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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
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三界交流会(仮)になってた・前編




「マーサさん! みんな!」


「っ、クララ!」


飛び込むように扉を開けた少女(クララ)はそこに見知った顔が並んでいるのを見つけて

一気に目を潤ませるがそれがこぼれ出るより先に、今度は本当に飛び込んだ。

受け止めたのは同じように瞳を潤ませた全身ふくよかな女性─マーサ。


「よ、良かった! みんな無事でっ、ぐすっ」


「全部クララのおかげだよ。よく頑張ったね、ありがとよ」


「ううっ、マ、マーサさん、わたっ、わたし……あ、あああぁぁっ!!」


「あらま、急に泣き虫になって……偉かったよ、よくやってくれたね」


彼女は泣きじゃくる少女をしっかり抱きしめながら優しく頭を撫でる。

何度も何度も褒めて感謝しながら、もう大丈夫だと伝えるように。

その様子を他の救助された面々も見守っていたが大半がもらい泣きして

涙ぐんでいる。それは何も彼らだけではなかったが。


「あぁ、なんかダメ、あたしも泣きそう」


「ううぅ、ぐすっ、はい。

 無事に再会できて本当に良かったです…」


「うん、そうだね……ボクらはちょっと席外そうか」


今しがたクララが通り過ぎた扉の近くで推移を見守っていた三人の女生徒達は

全員連れ立って、けれど静かに外に出た。そして彼女らの視界にまず映ったのは

遮るものが遠くの都市防壁ぐらいで建造物の屋上が並んでるだけという光景。

ガレスト都市の特徴から、皆が立つその場もどこかの屋上であると分かる。

ここは学園に一時貸与されている大型宿泊施設。その最上部。

広々とした空間は今や診療所と病室、処置室等が併設された小さな病院と

化している。外部からの補給物質の一つである軍用ホスピタル・ユニット、

ガレスト製の野外病院用施設型コンテナを展開した光景がそこにある。


「お、ルオーナまでいるってことはあの子、連れてきたのか?」


「リョウ?」


病室コンテナから退室した彼女達を出迎える形になったのは今しがた屋上に

来たらしき少年(リョウ)


