際そうなったらしい」
「本当にうまいことやったのね」
下手をすれば客を奪われたと敵に回りかねなかった相手をまず味方に
する事でより広く、多くの人に渡るように手配した手腕に感心する。
そんな彼らの中で誰かが一人ぼそりと、だがどこが感慨深く呟いた。
「……そのおかげ、なんだよね」
「うん?」
「え、あ、その、考えてみればさ。
監禁されて、ろくに食べ物がなくてもなんとかなったのはクララちゃんの
頑張りもあったけどこれで水だけは確保できたのが大きかったなって……」
「あ…」
これに否を口にする者は誰一人いなかった。
全員が深い、深い同意の声と頷きを返して、顔も知らない著者に感謝する。
中には祈りを捧げだす者やもう足を向けて寝れないとまで叫ぶ者まで。
「ふふ、だってさ」
「…何がだ」
「べっつにー?
ただウチもあれでかなり助かってるから著者の謎の魔導学者セレネさんとか
無料配布してくれた孤児院ギルド創設者にして謎の資産家リリーさんには
ありがとう、って言いたいだけ」
「………そうか」
当初どこか不機嫌そうだったシンイチはその感謝に顔を綻ばせて
優しくクララの頭を撫でる。その感謝にこそ感謝するように。
「えへへ─────で、話は戻るんだけど」
「おい」
しかしそれで話を終わらす気はこの腹黒い少女には無かったらしい。
「あれ、こいつが借金チャラにして終わりじゃないの?」
「あのな、先に言っておくがチャラにしたんじゃない。
借金相手を俺に一本化しただけ、定期的に返済してもらってるぞ」
「あ、そっか。
ただ肩代わりすると孤児院の人達が気にするだろうしにゃー」
「なるほど、いわれのない無償の施しは良くないとも聞きますし、
後々のことまで考えての気遣い、さすがです!」
「…………」
「あははっ、お兄ちゃん見抜かれてるよー?」
「ぬ、ぐっ」
積極的にそうだとは言いたくないが事実その通りなので否定も出来ない。
どうしてか悔し気に唸る彼に周りは分かってる分かってるとばかりに
生暖かい(一人熱い)視線を送るだけ。
「ちなみに借金総額は膨らんだ利子分引いた額になってるし、毎月たいして
受け取らないから『返済させる気があるのかい!』ってマーサさん目を
吊り上げてたよ?」
「…あるに決まってるだろ。
毎回突然やってくる俺に寝床と食事を提供してもらってる分も引いてるぞ」
「それには『ウチはどこの高級宿なんだい!?』って頭抱えてたけど?」
「ぶっ」
「あんたねぇ…」
あからさま過ぎると吹き出す者や呆れ声ながら暖かな視線を向けてくる者。
これに妙な辱めを受けた気分になったシンイチはそっぽを向いてしまう。
「べ、別にいいだろう。決まってないんだから好きに払っても。
ガキども相手に騒々しい食事とか寝泊りとか、何か逆に落ち着くんだよ」
「それは嬉しいけど、ぶっちゃけウチは何もかもお兄ちゃんのおかげで
やっていけてるんだよ? チビたちだって懐いて待ってるぐらいなんだから
宿泊代なんて別にいらないのに」
「そこはほら、礼儀というか感謝を形にというか…」
視線だけは誰もいない場所に向けられているが照れ臭いのが頬の色で丸分かり。
周囲は微笑ましいものでも見るような空気が広がり、シンイチは余計に
羞恥心で震えていた。
「ふふ、クララさん、そろそろ続きを。
…いま仰った、何もかも、の部分を聞かせてもらっても?
どうやらシンイチさんは借金以外の問題も解決したようですね」
それにクスリと優雅に微笑んで令嬢は、だが興味津々とばかりに熱のこもった
声と視線で促す。クララは満面の笑みで─この人手強そうだと思いながら─
頷く。
「うん!
と言ってもお兄ちゃんはまーたお気持ちのお金と力仕事したんだけどね」
「というと?」
「孤児院ね、貧乏なんだけど土地だけは結構広かったの。
でもそこは町外れで何を植えても実らない不毛な土地だから今まではぜんぜん
有効活用できなかったんだけど、じつは特定の植物だけは爆発的に育つ特殊な
土地だってお兄ちゃんが教えてくれてね」
「……大昔の開発や災害の影響に時の流れが合わさって偶然そんな土壌に
なっていてな。普通に戻すのは難しかったんでそのままでも育つ植物の中から
金になる奴を育ててみないかと提案したんだよ」
「ステラってお花で、水色の花びらが可愛いんだ……むかつくことに」
「へ?」
「ううん、なんでも!
確かなんかすっごいお薬の原材料になるんだって」
「へぇ……ん、ステラ?」
はて、どこかで聞いたような。
幾人かが花名を訝しんだが思い出すより周りの反応が早く、激しかった。
「そ、それって葉や根はもちろん、花びらも蜜も茎も全部が現代魔導薬学で
様々な薬の材料になってるっていう花よね!?」
「聞いたことあるわ。
そういう花だから需要は高いけど確か根付かせるのがすごい難しくて、
すぐ枯れてしまうからめっちゃ貴重で宝石より価値があるって…」
「アースガントですら自生してる地域を保護して数を確保してるとか」
「そうそうそれ!
後から知ってそんな貴重なお花の種をどうやってあんなに用意してきたのか。
必要な道具もだけど、保管する小屋とか栽培用ハウスとか後は販売ルート?
そういうのの伝手とかもぜーんぶ用意しちゃってさ」
いったいいくら使ったんだろうね!
借金に加算されてないからマーサさんも知らないんだよね!
となぜか満面の笑みを浮かべながら暴露する少女にシンイチは全力で
そっぽを向いている。
「ふふ、その後も私達と一緒に土地を耕したり栽培環境を整えたり、育て方も
みんなにしっかり教えてくれて……今ではウチの主な収入源で、おかげで
毎日ちゃんとごはん食べれてるよ、ありがとねお兄ちゃん!」
「あ、あぁ……」
車内の壁を見詰めているような姿勢のまま彼はどこか気の抜けた声を返す。
しかし。
「………素直に受け取るのは照れ臭いけれど、やったことは事実だし、
クララちゃんの感謝の気持ちを否定するのは違うから生返事で濁そう、
ってところ?」
「人の心情を勝手に解説するな!?」
学園勢にはもはや見慣れた反応のようにさえ思えるものだったので簡単に
胸中まで見抜かれていた。ただこれに叫んだ彼の顔が赤いのはどちらが原因か。
それは彼とほぼ初対面の地球人達が何か納得するように微笑ましい笑みを
浮かべたのが答えであろう。