「うん、少し前に空腹で目が覚めてね。軽くだけど食べさせてから、

 あたかも救出の一報がいま入ったかのように告げて連れてきたのにゃー!」


「お、おう、そうか……なあそれって」


「ええ、すごく誰かさんみたいなやり口」


「やりますねミューヒさん」


当人の健康と心情を考えてのことであるのは分かるが絶妙に方便を使って

都合よく誤解させる手法は全員の脳裏に同じ人物を思い浮かばせる。

意図的だったのだろう。ミューヒ自身はいつもの笑顔を崩さない。


「はぁ、まあ別にいいか。

 一応確認なんだが、ここ揺れたり傾いたりしなかったよな?」


「は? あんた何を、ってそっか。

 下の構造組み換えるの手伝ってたんだっけ」


「家具の移動とか固定機を外すとかの力仕事だけな。

 あとはブラウンの野郎がパズルみたいに動かしてあっという間だった」


ガレストの建造物が小さなブロック型資材の組み合わせで構成されているのを

実感したと話すリョウ。どうやら彼は作業終了に伴い、念のために屋上で

異変が無かったかの確認をしに来たようだ。尤もトモエたちの気付いてすら

いなかった反応から大丈夫と察したが。


「問題は無し、と。

 これで最上階のスイートを通らねえと屋上に出れなくなった。

 一応この後はオレが下で見張っとくよ」


「ご苦労様です。そしてお願いします。

 少なくとも今はまだ彼らの存在は秘匿しておく必要がありますから」


「だよねー」


あはは、と笑うミューヒだがそれが苦笑いに近いものだと誰もが気付いている。

彼女ですらこの問題は頭が痛いと感じているのだろう。オークライでの前代未聞

な一連の事態から続いて発見された、別ベクトルの厄介さ。

それこそがこんな場所に野外病院を設置した理由でもあった。


「顔つきと気配で察したが……地球人ばっかだもんな」


「ええ、何の準備も根回しもなく公になれば大騒動ですわね」


「信一が難しい顔するわけよ」


第三の世界。その可能性が世間に露呈するだけならいい。

その実在性が高まっただけならいい。問題はその世界からガレストへと

地球人を誘拐し監禁してしまった点だ。しかも犯人は今の所ガレスト人のみ。

非難と責任追及がいったいどこに集中してしまうかは自明の理。それにより

反ガレスト主義が盛り上がり地球・ガレスト間が関係悪化するのは避けたい。

そんな共通見解から仮面と政府は隠匿の段取りを事前に済ませていたのである。

中でも保護拠点をここにしたのは一番都合が良かったからに他ならない。

人気が無くなった、されど軍や政府の人間だけは動いている都市の内部で彼らの

大部分に対しても隠匿しながら保護や治療、聴取で人の出入りが激しくなっても

注目されない場所が必要だった。事件に巻き込まれ、されど初動を対応し人々を

救った学園勢。彼らに貸与され、駐留している宿泊施設はまさに打って付け。

何せ政府が何かしらの配慮をしたとしても誰も不自然に思わない。しかも一部の

教員や生徒は事情を把握しているのだから好都合。仮面からしても完全に信用は

していない政府より仮面寄りの人員が掌握している場所の方が安心できる。

そんな理由もあった。


「でもよ、つーことはあの嬢ちゃんは…」


「そういうこと、なんでしょうね」


「思い返してみればシンイチさん、一度も明言していませんでした」


「つまり知ってて隠した。理由は……多分本人も知らないから、かな?」


されどそのために彼が濁した事実に皆、勘付いてしまっていたが内容を鑑みるに

軽々しく当人や周囲に聞ける話ではない。自然と全員が沈黙を選択する。


「ん、お前達どうした?」


「あ、ドゥネージュ先生…とヒューイック先生でしたよね?」


そこへかけられた声。

診療所コンテナから出てきたフリーレ、ともう一つの人影。

地球人向けに白衣を纏う馬耳のガレスト人女性が楽し気な笑みと共に手を振る。


「はぁーい、教え子さんたち。そんな所で集まって何の相談?

 良ければこの凄腕ドクター・サンドラお姉さんも混ぜてくれない?」


「……サンドラ、気色悪い猫なで声をうちの生徒に向けるな。

 お前らも医師として以外では決してこいつに気を許すなよ!」


「「「「あ、はい」」」」


サンドラ・ヒューイック。

この場の医療関係者のまとめ役として派遣された医師でフリーレとは旧知の仲。

最初の紹介時に受けたそんな説明に驚き半分納得半分だったのは彼女の名が

医療界及び電子工学界では知られたものであったからだ。ただあのフリーレが

雑に扱う態度、あるいは今しがた見せたようなわざとらしい軽さに色々察して

適切な距離を取るようになっていた生徒達であった。


「あら残念、思ったより仕事がなくて暇だから遊ぼうと思ったのに」


「そういうところだ……まあお前が診てくれるというのは有り難かったが」


「仕事はちゃんとするわよ、知ってるでしょ?」


「だからお前は始末が悪いんだっ」


保護した面々の診断を行ったのは彼女だ。深刻な負傷も病気は見受けられず、

栄養失調と疲弊を除けば問題はないという診立てに皆は安堵したものだ。

ただ彼らが少し前に強引に回復させられたような痕跡は気になったらしいが

誰が救出したかを全員が知っているので流していた。


「それでお前達はこんな所で何を?」


問われた彼女達はそれぞれの行動を報告するとフリーレは納得したように頷く。


「ん、そうか。よくやってくれたな。

 しかしすまない、結局お前達生徒を働かせてばかりだ」


「お気になさらず、これも義務でしょう」


「それはお前や私だけだが……そういえばパデュエール、サーフィナ、彼らに

 どこまで説明できた?」


「はい、だいたいのことは説明できたかと。

 クララちゃんの保護から救出に動くまでの経緯は大まかにですが」


「ガレスト関連はわたくしが。

 未知の異世界たるこの地の概要と地球との交流が始まっていること。

 後はこのオークライの現状と今後の簡単な予定は伝えられました」


「皆さん、びっくりするほどすんなり理解してくれました。

 監禁されてた所で見聞きしてたのもあったんでしょうけど……やっぱり

 一度未知の世界に迷い込んでそこで何年も生きてきたから、ですかね」


「確か次元漂流したのが10年以上前の者が大半という話だったな」


「自己申告通りなら……まだ正式にお名前を聞いていないので

 未帰還者リストとの照らし合わせは出来ていないのですが……」


言葉を切りながら目でもう少し後にしたいと訴えるアリステル。

まだ救出されたばかりの彼らを休ませてあげたいという心遣いだった。

これに頷きかけたフリーレであったが、快活な待ったがかかる。


「───そういえば、ちゃんと名乗ってなかったね。失礼したよ」


「お姉ちゃんたち、ここにいたー!」


振り返れば病室コンテナからふくよかな女性が出てきた所だった。

少女(クララ)を伴っている姿は見た目は似ていないのにまるで母娘のよう。


「あなたは……」


「クララ共々助けてもらっておいて、挨拶が遅れてすまないね。

 長いこと本名を名乗ってなかったから、ついいつもの調子で…」


丸い顔に人好きな笑みを浮かべながら謝罪した彼女はそこで背筋を伸ばし、

フリーレ達ときちんと向き合いながら久しぶりに自らの名を口にする。


「私は倉橋真麻、あっちだと簡単にマーサって名乗っているよ。

 20年ぐらい前にファランディアに迷い込んで、何の縁があってか。

 今はデザールって街で孤児院の院長をしてるしがないオバサンさ」


「クラハシ マアサさん……確かに未帰還者リストに名があります。

 行方不明になった時期と当時の顔写真との一致も確認しました。

 間違いなく当人です」


「おやおや、今の今でかい?

 聞いた以上に便利な機械だね。まるでSF映画の世界だよ。

 まあ翻訳機とやらのせいで下手な吹き替えっぽく見えてそれはそれで

 映画っぽいけど……あれはやっぱり慣れるしかないのかい?」


「はい、残念ながら」


それは有名な翻訳機あるあるであった。

口の動きと発音が明らかに違うため向かい合って会話すると違和感を

覚えてしまう者達が双方の世界で一定数存在していた。なまじ現実でのことで

あるため吹き替え作品に忌避感が無い人達でもその『一定数』には入るという。


「一応、適切な唇の動きを映像で被せて見せるタイプもあるんですけど、

 あれは双方が装着してなきゃいけないし、値段が新車並で……」


「あれま、それは迂闊に手が出せないねぇ」


納得といった感じで闊達に笑う姿は少し前まで監禁されていたとは思えない。

初対面なのにどこか懐かしく、自然と警戒心を解く朗らかさがあった。


「ところで、何かありましたか?

 要望があれば出来る限り応えたいとは思いますが何分状況が…」


「いえいえっ、とんでもない!

 よくしてもらってるよ、そこのお医者様方も丁寧に対応してくれたし、

 お嬢さんたちの説明も分かり易くて、これで文句言ったらバチが当たるよ」


そんな評価に自慢げに胸を張る医者と照れる生徒。

前者は親友に肘打ちされ、むせたが犯人(親友)は無視して「では?」と促す。


「いやね、さっきも言ったけどこの子共々助けもらったお礼をね。

 本当に……助けていただいてありがとうございます」


「みんな、ありがとー!」


そういって共に頭を下げる二人の感謝を大人たちは穏やかに、子供達は若干照れ臭そうに受け取る。


「はい、感謝は確かに。

 ですがお気になさらず、当然のことをしたまでです。

 それでもというならどうかその子と彼、ナカムラに言ってあげてください」


「当人めっちゃ恥ずかしがりそうだけど」


「あれだけ動いてなさっているというのにご自分が評価されることを

 微塵も想定していないのは未だに不思議な所ですが」


「いやいやアリちゃん、あれは単に『自分』の順番がおかしいだけだよ」


「そこが問題だ。教師としてどう矯正すればよいのやら……」


やいのやいの。

彼の話題に各々意見を言い出すメンツを女医と男子生徒が一歩引いて

微笑と苦笑を見せている。これに目を丸くしたマーサとクララは互いを見合って

どうしてかクスリと笑う。クララの方は若干、不満げでもあったが。


「……ええっと、なにか?」


その視線に気付いたフリーレの問いに、マーサは小さく首を振る。


「いえ、ただ、あの困った子の事を解ってくれる人がいてホッとして。

 彼はどうにも子供以外とは関係の構築が下手くそでしたから…」


「あぁ」


「マーサさん、お兄ちゃんは下手というか。

 ちゃんとしようとすると緊張して頭回らないタイプだと思うよ?」


「…ああぁ」


前者はもちろん、後者の評価も千羽姉弟相手に見せる右往左往感を見知る者は

大いに納得していた。


「だから意識してない相手をたまに引っかけてくるんだけどねぇ」


そこに付け加えられたクララの一言は彼女の若干不機嫌そうな視線と共に

女医を除いた女性陣に向けられていた。幼くとも女の勘は鋭いという事か。

尤も大半が自覚の無い者のせいか反応は鈍く、少女の目は半眼となった。


「あの天然すけこましめっ!」


「クララ!?」


「デザールなら火が付く前に消せたのに!

 宿屋の女将さんにお局役人、出戻り騎士、近所のシングルママさん達!

 私が何度もっ、あの手この手で燃え上がらないようにしてたのに!」


「ク、クララ……あんたそんなことしてたのかい」


「だっていうのにあちこちで無頓着に変な女の影ちらつかせて!

 何よ、鬼人族の長って!? 話聞いてるだけで向こう絶対気があるじゃない!

 そのうえ神獣の従者に大国のお姫様まで引き連れてきて!!

 しまいにはメイドさんたちともイチャイチャしてぇっ!!」


思い返すだけで腹立たしいとばかりに地団太踏みながら叫ぶクララをどうどうと

宥めながら苦笑するマーサ。これに「そっちでもか」と自分を棚に上げて

同じく苦笑する女達である。それを眺める女医と男子生徒はそれぞれで意味は

違ったが同じように天を仰いでいた。


「す、すいません。騒いでしまって。

 クララはうちの子達の中で一際シンイチを慕っているもので…」 


「あはは…なんとなくわかります。

 色々困った所はありますが、そばにいると安心できる男ですから」


そうなるのも当然でしょう、と本人としては─無自覚な─妹的な立場から

発言したつもりのフリーレであるが柔らかに微笑みながら彼を評した顔は

違う印象を周囲に与えている。特にそれで察したマーサは開いた口が塞がらない。


「………あ、安定の年上キラーっぷり、本当にあの子はっ」


「ん? あの、いま何か仰いましたか?」


「はいはい、そこらへんも含めて後はそっちで聞かない?」


どこか楽しげに顔をにやつかせながら女医サンドラが指し示したのは屋上の

一角に用意されたテーブルとイスが並ぶ休憩スペースだ。彼女が言い出したため

一瞬怪訝な顔になったフリーレだが、その理由は真っ当であった。


「お嬢さんに気分が落ち着く飲み物でも振る舞いたいし、

 医者として、彼女達を立たせたままっていうのも、ねえ?」


「あっ、す、すいません気が回らず!」


不調法を平謝りする女教師に大丈夫だと朗らかに笑うマーサ。

その後、学園勢の簡単な自己紹介を交えながら場所を移動し、

全員でなんちゃってティータイムを始めるのであった。




「────あ、これもおいしい! 果汁を集めたのとは全然違う!」


「そうかい、それは良かったよ。

 ふふ、故郷のものを気に入ってもらえるのはなんだか嬉しいねぇ」


休憩スペースはそもそも生徒達が用意したものだった。

救出されたのに外に出れない彼らを慮って少しでも開放的で落ち着ける場所を

用意できないかとホテルの備品やらを運び込んだのだ。ドリンクバーも完備され、

クララは様々な地球の飲み物をちょっとずつ味わっては楽しんでいる。


「私も……まさか日本茶を味わえる日がまた来るなんてねぇ…」


どこか感慨深く語るマーサは一口、二口、懐かしい味を丁寧に堪能していた。

まるで余程貴重で高価な飲料を飲んでいるかのようだが値段で表せばそれは

100円にも満たない代物である。改めて、生来の世界からいきなり

切り離された者達の悲哀と望郷の念を感じ入ってしまう。


「……ここは皆さんに開放してあります。

 地球産の菓子類も用意してあるので好きに……いいんだよな?」


「ええ、暴飲暴食しないで頂けるのなら大丈夫です、ご安心を」


「気遣い、感謝するよ……道理であの人見知り坊やが認めるわけだ」


「はい?」


「ふふ、シンイチ(あの子)が好きそうな人達だってことさ」


どこかいたずらな笑みでそんな評価を口にするマーサ。

クララも不貞腐れた顔をするものの否定しなかった。一方そう評された面々は

別々の表情──照れ(トモエ)喜色(アリステル)微笑(フリーレ)苦笑(ミューヒ)怪訝(リョウ)怯え(サンドラ)──を浮かべる。

これにマーサは笑みを深めるのだから予想の範疇だったらしい。


「あなたにそう言っていただけるなら少し、安心します。

 ナカムラが敬っている方からのお墨付きはありがたい」


「え!?

 ま、まさかシンイチ、あなた方にも妙に持ち上げた紹介を!?」


「うん、してたよー。

 豪快ながら子供達を教え導く立派な人だとか!」


「おい、ルオーナ」


何も言わなくともと軽く咎める視線を送るフリーレの前でマーサはため息だ。


「はぁ、まったくあの子は……本気で言ってると分かるだけに面映いよ。

 私は見ての通りのただのしがないオバサンなんだけどねぇ」


などと言って片手で顔を覆うマーサ。

隠された表情に僅かな照れが浮かんでいるのを隣から覗く少女が見て微笑む。

その表情がまたとない評価(答え)でもあったが微笑ましいので誰も指摘しなかった。

だから当人だけが気付かずに言葉を続ける。


「そりゃね。伊達に長いこと孤児院やってないさ。

 いくらか手慣れてはいるよ。でも誰ひとりとして同じ子はいないんだ。

 内心びくつきながら手探りでその子その子に届くよう手を伸ばして四苦八苦の

 毎日さ。教え導くなんてそんな偉そうなこと考える余裕もないよ」


だっていうのにあの子は、と過度な評価に困り顔とため息。

謙遜、というよりは本気でそうとしか思っていない様子であった。

尤も彼女の養育下で育った隣の少女は満面の笑みで周囲に一言。


「ね?」


否、一文字で充分だった。

その顔には言葉にしないまでも自分達の保護者を自慢する色がある。

マーサの発言が出任せや口先だけではなく子供に、少なくともこの少女には

きちんと届いている証左であった。


「なるほど、納得しました」


「アリちゃん?」


「まさに、シンイチさんが好きそうな人、ですね」


「ははっ、確かに」


どこがどうと言い切るには彼女らはまだマーサと見知り合ったばかり。

されど感じるのだ。シンイチが大事に思う事を彼女は自然と大事にしていると。


「あの男が好みそうな相手、ね……ふふ、それじゃお嬢さん?

 さっきの怒りっぷりからすると君は“彼のことが好きな女の子”かしら?」


「まあね」


誰かが「子供相手に何を」と言い出す前に当人があっさりと認めた。

それもなぜか不敵な笑みを浮かべながら自信満々と胸を張って。

半分が唖然。残り半分が“知ってた”と苦笑する中にんまりと笑う女医。


「あら、それじゃ気が気じゃないわね。

 あなたの言葉通りなら彼はたいそうモテてそうだもの」


「ううんぅ? お兄ちゃんはモテてるっていうのかな?」


「違うの?」


「どっちかっていうと……普段はアレなのにやると決めたら徹底的!

 な人だからやってもらった側が忘れられなくなってるだけじゃない?」


まあ私のことだけど、と付け加えて意味深に微笑むクララ。


「あら、大人な意見ねぇ」


それは幼い少女が大人ぶっているようにも。

どうにもできない感情を皮肉ったようにも聞こえた(見えた)

サンドラ以外は『思い当たる節が』という微妙な表情を浮かべていたが。

それを気付いてか気付かずか少女の顔からふっと力が抜けて肩を竦める。

そして。


「ま、超優良物件ではあるから私が一桁台の(・・・・)夫人(・・)を狙うのはどの道、無理だけどさ」


「…は?」


何か、よく分からない言葉を発して全員の表情を固まらせた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 弁明が今までで一番の難敵かもしれんぞ笑
[一言] まあ入学してから3か月たってないのに4人ですからねえ。2年もいれば軽く2桁行きますよねえ…
[良い点] 一桁台の夫人 一体何桁の夫人までいるんだ! [一言] 更新ありがとうございます
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